第46話 目覚め
「おはようございます」
瞼を開くと、こちらを覗き込む琴葉の顔が目に入った。琴葉の胸元に顔を寄せられた後、あまりの心地よさにそのまま眠ってしまった。
今は胸元から落ちて、膝の位置という所か。不可抗力ではあるものの、膝枕を体感していた。
胸元に押し付けられた時のように、顔表面を柔らかさ包まれるのもよいが、後頭部に膝があるのもとても良い。
柔らかすぎず、それでいて硬すぎない太腿が奏太には依存性を与える。さらに目線の上には、大きいシャツで隠れている立派な果実が眼福だった。
しれっと顔の向きを変えてみると、右頬に腿の弾力を感じる。顔の中央くらいに太腿の谷があり、そこが何とも言えず安心できた。
「おはよう…」
目が覚めてからしばらくした後、やっと口を開いた。安眠というものを味わった今、奏太の頭の中には平和が訪れていた。
「長いお休みでしたね」
「そんなに寝てたのか?」
「そこまで長くはないですよ。確か30分ちょっとくらいですかね?」
30分ちょっともの間、琴葉を1人にしてしまった挙句に膝の上を堪能して眠りについていた。誘いを受けた男としては、あるまじき行為だ。
そんな奏太の考えてる事などお構いなしに、こちらの顔をじっと確認してくる。
「顔色、良くなりましたね」
「………んー、まぁ」
顔色が良くなったかどうかは鏡を見てみないと分からないが、琴葉に打ち明けた事と、少し休んだ事もあり、体調的にも気分的にも良くなっていた。
「………奏太くん、私はいつでも近くにいますので、力になりますからね」
「それはこっちのセリフだ」
今日は予期せぬ事態があったので琴葉に頼ってしまったけど、奏太としてはいつでも甘えるわけにはいかない。
むしろ、奏太が琴葉を甘やかせてやると意気込んでいるくらいだ。
「奏太くんはもう、充分頼りになってますよ」
「………もっと、だな」
今日の琴葉は次々と普段は口にしない言葉が良く出る。これが母性というやつなのか、奏太は若干ながら宥められているような気もする。
少なくとも嘘を吐くような人間ではないので、素直に琴葉の言葉を受け取った。
「ママー、あそこのお兄ちゃん今度は膝枕してもらってるー!」
「こら、しーってしなきゃ駄目よ!」
通りすがりの子供のその声に、反射的に飛び起きた。今思い返せば、ここは水族館。そんな所で胸元に顔を押し付けられたり、膝の上で寝たりしていたのだ。
当然客観的に見て、目に止まるのも無理はない。チラチラと周りを見てみると、近くに住んでいるのであろう叔母さん達が、微笑むようにこちらを眺めていた。
「琴葉……?」
寝起きでぼやけていたが、ようやく視界が広がる。琴葉の顔を見てみると、今出来たとは思えないほどに茹だった赤みを帯びていた。
それもそのはずで、数秒視線を感じただけで凄い恥ずかしかったのに、琴葉はそれに30分も耐えていたのだ。
こうなるのも必然的という言葉に納得するくらいには、状況を理解していた。
「そろそろ動くか、」
「ですね」
こうして、色々あった水族館の椅子から尻をどかした。
-----あとがき-----
・本日もう一話投稿する予定です。あくまで予定ですので、ご理解を。
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