第28話 開かない体育館倉庫2
「アンタ達、どんだけゆっくり歩いてきたの? 遅すぎよ!」
俺達三人以外誰もいない体育館で元気な声がよく響く。水蓮寺は俺達が来るまで無意味にバスケットゴールを触ったり、走り回ったりしていたらしく制服が少し乱れて息も多少上がっていた。
「すみません。再度、体育館使用に関して先生に報告をしていたもので……。大変お待たせいたしました。水蓮寺さん、これが体育館倉庫の鍵です」
「やったー! 一条、早速準備するわよ! ほら、ボーっとしてないでさっさと来なさい!」
水蓮寺は体育館倉庫の前まで全力疾走しながら俺に指示するが俺は相変わらず体育館の入り口に突っ立っている。すると石立がまた不気味に笑いながら、
「一条さん、水蓮寺さんに準備を押し付けるのはダメですよ。同じ役員なら準備から片付けまでしっかりしないと」
怪しい。というかもはやここから先の展開なんてすでに決まっているようなもんではないのか? 石立は俺と水蓮寺でラブコメ展開を試そうとしている。俺はそれに安易に乗っかってしまっていいのだろうか?
「早くしなさい! これ以上言うこと聞かないんだったら私にも考えがあるわよ!」
俺が仕方なく体育館倉庫へ向かっている間にも水蓮寺の怒声は大きくなっている。異変のことを認知していない以上、俺が暴力を食らわずに水蓮寺を説き伏せることは不可能だ。とりあえず石立の思惑がどんなものかは知らないが、水蓮寺の膝蹴りよりはまだマシだろう。よし、それなら仕方ないな。そう決めると俺は駆け足で体育館倉庫へと向かっていく。
「じゃあ、私はもう帰りますね! お二人共楽しんでいってくださいね!」
俺が乗り気になったことを確信した石立はすぐに体育館から離れていった。これで検証の場は整ったということだ。こうなったら徹底的に利用してやるか。俺は倉庫に入った瞬間に扉を閉めた。
「…………本当に閉まったな」
さっきまで滑らかに動いていた扉が完全に動かなくなってしまった。扉が閉まったことで体育館倉庫はさっきよりも暗く暑苦しくなっていき、それに気づいた水蓮寺は俺に声を荒らげる。
「ちょっと! 何で勝手に閉めてるの⁉ 今から色々と運び出すんだからさっさと扉を開けなさい! ってちょっと……、何で開かなくなってるの?」
水蓮寺の顔からは見る見るうちに血の気が引いていく。体育館倉庫は男女を閉じ込める密室へと変化し、俺は扉を必死に叩く水蓮寺をただ眺めていた。
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