第31話 引き戻してくれる存在
「私は、どうすれば……。これは、私だけじゃない……。みんなに起きていること……?」
考えても何もはずがない。私はただうずくまって震えていた。また、精神が揺らぐ。それと同時に私は力なく立ち上がった。
「行か……、なきゃ……。今日は、隷属部の創部するから。悠斗に会いに……、行かなきゃ……」
トイレから出て人気のない校舎をふらふらと闊歩する私。まるで、何かに吸い寄せられるかのようにゆっくりと悠斗との待ち合わせ場所に向かっていく。そして、扉を開けると退屈そうに椅子に寄り掛かった悠斗の姿があった。
「遅かったじゃないか、遥が約束を忘れたんじゃないかと思ったぞ。どこをほっつき歩いてたんだ?」
「ごめん、ちょっと色々と手間取っちゃってね……」
「じゃあ、早く始めようぜ。今日は隷属部を作るんだろ? 昨日打ち合わせした通り、まずは部活動申請をしないとな」
「うん、そうねさっさと書いて持っていっちゃいましょう!」
あれ……? また、体のコントロールが効かなくなってる……。悠斗……? 悠斗を見ていると、悠斗と一緒に過ごしていると、不思議と意識が薄くなる。段々と醒めていた心が眠たくなってくる。さっきまで……、私はなにを悩んでいたんだっけ? なんだかふわふわした気分だ。ちょっと前まで驚いて悲しんでいたはずなのに、今は楽しくて悩み事も何一つなくなっている。まぁ、いいか。今、悩み事が無いのなら深く考えたって仕方がない。とりあえず、私はしばらく寝ていよう。すっきりした脳内で心地よく意識を手放す。視界には夕日で溢れた空き教室、耳には鉛筆の微かな摩擦音。いい気分だ。ゆっくり、ゆっくり世界が閉じていく。あと少しで私が終わる。その時を知らせるかのように何かの響きが音を大きくしながら、こっちに近づいてきている気がした。
「お前ら……、探したぞ」
振り向くと人影が扉から姿を現していた。ゆらゆらと揺れ動いていた視界がその人影を捉えた瞬間に全ての記憶が取り戻される。今、私はまた消えようとしていた。悠斗と一緒に過ごそうとしてそれが楽しくて、楽で……、自分から意識を手放そうとしていた。でも……、一条を見た瞬間に復活した。この人は一体何者なんだろう? 私は単純に疑問で頭をいっぱいにしていた。体は自由にしていたからか、その場のやり取りは順調に進んでいく。それでも私は今自分に起きたことの把握に必死で会話の内容を聞いてはいなかった。私はただ一条と……、悠斗に目を奪われていた。
「…………遥!」
悠斗は私を制するように強く声を掛ける。その時の悠斗は、今までの記憶の中の姿とは全く違っていた。嫌悪感と激しい敵意をむき出しにするような目と、懐かしい仲間を見て綻ぶ口元。二つの相反する感情が入り混じった悠斗は、私には目もくれずただ一条だけを見つめていた。
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