願いの叶う少女の独白

AILRA

最初で最後になるかもしれない独白

 心地よい風の吹く初夏、私は住宅街の道路わきを気分よく散歩していた。

 今日は日差しも厳しくない、そして自分を優しくなでるような風が愛おしくて仕方がなくつい、愛を囁くようにその言葉を口に出してしまう。

 それはとても荒唐無稽で、理解されないものだった。


 ――風よ吹け。


 なんて中二病みたいで恥ずかしい言葉を。


 ヒュルリ


 もし、それが偶々であったならば。いや、確実に私が風一つ起こしたなんて証拠はないのだから偶然でしかないし、そもそもこの世界はそこまで幻想に包まれていない。

 それを裏付けるように、遊びで何度か唱えても同時に吹くのは数回のみ。


 そしてその数回でなぜか疑問を抱いた私は実験をするように数度『押し付けるように』唱える。

 すると風はぴたりと止み、気づけば空は灰色の薄い雲に覆われていた。


 なんとなく申しわけなくなった私は唱えるのをやめて家へ足を向け、その日は普通に過ごすことにした。唱える、なんて頭のおかしいことを普通に受け入れて。




 ~~



 その日、私は精神状態が悪く鬱々とくだらない考えても仕方ないことを延々と考えていた。

 あぁ、どうせならいつも思うように崩壊しないかな。この前叶ったんなら叶うでしょ?



 ……当然叶うはずもなく。

 それから堂々巡りでいろいろ考えながら鬱屈とした精神状態で物語を読んでいると、物語はとても面白く逆に私は躁に近い状態になり、なぜか私はそこで「大いなる海神と雨神……いや、あまねく世界に存在する神々、主に海神と雨神たちよ。この地に大いなる雨を、大いなる風を、そしてこの地を穿たんとする雷よこの土地に降り注げ」

 

 なーんて。願ってみたりするけど息を数秒する気が起きないほど何も力を入れられなくなった以外には何も起きなかった、と思っていた。

 記録的台風襲来のニュースを見るまでは、少なくともそう思っていた。

 そのニュースを見た瞬間体の血すべてが冷え切ったような感覚に襲われたが……


 というか、願っていたことを忘れていてニュースを見た瞬間思い出す体たらくである。

 すごく重大なこと願っていたのに。


 それゆえ大してこの時は重大に考えなかった。

 死人も出なかったし、そもそも記録的、とは言いつつもすでに来ることがわかっていて、進路もある程度推測のできる現代においては特に困ることは何もないだろう、と思っていた。


 あの出来事を起こすまでは。


 ~~



 台風はさすがに衝撃だったので少しだけ自粛しつつも、スコールを呼ぶことはやめられず中毒のようになっていた。ある程度自分の言う通りになるなんて面白いよね、なんて頭のおかしいことを思いながら。


 そして願ったり願わなかったりして一年程度たったある日、夢を見た。嫌に焦燥感を与える夢だ。それは何としても近づけなければいけない、とそう誰かが私に急かすように。

 夢は一度見たものを整理するもの、とまぁそれ自体は否定しないが私にとって夢の中に全く見たことないものが出るときはそれなりにある。

 正夢、おそらく違う世界の夢など。

 

 今回の正夢はとっても大事なものだった。いつもはとりとめのない日常に既視感を感じるだけだが、きっとその夢の通りになっていなければ私の家族は散り散りになり本当に底辺を這いずっていたかもしれない。

 それほど後になって説得してよかったと思えるほど、正夢の既視感にたどりついた時には私が安定する日が増えてきていた。


 そのころには願うことも少なくなっていて、思いつきでやってしまったのだ。

 私の最初で最後の、偶然を。


 このころには私はどこまで願うことができるか好奇心だけで実験するようになっていた。むしろ質が悪くなったと思う。


 ある日、そのアーティストが目についた。曲は有名なのにサイトではそんなに再生されていないよな。ファンは多いと聞く。でも、謡われていない。

 なぜ、彼を選んだのだろうか。私は彼の曲が好きだったというのに。今でもわからない。けれど好奇心は怖いのだ。猫を殺せるのは本当だろう。


 たまたまその時似たような能力を持つ登場人物を気に入っていたところだった。ここまで来ても中二病は治っていなかった。

 

 私は彼の赤い糸を感じることができた。そして傍らに感じる断ち切り鋏。


 そう、私はこれで遠隔で人を殺せないのだろうか、と思いついてしまった。


 彼の赤い糸は抵抗なく切れると、後ろ側が青くなっていった。どことなく切ったのにくっつきそうだったので私はその糸を私に取り込むことにした。

 後半が意味があったのかはわからない。


 メッセージアプリニュース欄で知ることになった。


 彼の死を。


 すごい虚無感に襲われ、しばらく私は不安定になった。


 テレビニュースに乗るほどの傑物だったらしい彼。本当にたまたまなのか? 一応病名はついているらしい。不自然なのかも私にはわからない。

 それをたまたまとするには出来すぎていた。これまでの雨風。夏の網戸から入る願い風。そして何度も呼んだスコール。



 私にはわからない。なぜなら証拠はないし。中二病、うぬぼれ、考えすぎ、であればいいのになと何度も考えた。それでも彼が死ぬには若すぎた。まるでリャナンシーにさらわれたように彼は死んでいった。

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