第65話 愛に塗れた男2
「父親………? あなたが水蓮寺遥さんのお父さんなんですか?」
「ああ、そうだよ。苗字が違うから違和感があるかもしれないが、俺は遥の実の父親だ」
京極昴弥はすっきりとした笑顔で、そっけなく衝撃的な言葉を告げる。その瞬間に、周囲は再び驚嘆の声に包まれた。
「嘘……、京極昴弥って結婚してたの!? それで、子供もいるなんて全く知らなかった…………」
「子供がこの学校に通ってるのか? 衝撃すぎて全く信じられない………」
「今まで私たちに隠してたのね。正直、びっくり……。でも、そんなミステリアスな彼もかっこいい!!」
ショックを受けても、ファン達はロスにもアンチにもならず、最終的には京極昴弥を褒め称える者ばかりになっていた。
結婚しようが、子供がいようが人気であり続ける圧倒的な魅力。これが、日本で一番愛されている男の力か。俺もすっかり思考が停止して、呆然と口を開くしかなかった。
「とりあえず、ここじゃなんだから一旦車に入って貰えるかな? ファンにお礼をしてくるから、少しだけ中で待っててくれ」
「ちょっと待ってください。何の用事かも言わずに、おにいを連れて行くつもりなんですか? いくら有名人で遥さんのお父さんだからって、好き勝手していいわけじゃないんですよ」
桐葉は俺の目の前に立つと、低く震える声を必死に出しながら庇うように両手を広げた。京極昴弥は、桐葉に目を向けるとまた頬を緩めて、
「悪かったね。君は、俊くんの妹か……。その髪と瞳の色は……、どうしたのかな?」
「髪と瞳……? 一体何を言ってるんですか?」
「俊くん、君は俺が言っていることが分かるかな? おそらく分かるんじゃないかと予測してるんだけど、どうだろう?」
端正な顔立ちを意味深に緩めながら、京極昴弥は俺を品定めするように見つめる。俺は再び衝撃を受けつつも、覚悟を決めて桐葉の肩に手を置いた。
「桐葉、この人は本当に大事な話があるみたいだ。俺は大丈夫。必ず戻るから、桐葉は先に帰っておいてくれないか?」
「おにい……。本当に大丈夫なの? 私、おにいがまたどっかに行っちゃうのはヤダよ…………」
桐葉は瞳を少し赤黒く揺らしながら、心配そうにこちらを見る。俺はもう片方の手も桐葉の肩に置き、少し膝を曲げて桐葉の視線に近づいて、
「大丈夫だ。俺は、俺の心は桐葉から遠くに行くようなことは絶対にない。約束する。だから、行かせてくれ。お願いだ」
「分かったよ………。おにいからそうやって真剣に頼まれたら、私も止めれないから。でもね……、油断しちゃダメだからね。危険を感じたら、すぐに逃げてくるんだよ」
「ああ、分かった。ありがとうな、桐葉」
笑顔で感謝を伝えると、桐葉は少し顔を赤く染める。俺はそこから一気に背筋を伸ばすと、京極昴弥と改めて向き合った。
「準備はできたみたいだね。じゃあ、行こうか」
「はい、お願いします!」
少し張り切った高校生の声に京極昴弥は何かを思い出したのか、完璧な顔を再度緩ませる。俺は全身に力を入れて、緊張を確かめながら高級車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます