第47話 孤独の再来
遥は俺と目が合ってしばらくしてもいっこうに喋り出す気配がなかった。仕方なく、俺は更に近づいて、諭すように語りかける。
「遥………。お前、どうしたんだ? なんで、俺に相談しなくなった? 俺は遥に嫌われるようなことをしたのか?」
「………………………」
遥は、俺の言葉を聞いても口を開こうとしない。疲れと迷いで濁ったようにどんよりとした瞳は、気怠そうに俺を見つめていた。
「遥………。ここ数日、ずっと変だよな。何かあったんだろ? なんで、俺に頼らない。俺達は二人で一緒にこの状況を解決していくんじゃないのか……!?」
「何それ……。アンタと二人? 一体いつそんな状況になったっていうのかしら? 私とアンタは部活動でのつながりはあっても、そんな個人的な関係には一切ないわ。だから、そんな風に喋りかけてこないで……。私は今、一条に構ってる余裕なんてないのよ」
「一条? 俺のことを今、一条って言ったのか?」
「呼んだけどそれが何か? というか、アンタと私が下の名前で呼び合う関係なんかじゃないんだから、苗字で呼ぶのが普通でしょ。必要以上に近づいて来すぎだし。さっさとどいてもらえる? アンタが邪魔で立ち上がれないんだけど」
水蓮寺遥は悔しさと滲みるような不快感を露わにしながら、左手でオレンジに光る髪の束をかき上げる。空白の一瞬で、その言葉の真意を理解することはできない。俺が呆然と体を固めていると、遥は……、水蓮寺は深くため息をついて自分から体を遠ざけた。
「アンタの妄想の中で、何があったのか知らないけどこれ以上私に関わるのはやめて。私達はただの部員同士の関係。それ以上でも、それ以下でもないわ」
「………分かった。水蓮寺を勝手な妄想に巻き込んで、すまなかった。今度からはちゃんと適切な距離をとって接するようにする」
「ふん……。分かればそれでいいのよ。じゃ、私は先に教室に戻るから………」
水蓮寺はそのまま立ち上がると、再び憎悪の眼差し。今までの関係は嘘だったかのように、彼女はただ俺を否定していた。早足で、校舎へと向かっていく後ろ姿。すぐに小さくなる背中は真っ直ぐに伸ばされて、颯爽としているようにも見える。だが、そのすぐ横には力が込められて微かに震える拳があった。
遥は、嘘をついている。
再び訪れた沈黙の中で、俺は淡い希望に飛びついていた。そうだ、あいつはあくまで遥だ。水蓮寺になり切って接していても、もはや今の俺は騙されることはない。しかし、なぜ遥は自分を偽ったんだ……。必死になってここ数日の記憶を思い返ても、なんの手がかりも掴めない。何が遥を変化させるように仕向けたのか、全く分からない。果てしない思考の末に俺は諦めて、ただ空を仰いでいた。
「俺は……、また一人になったのか……。これからはまた一人………」
考えたくもなかった今の状況が俺の言葉に絶望を滲ませる。真の孤独を迎えると、終わりを告げるように始業のチャイムが響き渡っていた。
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