第185話 飛んでいく

 まだ、解決したわけではない。

 だが、マリアの方から向き合う努力をしたいと告げ、ギヤルと年頃の娘同士で笑顔ある会話に街の雰囲気もどこか和やかになっている。

 ジオとしては精神的なダメージは負ったものの、二人の様子を見て、「もう大丈夫かもしれない」と思った。


「……ったく……和解するにしても、余計な情報を口にしないで出来ないのか?」

「なんじゃ、リーダー。何やら、訳アリのようじゃの~?」

「だから、気にすんなって……」

「ん~? あの娘っ子の……ままごととやらに興味あるのう」


 ガイゼンがニタリと満面の笑みでジオに尋ねて来る。

 ひょっとしたら、ガイゼンも何かしら察しているというか、ひょっとしたら気付いているのかもしれないジオは感じながらも、誤魔化す様に立ち上がった。


「さーて、もうそんなことはどうでもいいとして、これで何とかポルノヴィーチの依頼をどうにかできたってことでいいだろ?」

「ん? ま~、ワシらが何かをしたかと聞かれたら微妙じゃが……」

「いーんだよ! どっちにしろ、俺らがこの街に来てなければ、こうはならなかったからな。だから、俺らが解決したってことでいいんだよ! ってわけで、さあ行こう! 魔界へさっさと行こう!」

「くくくく、お~、分かった分かった。せっかちなリーダーじゃのう」


 もう、先ほどの余計な話をぶり返させないようにと無理やりこの問題を「終わり」と片付けて、さっさと次へ行くべきだと声を上げるジオ。

 ガイゼンはそんな焦るジオに笑いを堪えきれない様子だが、もう深くは追及しないで頷いた。


「お~、ジオガイ、ユーのクイックな対応にベリー感謝する」

「ああ、気にすんなよ、キオウ。で……マシンも、チューニもいいよな?」

「自分は構わないが……」

「ん? 待って、リーダー。今すぐということは……僕は僕を愛するベイベーにアバヨの言葉も言えないの?」


 すぐの旅立ちに、キオウもマシンも異論はないようである。しかし、酔っ払いチューニだけはどこか不満があるようだ。


「僕は……セクにヨシヨシをしてあげたいのに……」

「おお、そうか。だが……そうなると、あの十賢者の爆弾娘に爆破されるぞ?」

「ッ……」

「おっ、少しだけ酔いが冷めたか?」


 まだ微妙に酔ってはいるものの、やはり昨晩のことですっかりオリィーシに対して苦手意識を持ってしまった様子のチューニは、ニヒルな笑みを浮かべながらも頬に少し汗を流していた。


「……ふふ……リーダー……」

「ん?」

「僕ね……男というのは常にジッとせずに旅立って、女を待たせたり、女に追いかけられたり、そういうのが孤高の男らしいと思うんで。自分から女の子に接しに行くなんて、ただのムカつくチャラ男なんで」


 少し頬を引き攣らせながらも、先ほどと真逆のことをキメ顔で言い出すチューニ。

 つまり……


「あ~、つまり、コエーからやっぱお前も逃げようってことな」

「そそ、そんなことは言ってないんで! ……だ、大体、リーダーも、さっきのままごとって―――」

「さあ、行こうぜ兄弟! 魔界へ! そして、俺たちの新たなる旅路へ!」

「も、もちろんなんで、リーダー!」


 もう、それまでにしよう。ジオとチューニは互いに理解し合い、もうその話はせずに旅立とうと、肩を組んで太陽を指さした。

 

「やれやれ……じゃあ、行くかのう」

「とは言っても、ここからイヴェントナシ大陸まで少し時間がかかるな……ちなみに、駐留しているという軍の規模はどれぐらいだろうか?」

「ナウはそれほどでもないと思うが……ただ、ミーの聞いた情報だと駐留している軍は交代制で……今は、『アワヌ将軍』が駐留し、近いうちに『コナーイ将軍』とチェンジすると聞いているが」


 チューニと肩を組んで旅立ちを口にしながら、キオウの話を聞いて、ジオは「あ~」と頷いた。


「あ~、その二人ね……まっ、ニアミスはしたくないが、仮に何かあってもどうにでもなりそうな二人だ。弱くはねーけど……俺らの敵じゃねえ」

「オー、頼もしい。とはいえ、警備のレベルが上がったら、モアストロングな将軍が来ないとは限らない。だから、なるべくクイックで行こう。ミーが馬車を借りよう……いや、ユーたちとなら走った方がアーリーか?」


 問題は無いが、とりあえずは問題が起こりそうにないうちにさっさと行こう。

 移動手段としてキオウが馬車か、自力で走っていくことを尋ねると……


「いや……自由な男たちは、果てしなくどこまでも続く空の海を駆けるべきなんで!」


 まだ、多少の酔いが残っているチューニが自信を持って告げる。

 その案は「飛んでいく」というものであった。


「空を?」

「おお。なるほど……つっても、空を飛べるのはマシンぐらいじゃろ?」

「皆を担いで自分が飛べと? 流石にこの人数は重いが……」

「ヒュー、スカイをフライハイができるのならグッドだが、ミーもフライハイはできないぞ?」


 飛べる奴はマシンぐらいしかいない。

 なら、その提案は微妙であると皆も乗らなかった。

 だが、チューニはニタリと笑みを浮かべ……



「いいや、僕たちには……見えない翼があるんで」


「「「「…………はっ?」」」」


「そして、今は僕が翼となって皆を運んであげるんで!」



 マシンではない。チューニが自ら皆を運ぶと告げた。

 それは、ジオたちには予想外であり、そしてどうやって運ぶのかと方法に興味が沸いた。

 チューニは短い詠唱と共に、空間を歪ませ……



「出でよ……自由を求める男たちの箱舟よ」



 チューニの異空間魔法……魔法によってチューニだけが行き来できる異空間。その空間に保管されていた、ジオパーク冒険団が所有する潜水艇。

 それを、チューニはこの屋上に出現させた。


「おいおい、そんなもんをここに出してどーすんだよ!」

「これは潜水艇で、飛行能力は備わっていない。自分もいずれはそう改造したいと思ってはいるが……」

「ふむ、で……どーするんじゃ? チューニ」

「……というより、ミーは、チューニボーイが異空間魔法を使えること自体にサプライズだったが……どうりで、この都市の皆がチューニボーイを慕うわけか……」 


 で、これでどうするのか? これはあくまで潜水艇であり、大陸の中腹にあり、海に面していないこの場で今は必要ない物である。

 すると、チューニは…… 



「うん……皆でこれに乗ってもらうんで」


「「「「うんうん……」」」」


「で、僕が浮遊かなんかの魔法でこれを浮かばせて、そのままゴー!」


「「「「……」」」」



 あまりにも簡単すぎる説明。確かにそんなことができれば、皆と一斉に飛ぶことは出来る。


「いや、チューニ。お前、浮遊の魔法を使えるのか?」

「え? 分かんないけど……こう、念じて……浮け~、浮け~、って言ってたら……あっ、浮いた!?」

「「「って、ほんとに浮いた!?」」」


 チューニが軽く魔力を込めて念じた瞬間、大きな潜水艇がそのまま宙にプカプカと浮いた。

 このとき、ジオパーク冒険団は「そんなアイディアがあるなら、最初から海での航海のときからやっていれば……」とも思ったが、今の酔っ払いチューニは普段のチューニとは違うということで、もう口に出して言わないことにした。



 そして……


 

 そんな男たちの旅立ちの準備を知らぬ乙女たちは……


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