#2 セーラー服と聞かん坊。


「ああっ!あなた達はッ!?」


 驚きのあまりついつい声が出てしまった。だって、セーラー服姿でそこにいたのは…。


「何…、やってんですか?美晴さん、尚子さん」


 待ち構えていた感じの二人に問いかけた。


「何…ってお前を待ってたんだよ」

「学校内での護衛ですわ」


「いや、なんで制服?」


「高校の中だからな」

「制服を着ていた方が違和感が少ないですわ」


「いや…、むしろお二人が制服着てる方が違和感が…」


 僕は力無くそう言った。



 午後までフリーになったのでとりあえず食堂で早めの昼食を摂り、すぐに寮に戻った。


「ここがシュウの部屋か」

「警察寮と広さ的にはそう変わりませんわね」


 セーラー服姿からいつものスーツ姿に戻った二人が部屋の中を見回している。


 学校の敷地内にある寮は建てられた当初は別の目的で作られたが、今は男子生徒がいない世の中。学校の統廃合も進み以前より遠方から入学する人もいるとの事。そんな訳で公立校でも寮生活を希望する生徒も少なくないそうで、空き教室の有効利用を兼ねて寮に改築したのだという。


 僕の記憶では十五年前には寮は無かったし、ここは多目的館とか呼んで和室では茶道部が活動していた記憶がある。


「これは…、フローリングとは違うみたいだな」

「ええ、正方形のマス目に板を埋め込んだみたいな…」


 二人は床が珍しいのか熱心に眺めている。僕は小学校からずっと公立校だった。昭和に建てられた学校はこういう床材が使われている事が多いからあまり珍しい感じはしない。


「それにしても…」


「ん、どうしたシュウ?」


「いえ、この床じゃ硬いし冬とかは寒そうだからどうしようかなと。カーペットとか用意した方が良いかなと」


「なるほど。そうですわね、体を冷やして風邪をひいてもいけませんし」


「ん?床が冷えるならベッドにした方が良いんじゃねーか?」


「うーん、家にはベッドがありますしねえ。さすがに二つは…」


 そういえば自宅はどうなったんだろう。僕はふとそんな事を思った。


「ベッドじゃないのか…。そうなると…」

「床に座った状況からいかにさりげなく修さんに…」


 美晴さん達が何やら呟いている。


「二人ともどうしたんですか?何かご自分の世界に入っちゃったみたいに…」


 僕がそう声をかけると二人はビクッと体を震わせて反応した。


「い、いやっ!?何でもねーぞ!」

「そ、そうですわ!」


 なんだろう、いかにもあやしい…。


「な、なあ、シュウ?護衛でこの部屋に来た時だけでも制服着ちゃダメか?」

「そ、そうですわ。スカート…、これが大事ですの」


「すいません、意味が分からないんですけど…」


 その後もしばらく制服着用を巡って交渉が続いたが、生徒以外に着用したらダメでしょうと正論を言って諦めてもらう事にした。


「くっ!汎用型はんようがた戦闘服が…」

陸戦型りくのブルマ、水中戦型みずのスク水、そして汎用型の制服セーラー…、全て使えるのがこの学校というフィールドですのに…」

「ああ、パンツスタイルのスーツだとナマ足見せられねえ…」


「ちょっと何言ってんだか分からない」


 そしてそれからしばらく謎の制服着用を訴えるプレゼンは続いたのだった。

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