第121話 お口直し
「どうやら……収まったようだな……」
「「「ッッ!!??」」」
チューニの作り出した異空間の入り口の前にて、被害が外へ拡散しないようにと防壁となって仁王立ちしているマシンがそう呟いた。
メムスと共に帰還した村人たちや、九覇亜たちもその言葉を聞いて息を呑み様子を窺う。
すると……
「ふぅ……これで一件落着……ってわけじゃなく、何だか余計にめんどくさくなった気がするぜ」
「っていうか、何でリーダーじゃなくてガイゼンが何でも決めちゃうのか、ここは議論した方がいいと思うんで」
「これこれ、リーダーもチューニも、そう言って老い先短い老人をイジメるでないぞ?」
「何を……先輩はあと一万年は生きると言われても信じてしまうゾウ……」
「ふん。わらわたちの上に立とうなどという組織の連中がコレでは、先が思いやられるのだ」
異空間の中へ入っていった五人が全員無事に出てきた。
唯一ガイゼンだけは血まみれだったが、本人はまるで何事もないかのようにケロッとしているので、誰もそのことは気にせず、ただ五人の無事な姿に安堵の笑みをこぼした。
「ジオ! カイゾー!」
「ムコーっ!」
「ダーリン!」
「坊や! それにボスも!」
「ゾーさん! チューニ!」
真っ先に声を上げたのは、魔に堕ちた姿であろうと既にその闇が晴れたメムス。
それに続くように、他の女たちや村人たちも、一斉に駆け出して駆け寄る。
彼らは、異空間の中でどのような戦いがあったかまでは知らないが、それでも既に威圧感や緊迫した空気を消して出てきた五人の姿に、戦いはもう終わったのだということを察し、笑顔を見せたのだ。
「ジオ……まったく、村に戻ったらお前も居なくて心配したんだぞ? お前は我の恩人なんだから……心配なんてさせるな」
「ムコ~、すりすりぺろぺろ」
「はいはい、ガキに心配されるほどヤワじゃねーから安心しろ。あと、オシャマ、きたねーから人の頬を舐めるんじゃねえ」
戦いは終わった。
ポルノヴィーチにはもうガイゼンとこれ以上戦う意思もなく、九覇亜も戦意はない。
そして何よりも、ジオたちが異空間を出たとき、ジオたちの帰りを待っていたのは村人たちに囲まれて、もう完全に心の闇が晴れたメムスの笑顔。
正直、ポルノヴィーチの提示した課題は、ある意味でもっと面倒なことになりそうだとジオは感じながらも、とりあえずこの村に関する問題については、今日はこんなところでいいだろうと肩の力を抜いた。
「ボス……結局どういうことに……」
「ん? ん~……まぁ……ちょっと色々とあったのだ……魔界に居る他の九覇亜たちにも後で話しておかねばならないのだ……」
敵味方関係なく無事な姿で出てきた一堂に、九覇亜も状況が分からずにポルノヴィーチに尋ねるも、本人もどう説明すればいいか分からない様子。
ジオパーク冒険団が女堤防の上に立ち、今後この国や組織についてもまとめて庇護しようというガイゼンの提案をどう説明するべきか。
すると、ガイゼンが豪快に笑い……
「ぬわはははは、どうもこうもあるまい。この村も、そして全てのオナゴたちも……これまで通りにすればよい……それだけのことじゃ! メムスものう?」
これまで通りと変わらない。
そして、メムスについても、これまで通りの生活をすればいい。
「無論、その『これまで通り』を妨げるような何かが今後は出てくるかもしれぬが……何も心配は要らぬ! このワシが……ワシらがウヌらの味方に付いておる! ワシらがいる限り、誰にもウヌらのこれからを脅かさせたりはせぬ!」
根拠がなくも、空気を震わせて届くガイゼンの声。
村人たちは、ポルノヴィーチとガイゼンの間でどのような話があったかは分からない。
だが、それでもガイゼンが「何も心配は要らない」と言っている以上、それを受け入れた。
「ぬわははは、というわけで、宴会の続じゃぁ! そして、今度はエロイことをしたいときは、ポルノヴィーチの魔法ではなく自分の意思で異性を口説くがよい! 無礼講じゃ無礼講ッ!」
「「「「「お……オオオオオーッ!!」」」」」
ポルノヴィーチはガイゼンに「信頼を得てみろ」と言った。
しかし、それは「この場に居ない女堤防や九覇亜たちからも文句を言われない信頼」という意味である。
そうでなければ、既にガイゼンは……いや……ジオパーク冒険団は既にソレを得ているのである。
「どれ、ワシは一杯飲んでから……ヤマタノラミアと再戦でもするかのう」
「「「「「「「「ふぇっ!? だだ、ダーリン……」」」」」」」」
「ワシのオナゴになった以上、何人であろうと可愛がってやるわい」
中断された宴会の場に転がっていた、酒樽を豪快に飲みながら、いやらしい笑みをイキウォークレイに向けるガイゼン。
完全に油断していたイキウォークレイは急に鱗まで真っ赤にしだし、八つに分かれた体それぞれが同じように動揺してみせる。
「……まったく……はしたないですね……坊やの教育に悪いので、私たちは少しこの場を離れます……」
「ちょっ、どこに! おねーさん、離して! 僕を脇に抱えてどこに……なんで、森の奥に!? えっ、ちょ、何でおねーさん、駆け足で? ちょっ、あ、あ~~~~~~!」
「あ~! 待ってよー! チューニはロウリの~! むー! 待てー!」
コンに攫われるチューニと、それを追いかけるロウリ。
「……では……じゅるる……つづきでしゅ……マシンしゃ……あーっ! マシンさんが居ない! 速ッ……待ってくだしゃい!」
いつの間にか超高速でこの場を飛び出していたマシンを探し回るタマモ。
そして……
「あっ、それいいの? じゃあ、オシャマもムコとイチャイチャ!」
「ちょわっ?!」
「はふ、えへ、ん、ムコ~♡」
そして、そういうことが許されるのであれば、自分も想い人とやりたいことをヤルと、ガイゼンの血を引くオシャマがジオの体にしがみ付いて、自分の体や股を激しくジオの体にこすりつけながら、トロンとした表情で煽情的な息を漏らすのだった。
だが、そこには突如待ったの手が入る。
「こら、オシャマ。ジオは我を助けるために疲れているんだから、休ませてやれ」
「むっ! なんだ、お前!」
オシャマの首根っこを掴んで止めたのは、メムスであった。
「よう……泣き虫……もう、泣き止んで少しは大人になったか?」
「う、うるさい……んもう……」
ジオにしがみついていたオシャマを放り投げ、照れたように微笑むメムス。
その後ろでは、村人たちも先ほどまではジオのことを「変態」などと呼んでいたのに、誰もが瞳を潤ませている。
「あの、にいさ―――」
「うるせえ。腹減った。なんか食わせろ。それでいい」
村人たちが感極まり、自分たちのところへメムスを取り戻してくれた感謝の言葉をジオに述べようとしたが、その前にジオがその言葉を被せた。
「で、でも……」
「いーんだよ。ガラじゃねぇ。あんまムズかゆいこと言われても、別に嬉しくもねーからよ」
礼を言われるのが恥ずかしいのか、ジオも少し照れたようにソッポ向きながら、ぶっきらぼうにそう答えた。
そんなジオの態度に村人たちも苦笑するも、ジオの言葉にメムスも笑みを浮かべて頷き、皿に取り分けた料理をジオへと持ってきた。
「そうだな、ほら、ジオ。食べてくれ。さっき、温め直した私の手作りだ!」
「ああ。それでいーよ」
串に刺さった魚や野菜などをジオに差し出すメムス。
「う~、だめ! ムコにはオシャマが食べさせる!」
だが、そのとき、メムスに引き剥がされたオシャマが再び顔を出し、皿に取り分けられた料理を脇からガブリと摘まみ食いした。
「ちょ、お、おい、オシャマ!」
「つ~ん。もぐもぐ……ん、んこ!」
そして、オシャマは食べ物を口いっぱいに頬張ると、口に食べ物を入れたまま唇を突き出してジオに顔を寄せる。
「はっ? お、おい……」
「んこ、んーーー! んーーーー!」
「……おい」
オシャマが頬を膨らませたまま、自分の唇を指さす。
それが示す答えは一つしかない。
口移しで食べさせること……
「はしたないことをするな!」
「へぶっ!」
だが、そんなオシャマを戒めるようにメムスがオシャマの後頭部に拳骨を落とし、オシャマが料理を吐き出してしまった。
「ふがーっ! なにする!」
「う、うるさい、何をしているはお前だ!」
「こんなの、フーフなら当たり前だ! オシャマとムコはフーフ!」
「な、なにが夫婦だたわけもの! 食べ物で遊ぶな! これだから子供は……いいか? 夫婦としてイチャイチャするなら……た、たとえば……」
「?」
邪魔されたことに牙を剥き出しにして怒るオシャマ。
だが、メムスも引かず、顔を真っ赤にしてモジモジしながら、串にささった肉をジオに差し出して……
「ほ、ほら、こういうふうに……な、ジオ。あ……あ~ん」
「…………」
夫婦とはこういうものだろうと、見本を見せるメムス。
そんなメムスの温かな姿に村人たちも微笑ましそうにしている。
だが……
「ぷっ……ガキ……」
「ッ!?」
オシャマは鼻で笑った。
「な、なに? なんだと!?」
「ソレ、子供のおままごと。そんなのめんどくさいだけで、男よろこばない。ボスが言ってた」
「ッ!」
「男が喜ぶのは、さっきオシャマがやったみたいに口移し……あとは、ケーキのクリームとかを体に塗って、オシャマを食べてってやるの」
「な、なん、なん……」
「交尾……んほぉも知らないガキは、オシャマとムコの邪魔するな」
勝ち誇った表情でメムスを小ばかにするオシャマは、あろうことか先ほども問題になったメムスの知らない知識に触れた。
「な、ば、ば、バカにするな! ン、ン法なんてそんなもの……わ、我とて……今日にでもジオに教えてもらうからいいんだ!」
「「「「「えっっ!!??」」」」」
「いや、俺、嫌だって言っただろうが!」
「今日!? ムコと今日交尾するのはオシャマだもん!」
顔を真っ赤にして大胆に発言するメムス。
ジオはふざけるなと怒鳴るが、村人たちは互いに顔を見あいながら……
「お、おい、ど、どうする?」
「いや、でも……う~ん、確かにメムスももうそれぐらい……」
「私としては、メムスにはお姉ちゃんから教えたいことが……」
「でもよ、あんまこれまでのように先延ばしにしてもなァ……」
「何だかんだで、あの兄さんならメムスも……」
「ああ、メムスもまだ気づいていないだろうけど……きっとメムスの初恋は……」
「それなら……なぁ?」
先ほどまでならば、村人全体で溺愛しているメムスを守るために激しく騒いでいただろうが、今では「ジオならば」と村人たちもどこか容認する流れになり始めていた。
そして、村人たちが止めない上に、話が「そういう話」になると黙っていないのが……
「んほぉと聞いては、わらわも黙っていないのだ!」
先ほどまでの神妙な顔が打って変わり、急に目をキラキラと輝かせたポルノヴィーチが一同の間に割って入った。
「ポルノヴィーチッ!」
「でゅうぇへへへへ、そう睨むななのだ、メムス。貴様とは色々とあったが、わらわは元来女の味方。ましてや、そういうことを知りたいと願っている女子には種族を超えてわらわは歩み寄るのだ!」
「ふざけるな! 誰か貴様など……」
これまで自分たちやカイゾーを苦しめていたポルノヴィーチの姿に、思わず身構えるメムスたち。
しかし、もうポルノヴィーチもガイゼンたちの顔を立てて今日はこれ以上何もする気はなく、むしろ今は楽しもうという態度を見せ、メムスに近寄った。
「まぁ、そう言うななのだ。せっかく、わらわが貴様の望み、んほぉを教えてやるというのに」
「ぬぬっ!? ……ッ、い、いらぬ世話だ! 我らやカイゾーを苦しめた貴様に教わることなど何もない! ン法だって、じ、ジオに教えてもらう……」
「ふん、意地っ張りめ。だが、断られているのだろう」
「そ、それは……」
「ならば、暴威のあの小僧から、『んほぉを教えてもらう方法』を伝授してやるのは、どうなのだ?」
「ッ!!??」
ポルノヴィーチに良くない感情を抱いているメムスは、一度は拒絶の態度をとるも、ポルノヴィーチの耳打ちに目を大きく見開く。
「まずだ、お気に入りのパンツ穿いたまま……穿いたままだぞ? これは重要なのだ。脱がすのも男の楽しみなのだ。そして、穿いたまま……床に座り、膝を曲げずに真っすぐ伸ばしてガバッと広げて開脚して、あの小僧に見せつけるのだ」
「な、な、な、……なななん!?」
「ちなみに、この開脚座りには……『ぶい字開脚』という名称があるみたいなのだ。ずいぶん昔に、わらわにとって唯一親友だった人間の女……セクハウラという女がそう言っていたのだ」
「い、いや、し、しかし、それは何だか恥ずかしいというか……そ、そんなことをするのか!?」
「それとキュウリがあるなら持ってくるのだ。それを使って、口の修行をするのだ」
「きゅ、きゅうりで、な、なにをするのだ? それに、何で、口なんだ?」
激しく動揺するメムス。だが、徐々に自ら耳をポルノヴィーチに寄せていく。
二人のコソコソ話に、ジオは嫌な予感しかしなくなり、二人が話に集中している間にコッソリとその場から離脱。
「ったく……どいつもこいつも盛りやがって……こっちは、そういうことに、あんまりまだ気乗りしないってのによ……」
そう言いながら、ジオは落ち着けるところを探そうと、悪友たちを探してみる。
だが、気付けば、ガイゼンも、チューニも、そしてマシンすらも、村の宴会広場からは姿を消しており、更に一部の九覇亜も居ないことから、「どいつもこいつも……」と頭を抱えたのだった。
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