第9話 部活動としての最低基準2

「これは……、思ったよりも急だね……。早く遥さんのところに行ってこのことについて知らせたほうが良いよね。おにい? なんでまだボーッとしてるの? 気になることでもある?」


「いや……、初めて最終勧告なんて受けたからまだ驚いてるだけだ。とりあえず、そうだな……。水蓮寺たちと合流するか……」


 自分でもどうしようもないほど大きく脈打つ鼓動の音を感じながら俺と桐葉は来た道を戻っていく。すると正面から水蓮寺と悠斗がこちらに向かって来ていた。桐葉が勧告の内容を事細かに説明すると、


「嘘……、でしょ……。昨日、今日でもう最終勧告だなんて……。生徒会は隷属部を本気で廃部にしようとしているんだわ……」


「でも、その最終勧告ってやつは部活動の最低基準さえ満たせばいいって書いてあったんだろ? 時間をかけてゆっくり探せばいいだけのことなんじゃないのか?」


「いや……、そんなに時間をかける暇もないわ。今週末からは中間テスト期間で来週には合同会議が行われるでしょ? おそらくその時に隷属部を廃部にする決議をするから、期限はあと一週間ちょっと。しかもテスト期間が始まればどんな部活動でも活動が禁止されるから、私たちに残された時間は今日を除いてあとちょっとしかないのよ…………」


「水蓮寺の言う通りだ……。俺達には時間が無さすぎる……」


 自分たちの置かれた状況を正確に認識し、絶望感で一気に静かになる隷属部のメンバー達。しかし、水蓮寺だけは諦めずに真剣な表情で策を巡らせているようだった。


「ショックを受けてたってなにも始まらないわ。私たちに残された時間は数日。ここで動かないと時間が戻ることなんてない。みんなは各自で部員を集めて。私は先生たちを回って顧問か副顧問をしてくれるように頼んでみる。できるだけ、自分の仕事に集中したいから連絡はしないでね。じゃあ、みんな後は任せたわ……」


 水蓮寺は軽く俺達をちらりと見ると、勢いよく体を反転させ駆け出していった。残された桐葉と悠斗は困惑した様子で、


「遥さん、何であんなに冷静でいられるのかな……。しかも顧問の先生たちを探す方が難しいはずなのに一人で対応するなんて……」


「そうだな……。遥は一体何を考えてるんだろう……」


 今まで自ら導いてきた水蓮寺が一人で難題を抱えたまま、姿を消した。当然、残された部員たちが動揺するのも仕方がない。しかし、今の俺は水蓮寺が何をしようとしているのかを理解できる。とにかく今は水蓮寺が望むとおりに合わせよう。俺は不安げに呟く二人に近づくと、


「水蓮寺も部長として何か考えがあるんだろう。アイツは自分でやると決めたらどんな手を使ってでも実現するやつだ。とにかく俺達は水蓮寺を信じて自分がやるべきことをやろう。じゃあ、俺は帰って誰を勧誘できそうか考えてみる。二人も明日からよろしくな……」


「え……、待っておにい。帰るんだったら私も一緒に行くよ!」


 俺は沈黙を続ける悠斗と追いかける桐葉を背に自分が行くべき道をどんどん進んでいく。そして軽く息を上げながら今晩の自分の行動を練り直す。久しぶりに憂鬱な夕方が消し飛んで気持ちが晴れやかになったように感じていた。

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