第169話 異文明の戦い

 一瞬、誰が何をしたのか分からずに静寂が訪れる。

 しかし、その突如現れた人物を良く知るジオとチューニは思わずその名を叫んだ。

 絶体絶命だった自分たちの窮地に颯爽と現れたその男……


「「マシンッ!!」」


 鋼の超人の登場を歓喜した。


「……何者? ……マシン? ……その名は確か……」

「……まさか……ジオ殿の冒険団の……」


 エイムやナトゥーラは分からずとも、ジオの反応にハッとする。

 そう、顔を知らずともその名だけは世界にも轟いていた。

 

「チューニが攫われ……誰なの? 私からチューニを奪うのは! どうして? どうして邪魔をするの!?」


 そしてオリィーシは怒りに満ちた表情でその人物を睨みつける。

 自分たちの物語を邪魔する不届きものに向ける殺意の籠った目。

 だが、一方で……


「ふふ……ははははは……随分と遅い登場だったねぇ。僕様のことはちゃんとわかるかな? マシン君……いや……」


 腕を撃ち抜かれたオシリスドラゴンは、一瞬呆けたもののすぐに笑みを浮かべた。

 愉快に笑うその姿はシュールで、そして不気味な笑いが辺りに響き渡った。


「銀河開発事業団……National Galaxy Development Agency……通称・NAGDA(ナグダ)の誇る……ターミニーチャンシリーズ……T881……発展途上惑星の人間に利用されるだけ利用されて、海の底へ放り棄てられたようだけど……気分はどうかな?」


 オシリスドラゴンの言葉は、「ただ知っている」だけではない、もっと別の深い繋がりのようなものを匂わせるものだった。

 しかし、マシンはチューニを抱きかかえたまま……


「……誰かと間違えているようだが、人違いだ……四番目」

「なに? ……何を言っている? 君様はターミニーチャンだろう?」


 オシリスの言葉を否定するマシン。

 その反応に「何を言っている?」と意味が分からず問い返すオシリス。

 だが、マシンは無表情ながらも熱のこもった声で……



「自分は……この世で最も自由に生きようとする男たち……ジオパーク冒険団のマシン・ロボト。切り捨てた過去に興味も無ければ、振り返る気も無い」


「ッ!?」


 

 自分が何者なのか。それをオシリスに告げた瞬間、ジオもチューニも思わず笑ってしまった。

 マシンのこだわりが嬉しく、そして誇らしかった。


「ふふふふ……ははははははははは! これは面白い……ジョークというものを学んでいるようだね、マシン君」

「ジョークかどうかは……その身で味わってみたらいいと思う。自分は、何の躊躇いもない」

「言うじゃないか」

 

 そして、オシリスドラゴンは愉快そうに笑いながらも好戦的な笑みを浮かべた。

 それは、これまでジオやチューニを相手におちょくって楽しんでいた表情とは違う。

 


「聞いているよ? 人間の勇者に裏切られ……衛星や武器や二十日野菜の種とかまで利用されていたのに何もできなかったと……挙句の果てに君様は悪評を勝手に捏造されて、世界に轟く危険人物になったとか。それなのに、未だにこの世界の住人と友達ゴッコをするとは、懲りないねえ」


「懲りたさ。懲りたが……今、共にいる者たちとの日々を前に、『そんなこと』はどうでもよくなってしまった……それだけのことだ」


 

 そして、オシリスドラゴンの皮肉にも一切揺るがずに返すマシンに、次の瞬間オシリスは突然その巨大な腕と爪を振り下ろした。


「アイアンクロー!」

「超音波振動波」


 だが、振り下ろしたその腕は、マシンに触れそうになった瞬間、粉々になって砕け散る。

 思わずチューニが失神しかけ、ジオも突然のことで反応が遅れてしまったが、二人に何のケガも無い。

 宙には、ニヤけた笑みを変わらず浮かべながら、両腕を失ったオシリスドラゴンがマシンを睨みつける。


「ふふふふ。大量生産型が……生体兵器シリーズに挑むのかい?」

「くだらないな。己の誇るべき称号は、出生のみか? そんなものを心の拠り所にしているようでは、程度が知れる」

「……ほう……」

「何よりも……その程度の存在に後れを取るようでは……仲間やチームの名に泥を塗ることになり、それだけは避けたい」


 互いに睨み合い、既に一触即発の空気が流れる。

 マシンはゆっくりと地上へと下降し、チューニを下ろすと再びオシリスドラゴンへ向く。


「……ふふふ……御主人様。チューニくんですけど……お任せしてもよろしいですか? 僕様は……この産業廃棄物を処分しなければなりませんので」

「オシリス……?」

「見せてあげなければ……世界の方々に……この世界の遥か数千年先を行く人類の英知が結集した力をね……」


 オシリスはオリィーシの命令を逆らえないようにされている。

 命令違反をすれば爆破することも可能なよう、命も握られているのである。

 しかし、そんな恐怖をまるで微塵も感じさせずにオリィーシに提案し、更にはオリィーシの優先事項でもあるチューニよりもマシンとの戦いをオシリスは選ぼうとする。

 そんなオシリスに、オリィーシは諌めようとするも、同時に目の前に現れたマシン・ロボトの存在を脅威であるとも感じていた。


「……わかった……なら、あなたはチューニを奪おうとするこの人をお願い……」

「ええ。御心のままに」


 まるで忠誠を感じさせない返事ではあるものの、それでもオリィーシにとっては悪い話ではない。

 だからこそ、渋々ではあるものの、オリィーシは頷いて、オシリスドラゴンの頭部から飛び降りた。

 地に着地したオリィーシの前には、チューニとマシン。


「あ……えっと……」

「では、チューニ。自分はアレの機能を停止させに行く」

「ッ!? あっ、ちょ、待って! マシン! こ、この人も何だか恐くて、できれば置いていかないで欲しいというか……」


 オシリスドラゴンは自分に任せろと、チューニを置き去りにして飛び立つマシン。

 チューニは目の前に現れたオリィーシはオリィーシで恐怖の存在であるゆえに、置いていかないで欲しいと告げようとするも、マシンは既に飛び立った後だった。


「ふふふふふ、勇ましいものだ……君様が僕様に勝てる可能性を、計算式で導き出せないものなのかな?」

「計算式は数字が一つでも異なれば解は変わる。解が変わる以上、結論を早々に出すのは早計というものだ」

「ほう? つまり、君様は計算式を狂わせる何かを持っていると?」

「その解答は……戦いの結末に証明しよう」


 宙で睨みあう、マシンとオシリスドラゴン。

 共に人工的に造られた存在でありながら、睨みあう二人からは気迫のような何かがぶつかり合っていることが、その場にいた者たちには感じ取れた。

 そして……



「では……今こそ、全ての真実を……お嬢様。妹よ、少し待っていてくださいね……あとで、二人の望みは叶えるので……今は……ッ!」



 オシリスドラゴンの体から、何かが飛び出した。

 ニ方向の光を放つ球体。

 一つの光はオシリスとマシンの姿を照らし、もう一つの光はフェイリヤとセクを映す月へと伸びる。


「チャンネル切り替え」


 そして、次の瞬間、月に映されていたモノが変わった。

 それまでフェイリヤとセクを映していた月が、今正に戦いを始めようとする、オシリスドラゴンとマシンの姿を映し出したのである。


「投影機か……何のつもりだ?」


 ワザワザ自分たちの戦いの光景を月に映し出すオシリス。

 その行動の意味が理解できずにマシンが問うと、オシリスはニタニタと笑みを浮かべて……


「ふふふふ、世界に知らしめないとね……伝えるべき真実を」

「なに?」


 思わせぶりなことを口にするオシリスだが、その真意はマシンにも読み取れない。

 すると、オシリスは……



「ふふふふ、ふははははははは! 僕様こそが、この星に混沌を生み出す異端竜、オシリスドラゴン! 阿鼻叫喚の新時代よ、今こそここに!」


 

 まるで、性格が変わったかのように「恐怖の怪物」を演じ、その声と姿を月を通じて世界中に伝えようとするオシリス。

 

「世界よ! 生命よ! 僕様の姿に怯え、恐怖するがいい! 先ずは手始めに……この時代遅れの世界とはいえ、時代遅れなりの知が結集する……トキメイキモリアルを滅ぼそうではないか!」


 その突然の叫びに、誰もが状況を理解できずに呆ける中、オシリスは続ける。


「ふはははは、世界に恨みを抱く、マシン・ロボトよ! もし、僕様の仲間になれば、世界の半分を君様にやろう!」


 それは、最初からこの場に居た者たちからすれば非常に滑稽でワザとらしいものであった。

 

「意味不明だ。どういうつもりだ?」

「ふふふ……仮にも勇者の仲間だったのだから、そこは『いいえ』と答える方がいいが……とりあえず、拒否するというのなら、消え失せたまえ!」


 オシリスの意図は不明のまま、オシリスの巨大な顎が開いて、マシンを噛み砕こうと向かう。

 だが、鈍重な巨体で繰り出す攻撃が、超速を誇るマシンに届くはずが無い。


「亜音速」


 オシリスの牙をすり抜けて、背後に回るマシンは、同時にその右腕を変形させ、激しく回転するドリルを出した。


「ドリルブレイク」

「なっ!? そ、そんな!? 速いっ!?」

「何を企んでいるかは分からないが、その企みごと止めてみせよう」


 繰り出されたドリルが、オシリスドラゴンの両翼を砕いていく。

 想像を超えるマシンの速度に驚いたのか、オシリスから驚愕の声が漏れる。

 両腕どころか、両翼を失い、もはや無残な姿となったオシリスだった……が……


「そんな……こ、この、完全なる生体兵器の僕様が……ちくしょー! ちくしょー!」

「終わりだ。堕ちて停止し―――」

「……なんちゃって!」

「ッ!?」

「君様も……故郷の文化……たとえば、ジャパニーズコミックやアニメは勉強しないと」


 その時だった。マシンの全身を、マシンの周囲の空間から突如出現した無数の鋼の槍が貫いていた。


「調子に乗って敵を追い詰めるのは……負けフラグ」

「「……ま……マシンッ!!」」


 鋼の肉体を誇るマシンの胴体を貫く槍。

 その光景が信じられず、思わずジオとチューニが叫んだ。



「僕様は空気中に存在する塵から鋼鉄を生み出す……君の周囲に鋼鉄の槍を創造して突き刺した……それだけのこと……光速の世界も、百万馬力のパワーも……僕様の前には全て無意味!」


「これは……機体損傷……回路……」


「はい、ドーン!」



 失ったはずの両翼も両腕も、一瞬で再生。

 再び出現した巨大な鋼鉄の腕と爪で、動きの止まったマシンを宙で叩き落――


「問題ないと判明。カウンター、超音波振動」

「おっ!?」


 叩き落される……と誰もが思った瞬間、受けたダメージや突き刺さった槍を問題ないと判断したマシンが即座に動き、自身を貫いた槍を全て強引に抜き取り、両腕を伸ばして放った音波振動で、オシリスの再生された腕を再び粉々に砕いた。

 

「ははは、まだエネルギーが残っているかい? だが、どれほど元気が良くても、僕様の全方位全死角からの攻撃は―――」


 たとえ、腕を砕かれてもダメージを一切感じさせず、それどころか先ほどマシンの全身を貫いた全方位からの鋼鉄の槍を再びマシンに向けて放とうとする……が……


「亜音速、回避」

「……あら?」


 今度は受けない。マシンは、オシリスの攻撃を予期していたかのように、周囲の空間から出現した槍を全て回避した。



「たとえ、突如攻撃が空間から出現しようとも……微妙な空気の流れの変化を感知することで、攻撃を寸前に回避することは、自分なら容易い……」


「ほう……」


「そして青き星の文化ぐらい、自分も学んでいる。だからこそ、ベタなセリフを送ろう……自分に同じ技は二度も通じない……これは常識だ……と」


 

 それは、両者が交錯して僅か数秒間の出来事であった。


 その戦い、及び二人が繰り出す技は、この世界における長い歴史の中で、ほとんどの者たちが見たこともない力。

 

 その光景に、世界中の者たちが息を呑んで言葉を失った。




――あとがき――

新たにカクヨムコンに短編も投げました。



『白馬に乗った最強お姫様は意中の男の子を抱っこしたい』

https://kakuyomu.jp/works/16816700429486752761



サクッと読める短編なので、是非にこちらも読んでフォローとご評価いただきたくお願い申し上げます!!!!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る