第149話 チューニ軍団
「まぁ、ジオチンチンは……変態だけど、でも……スゲー強いじゃん」
「チンを一個増やすな! 最低でも、もうジオチンにしてくれ! つか、何であだ名の方が本名より長いんだよ!?」
広場で起こった、「変態ジオチンが十賢者のアキレウスを倒した」という衝撃が広まり騒然とする中で、ジオとギヤルの言い合いは激しさを増していた。
「うっさいし! あんた、あたしを心配して来てくれたんじゃなくて、あたしの体目当てで来たんじゃねーのっての!?」
「んなわけあるか! つか、経験無しの女なんか重くて抱けるか!」
「ハッ? あ、あたし、け、経験豊富だし! 生娘じゃねーし!」
「生娘だろうが!」
ジオの目から見ても、ギヤルは明らかに噂で流れているような淫乱ではなく、そういった経験もない生娘だと見抜いていた。
「き、生娘ちげーもん……」
「ったく、どうしてそこにこだわるんだよ。つか、お前がそうやって否定しねーから、変な噂が広がるんじゃねぇかよ」
「だっ、て……」
しかし、ギヤルは頑なにそれを認めようとせず、しかし顔を赤らめながらも徐々に俯いてボソボソと……
「だって……友達いっぱい作ろうと思ってオープンにふるまったら……なんか、勘違いされて……引っ込みつかなくなっちゃったし……今更、違うとかハズイし……」
「……は?」
「うっせ! と、とにかく、あ、あたしはケーケン豊富なんだから、勘違いすんなし!」
うまく聞き取れなかったが、何か事情があってギヤルは経験豊富な女にならなければならない。その事情だけは察したジオだが、どちらにせよ「くだらない」と溜息を吐いた。
「ったく……別にそういう女のフリする必要もねーと思うけどな……」
「いーの! あたしは超ドスケヴェルフなの! みんなの憧れっしょ!」
「はいはい、分かった。お前はエロイエロイ」
「ちょっ、その溜息顔はなんだし!?」
別に何も恥ずかしいことではなく、「勿体無い」とジオは感じたが、それ以上は自分が言うことでもないだろうと思って、それ以上は言わなかった。
すると、その時だった。
「オラオラオラー! どけどけガリ勉のヘナチョコ共―!」
「あーしらのお通りだー!」
「新生黒姫派・チューニ軍団のお通りだぞー!」
そのとき、広場の騒ぎの全てを埋め尽くすような集団の声が響き渡った。
「……えっ? な、なんなん?」
「……な、……にい?」
自分の異名が叫ばれたことにギヤルは目を丸くして、聞こえてきた仲間の名前にジオも首を傾げて振り返る。
すると、街の中央通から百人以上の男女が列をなして、一人の男を掲げて行進していた。
「も、もう……ぼ、ぼく、何が何だか……」
皆に担がれるように掲げられているチューニ。
その表情は涙を流しながら、「なんで?」と呪いのように繰り返していた。
「……なにやってんだ、あいつは……」
「つか、あたし何も知らねーんだけど、どうなってんの?」
自分の知らないところで何があった? ジオとギヤルがこのときだけは同じことを思った。
そして、ただ集団が騒いで行進するだけではない。
「ちょっと、うるさいわよ、あんたたち!」
「退学して追放した奴らが今更何を喚いているの!」
「あんたたちみたいに遊んでいる奴ら、迷惑なのよ!」
「私たち、『オウネショータズ』は歴史を揺るがす研究をしているの!」
「そう、人類の誰もがまだ到達していない、時空間魔法応用による異空間世界創世の可能性よ!」
「それを邪魔するなら―――――」
勉強や研究の邪魔だ。集中できない。
例え相手が数百人の集団だろうと関係ない。
勇ましくチューニ軍団の前に立つ、若い女たちも……
「いや、ほんとごめんなさいなんで! あっ……でも、お詫びじゃないですけど、その魔法なら僕……力になれると思うんで」
「「「「……えっ?」」」」
「えっと、こうやって、何も無い空間に……ほら」
「「「「ッッッッ!!!???」」」」
担がれた場所から降りてペコペコと謝るチューニ。
そして、お詫びにと、女研究者たちが騒いでいた魔法を披露。
女たちの目の前で、何も無い空間に、異空間へと続く割れ目を出現させる。
「「「「……うそ……」」」」
「……あ、あの、こんなんでよければ……」
「「「「ゴクリ……こ、この魔法について、もっと色々教えてくれる?」」」」
「……いや、あの……じ、時間が空けば……」
衝撃を受ける、女研究者たち。
ついでに黒姫派も全員呆然。
そして数秒後には……
「「「「もう、チューニ君のためなら何でもしちゃう!」」」」
「ひゃっ、あ、あの、お姉さんたち!?」
まだ、二十代前半の若い女たちが一斉にチューニをもみくちゃにして、抱きしめたり自分の胸を押し付けたりと可愛がる。
「ちょっと、チューニくんのおっぱい担当はあーしらなんだけど!?」
「いや、もういいじゃねえか! よし、あんたら! あんたらは黒姫派になるよな?」
「「「「研究のためならば、魂だって悪魔に売っちゃう!!」」」」
こうしてアッサリとチューニ軍団に加わる女研究者たち。
そしてチューニは、新しいおっぱいを手に入れる。
「こふー! んもう、うるさいんだな、これだからクズ共は!」
「あんまり邪魔するなら、僕たち『研究チーム・ムダボーネズ』が……」
「君ら劣等生なんかじゃ使えない、凄い魔法を見せちゃうんだな!」
「そうそう、……っていうか、せっかく穏やかだった都市を汚す奴らは……」
「お仕置きなんだな!」
「そう、僕たちの邪魔はさせないんだな! 僕たちの研究……」
「魔法無効化能力者は居ない説の証明! これさえ証明すれば、皆が僕たちを尊敬し、お、女の子にモテモテに――――」
一方で、そんなチューニにどこか憤りを感じているかのように、肥えた醜い男たちが鼻息荒くして前へ出た。
魔法の腕前に相当自身があるのか、非常に強気だ。
しかしその数秒後には……
「キロファイヤ! キロウインド! キロサンダー!」
「バイトアース!」
「メガアイス!」
繰り返し放たれる男たちの魔法。
その全てがチューニに直撃と同時に砕け散り……
「ご、ごめん……なさい……ぼ、僕がその……魔法無効化能力者なんで……」
「「「「ほげっ!!??」」」」」
男たちの自信もプライドごと粉々になるのだった。
「そ、そんな……こ、こんなの、う、うそなんだな……真面目に勉強していた僕たちが……こんな……」
「気持ち悪いとか、豚とか言われても、いつか僕たちを信じてくれる女の子たちが現れると思って頑張ったのに……」
「今こそ活躍してと思ったのに……」
「こんなの、あんまりなんだな~!!」
自分たちの想像を遥かに超える存在を目の当たりにし、ムダボーネズの男たちは一斉に顔面を蒼白させて肩を落す。
そんな男たちの姿に、ただの体質だけでこうなってしまったことに、チューニも若干の申し訳なさを感じる。
だが、そこでヤリイを筆頭とする黒姫派の女たちは……
「な~に、あんたら、ドーテー?」
「ッ……ひっ、な、なんなんだな?」
「へへん。じゃ~さ、もしあんたらも黒姫派・チューニ軍団に入るならさ~、金さえ払えば~、ヤラせてくれる奴、しょーかいしてもいいよ?」
「ッッ!!??」
「あーしら、顔広いからさ~。いい娘を紹介するし~? でも、あーしらはチューニ君専用だからダメだけど~、でも、かわいくてエロいやついっぱい紹介するよ~?」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、谷間や短いスカートで男たちを誘うヤリイたち。
そして男たちは互いに見合い……
「「「「もう、研究なんて馬鹿らしいんだな! 黒姫万歳! チューニ君万歳、なんだな!!」」」」
こうして、また数人の白姫派の男たちまで黒姫派にアッサリと鞍替えするのだった。
「す、すげえ、なんなんだよ、チューニくんは!」
「さっきだって、生活改善委員会たちが測ったチューニくんの魔力数値999なんてもんだったし……」
「異空間魔法とか、魔法無効化とか……」
「チューニくんはもう、アレだ! 神の子だ!」
「そして、あーしらの救世主だし!」
異空間魔法に加えて魔法無効化。通りを少し歩くだけで、白姫派たちが卒倒してしまうほどの超魔法を披露するチューニ。
もはやその衝撃は、チューニを祭り上げていた黒姫派たちも歓喜に打ち震えていた。
最初はデクノーボやヤリィたち数人がチューニを持ち上げて、それに他の追放された黒姫派が便乗しただけだった。
しかし、今では便乗した者たちは、心底チューニに圧倒的な才能に惚れこみ、自らの意思でチューニを称えていた。
「……あのさ……あたし……何も指示出してないから……。つか、何がどうなってんの?」
「俺が少しあいつを放置している間に、あいつは何でいきなり数百人規模の勢力を作り上げてんだよ」
そんな一連の集団の騒ぎとチューニの姿に、すっかりと話題を持っていかれたジオとギヤルは呆気に取られていた。
だが、流石にそろそろ過剰になりすぎていると感じて、ジオも止めに入ろうとする。
「しゃーねぇな。あいつも泣きそうだし、助けてやるか……」
「あいつ、あんたの知り合いなん? ……って、だから! あんた、まだジオチンチンが大変なままだし!?」
「ぬうおおお、ウソだろ!? 別に変なこと考えてねーのに、なんでだ!?」
「とにかく、こっちに来いし! 流石にあの人数に見られたらヤバいっしょ!」
未だに体の異変が収まらないジオ。この姿のまま数百人のチューニ軍団の前には立てない。
ギヤルも慌ててジオの腕を掴み、今、周囲がチューニに注目している間にと、ジオの手を掴んで路地裏に隠れようとする。
「「「チューニ! チューニ! チューニ! チューニ! チューニ!」」」
そんなジオどころか、渦中の人物である黒姫本人のギヤルに黒姫派たちは気づくことなく、今はこの都市に彗星のごとく現れたチューニに夢中だった。
しかし、この騒ぎはまだ収まることは無い。
それどころか、この騒ぎを遥かに上回る衝撃が……
「うそっ……チュー……ニ……うそっ……でしょ? チューニが……間違いないよ……うそ! あの……あのチューニだ!」
この魔導学術都市が誇る最終兵器でもある、赤みがかった長い髪をした、歓喜の涙を流す一人の美少女より放たれるのだった。
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