第55話 2つのメイド服
「琴葉、それ着たんだ」
拓哉が選んだメイド服は、どうやらロングタイプだったようだ。日本ではお仕着せと呼ばれる服に、男心をくすぐられる。
エプロンドレスというフリルの入ったクラシカルなロングスカートと前飾りのエプロンに、フリフリなレースのカチューシャを身につけた琴葉が、奏太の顔を覗き込むように近づいてくる。
「お待ちしていましたよ」
元々琴葉は敬語で話すので、今も役に入っているのかどうかが判別出来ない。今はそんな事よりも、琴葉が何故こんな行動をしているかの方が謎だった。
第一に考えつくものとして、奏太を元気付けるというのが最も適作だろう。だが、元気付けるのが理由ならお見舞いに来てくれなかった理由が分からない。
それに、七瀬の言う女の子の事情というのにも納得がいかない。
「琴葉…?」
「さぁさぁ、夕飯を用意していますよ!」
「おい、話を…」
「ついてきてください!」
強引に奏太の手を引っ張る琴葉の指には、以前よりも絆創膏の数が増えていた。ロングスカートを大きく揺らす琴葉に、奏太は黙ってついていく。
リビングに入り辺りを見渡せば、母の言っていた事を理解する。
「退院おめでとうございます。
「………ありがとう」
「こちらに腰掛けてお待ちください」
「………はい」
今は大人しく琴葉に従う。席に座らされ再度部屋を見てみれば、部屋中が綺麗に装飾されており、メイド喫茶と呼ぶに相応しい程に雰囲気が出ていた。
それを見て、琴葉がお見舞いに
一度は本当に付き合っているのかと疑ったが、ここまで用意や準備をしていれば、お見舞いに来れなかったのも仕方がなかった。
これも奏太のためだと考えると、口元にニヤつきを隠せない。
入院期間にお見舞いに来なかったからこそ、今こうして迎え入れた時に、以前よりも数倍可愛らしく思えてくる。
それもメイド服の効果というべきなのか、視線を向けると目に焼き付いて離れなかった。
(……しかし見事だな)
やはり美少女は何を着るにも似合っていて、それは本来そうあるべきだという常識、いわば自然の摂理のように思わされる。
抜群に似合ったメイド服に点数をつけるのなら、文句なしの百点満点を授けたい。
ロングスカートという露出の少ない服装だからこその良さというべきか、琴葉のスタイルの起状の豊かさが奏太の目を離さなかった。
エプロン越しでもそれなりに目立つ裕福な胸元に、スカートの良さを全て引き立たせる
そもそもメイド服というのは19世紀から流通され、それが現代まで引き継がれるほどに歴史と伝統が詰まった服装なのである。
それほどまでに服自体が素晴らしいので、着た本人をより魅力的に見せるのは、最早当たり前と言っていいのかもしれない。
一切の肌の露出のない、もうすぐ夏になろうとしている今着るには暑そうな服装だが、クーラーの効いた少し寒目の部屋では暑さを見せなかった。
「ご注文は何にしますか?」
衣装に見合った表情は、本当にメイドを相手している気分になる。随分と立派に出来た手作りのメニュー表のような物を渡され、その中を覗く。
何があるのかと楽しみにしながら、書かれてある文字に目を通した。
・特製オムライス
・愛情たっぷりオムライス
・奏太くん限定オムライス
3つしかないメニューはどれもオムライスだ。どんな違いがあるのか、一つ一つ気になる品ばかりだが、奏太は迷う事なく選んだ。
本当は3つ食べたかったが、琴葉に苦労をかけてしまう事を考えて遠慮した。
料理が出来ないと言っていた琴葉は、どうやらこの数日で出来る様になったらしい。今はまだオムライスしか作れないだろうけど。
「この3つ目のやつで…」
「そ、奏太くん限定オムライスですね………!」
「それで」
「かしこまりました」
頼む品を聞いた琴葉は、メニュー表を持ったまま、キッチンではなくリビングの外へと駆け出ていった。注文を聞いた時に照れていた琴葉は、前と変わらない琴葉のままだった。
一瞬頬に赤みを帯びていた気がするのは気のせいか。何をすれば良いのか分からない奏太は、琴葉が戻ってくるのを待った。
数分経った頃だろうか、ようやく琴葉がリビングへと戻ってきたのだが、その服装はつい先程前とは違った。
「それは何」
「こっちは料理する用です」
「買ったの?」
「…………料理するときはこっちの方が良いと聞きました」
奏太を出迎えた時とは違う、ミニスカートのメイド服を着た琴葉は、その露出度の高さに顔を真っ赤にし、持っていったメニュー表で顔を隠していた。
-----あとがき-----
・何か、また描写多くなってしまいました。これでも短くした方なんです。
早く次話を書きたい。
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