第31話 違和感

 ボーっと夕食を食べながら俺は無意識に桐葉の目を見ていた。思えば俺は最近女子の目をじっくり見ることが多い気がする。階段で桐葉と初めて目があった日から先輩、水蓮寺へ……。俺がしっかり目を見つめてしまうのは癖か何かなんだろうか? 俺がじっくり悩んでいるといつものように桐葉が不満そうに眉をしかめて、


「ねえ、おにい。前も言ったよね。夕食の時に考え事しないでよ。おにいの顔が怖くて全然ご飯がおいしく感じないんだけど」


「いや、今日に限ってはそんなつもりは全く無いんだけどな」


「あと今日私のこと見つめすぎだよ……。おにいにそんなに見られたら恥ずかしいんだけど……」


 俺は桐葉を無視して桐葉の瞳を見続ける。この前までまともに目も見れなかった俺からすれば大幅な進歩だ。これも数々の展開を乗り越えてきたおかげだろう。そういえば桐葉の瞳の色は薄い紅色だよな。髪の色と同じように変わってしまったのか……。いや、違う。先輩も水蓮寺も髪の色は派手なのに目は確かに黒かった。ということは桐葉の目の色は異変とは関係ないのか……?


「桐葉ってカラコン入れたことあるか?」


「入れたことないけどどうしたの? もしかしておにい、カラコンに興味あるとか? おにいとカラコンって……!」


 俺とカラコンというあまりにもミスマッチな単語の組み合わせに桐葉は噴き出して笑った。やはり桐葉の目は改変されているのか。でもそれなら先輩たちは……。ああ、ダメだ。考えても全く分からない。俺は考えることを止めて食事を再開する。


「そういえば役員の仕事はどんな感じ? 水蓮寺さんと二人だけど上手くやってるの?」


「あ、うん……。上手くできてるとは思いますよ⁉」


「なんでびっくりしてるの? それにめっちゃ顔赤いし。ははーん。さてはおにいなんかやらかしたんでしょ? どんな失敗したか私にも教えてよ!」


「別に、なんにも失敗してない。逆に桐葉はどうなんだ? 悠斗との仕事は順調にできてるのか?」


 俺は桐葉から主導権を取り戻そうとすました顔で問いかける。すると桐葉はなぜか顔を反らしてしばらく後ろの何も無い空間を見つめた。


「順調だけど? それがどうかしたの?」


「……桐葉お前、悠斗と何かあったのか?」


 返事代わりに桐葉の姿は椅子とともに一瞬で消え、部屋に轟音が鳴り響く。分かりやすく慌てふためく桐葉。明らかにおかしい。俺は食事を終えゆっくり立ち上がるとまだ痛がる妹を尻目に自分の部屋に向かった。



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