第47話 お持ち帰り
「おいおい、イジメんのはそれぐらいにしてやったらどうだ? 何も、殺すこたーねーだろ」
「そうじゃな。恐がっておるであろう。かわいそうに」
そのとき、六番目の命運も尽きたかと思われたとき、ジオとガイゼンが待ったの声を掛けた。
もう、これぐらいで十分ではないかと。
「いや……リーダーとガイゼンにも大半の理由はあると思うが……どちらにせよ、こいつの意志を確認したい。意志があればの話だがな……」
しかし、マシンはジオたちの言葉に頷かず、向けた掌にはいつでも光線を放てるように準備して、六番目の言葉を待とうとしていた。
すると……
「ちょっ、お、お待ちなさいな! あなたたち、どういう事情なのか、その子が何者なのかは良く分かりませんが、大の男が三人で幼い女の子をイジメるのはあんまりですわ!」
部屋の隅で巻き込まれないように退避していたフェイリヤだったが、この状況に我慢が出来ずに割って入ってきた。
「いや、お嬢様よ。こいつは、ただの幼い娘ではない。こいつは……」
「だまらっしゃいな! 女の子において優先すべきは、強いとか弱いとか種族がどうとか何者がどうとかではなく、まずはこの子が女の子であるということを何よりも優先すべきだと、なぜ分かりませんの!?」
「ッ……」
口を出すフェイリヤをどけようとするマシンだったが、フェイリヤの有無も言わせぬ言葉と強引さに、思わず後ずさりする。
しかし、それでも六番目の力が危険であることは誰もが見ていた。
「お、お嬢様、危ないですよ!」
「そ、そうだ! そんなに小さいけどあんなに強いんだから!」
不用意に六番目に近づこうとするフェイリヤを「危ない」とメイドやフラグ冒険団も慌てて止めようとするも、フェイリヤは構わない。
そして、フェイリヤは後ずさりするマシンを押して、蹲る六番目を抱きしめて頭を撫でた。
「見なさいな! ワタクシほどではないとはいえ、こんなに可愛らしいんですのよ? それを、オジオさんも、御マシンさんも、御爺さんも減点ですわよ!」
「って、おいおい、お嬢様よ、俺まで入るのかよ!? 俺なんて、そのガキに最初ぶっ飛ばされたから、ちょっと恐がらせて驚かせてやっただけだろうが!」
「そんなの、簡単にぶっとばされるオジオさんが悪いのですわ!」
「んなぁっ!? お、おいおい……」
フェイリヤの怒りの矛先はマシンだけでなく、ジオやガイゼンまで及んだ。
そして、フェイリヤに抱きしめられる六番目は……
「わ、私にマスター以外の者が触れるのは許さな―――」
「あら? あなた……ジ~~~」
「……?」
自分に気安く触れるなとフェイリヤを振り払おうとするも、フェイリヤは六番目の顔をジッと見て……
「あなた……本当に可愛い顔をしているではありませんの!」
「あうっ?」
「あ~んもう、お肌もプニプニスベスベですわ~~! お~よしよしよしよし!」
「はうっ、あう、ん、やっ、ますた~! わたし、ますた~の!」
まさかのフェイリヤの猫可愛がり攻撃に、マシンたちの脅威で体が竦んでしまっていた六番目には逃れることが出来ない。
六番目はフェイリヤの頬ずりやナデナデをされるがままになっていた。
「ったく、あ~あ、しらけちまったな。まさか、俺がイジメっこ扱いとはな」
「ぬわはははは、ウヌはそういう風に思われても仕方あるまい」
「あん? あいつが這い蹲るほどプレッシャーかけたのはお前だろうが!」
「そうじゃったかな? ワシわかんな~いの~」
すっかり、戦う気も萎えてしまったジオは、溜息吐いて全身から力を抜いた。
だが、マシンだけは微妙な顔をしたまま、ジッと六番目を見ている。
「んで……結局あのガキが何者かは知らねーが……どーすんだ?」
「……どうするも何も……」
「なんじゃ? せっかく起きた子供に、大人がしてやれることは無いのか?」
これ以上戦う空気ではない。しかし、ならば六番目をどうする?
すると……
「触らないで下さい。私はマスターの物。マスターだけの物。生涯私に触れるのも愛玩するのもすべてはマスターだけの権利」
ついに我慢の限界だと、フェイリヤに可愛がられていた六番目が声を上げる。
マスター、それは先ほどの様子だとチューニのこと。
「つうか、こいつはこいつで、初めて会ったはずのチューニにどれだけ一目惚れしてんだよ」
「確かに、今の時代のオナゴの好みは分からんの~」
「そういう機能だ……」
「まったく、つれないですわね。……ん? あら? 今の話だと……あなたは今後、そこで寝ている彼と……そして、乱暴なオジオさんたちと一緒に行動するということですの?」
「「「え???」」」
フェイリヤの言葉に思わず固まるジオたち。
六番目が今後も? そう思った時、ジオは露骨に嫌そうな顔をした。
「おいおい、俺は嫌だぞ! せっかく誰にも気を使わずに自由に遊ぼうとしてんのに、ガキが一緒に居たら気を使うじゃねーかよ」
「自分もそれは承諾できない」
「ワシはいいけどの~」
唯一ガイゼンだけがどっちでもいいような態度だったが、ジオもマシンもそれには反対した。
「あなたたちなど関係ない。私はマスターと一緒に居ます」
「だから、そのチューニは俺たちと行動してんだから、そうなるとテメエもついてくるってことになるんだろうが。俺らはそれがダメだって言ってんだよ」
「……マスターは渡しません!」
「いや、だから! って、あ~、もうめんどくせぇな」
ジオたちと行動をするとかそういうことではなく、チューニと離れない。そう強い意思を示すかのように、六番目は失神しているチューニに這うように進み、ギュッとその体にしがみ付いた。
まさに、駄々をこねる子供であった。
すると、その時だった。
「うっ、う~ん……はっ!? ぼ、僕は!? そ、そうだ、女の子にチュウされて……なんだ、夢だったのか……」
「マスター」
「ん? ひゃっあああ!? ゆ、夢じゃなかったんで!?」
ようやく目を覚ましたチューニ。起きて直ぐに六番目の顔を見て、先ほどの出来事が現実だったと改めて思い知らされてしまい、顔を真っ赤にして混乱した。
「い、いや、あの、ごめんなさいなんで、その、ぼ、僕、その……」
「マスター……私はマスターの物です。マスターを守り、マスターのおそばにいて、それで……」
「jf2い;wkllんvうぇp:!!?? いや、ほんとうにも何がどうなってるんで!? リーダーッ!!」
しなだれかかる六番目に、どうすればいいか分からずに助けを求めるチューニ。
そんなチューニに、ジオは頭を掻きながら……
「あ~、つまりそのガキがお前に一目惚れして離れないって言ってんだよ」
「ふぇっ!!?? そそ、そんなこと言われても……」
「まぁ、ついてくるとか来ないとか今そこらへんで揉めてんだが、とりあえずお前も好かれてる本人としてどうなんだ?」
「いや、ど、どうって、今日会ったばかりの子で、しかも年下で、ぼ、僕、女の子に好かれたことなんて……」
「いや、あのアバズレーが……いや、なんでもねぇ。昔の女の話題は別にいいか……とにかく、お前がどうにかしろよ」
「そんなこと言われてもッ!!??」
面倒だからチューニの口からどうするか本人に言ってやれと、チューニに丸投げするジオ。
だが、チューニも今起きたばかりで何も状況が理解できず、更にこういった状況にまるで免疫が無いためにどうすればいいのか分からずに混乱している様子。
そんなチューニに構わずに小さな体で目一杯チューニに擦り寄る六番目にチューニは……
「いや、あの、君」
「はい、六番目(セックストゥム)と申します。お好きなようにお呼び下さい。あだ名の候補で、セク、もしくは、せっちゃんというのがあります」
「あ、ああ、そうなの? ん、まあ、それはそれとして……」
「はいっ!」
目をキラキラさせてチューニに顔を寄せる六番目。チューニも思わず照れて顔を逸らしてしまう。
「いや、その……な、何で僕なんで? 僕よりいい男なんていっぱいいるんで」
「理由等ありません。私はマスターの物です」
「いや、そ、そ、そんな君みたいな小さい子が、も、もっと色々な人に出会ったりしてたら……」
「マスター以外との出会いは不要です」
「で、でも、その、だからっていきなりキスとかそういうのは……そ、そういうのはお互いをもっとよく知って、交換日記とか……」
間髪居れずに寄ってくる六番目に押され気味のチューニ。
そんなチューニの弱さに一同は哀れんだ目で見ながら……
(((((交換日記って、お前……)))))
(あら、男と女の交友は交換日記から! ちゃんと、御チューニさんは分かっていますのね!)
心の中で皆が一斉に突っ込んだ。……一部を除いて。
「と、とにかく! その、僕も君もまだ子供で、そんないきなり一生どうとかってのは早いというか、迂闊というか、だからそういうのは君も僕ももう少し大人になってからの方がいいと思うんで、だ、だから」
「おとな? それはいつですか? 私の容姿を大人びさせるのは可能です。大人でしか出来ない奉仕も当然可能です」
「そそ、そういうんじゃなくって、だ、だから、こ、心とか……」
グイグイと押してくる六番目を何とか回避しようとするチューニだが、六番目は止まらない。
だが、今のチューニの言葉を聞いた一人の女が、どこか感心したように頷いて……
「ええ、ならばこうするのがよろしいですわ!!」
「……えっ?」
突如、フェイリヤが割って入ったのだった。
「乙女の淡い初恋を無碍にするのはよろしくないですが、だからといって今のこの子とすぐに夫婦となるような関係になるのは倫理的によろしくないでしょう。もっと、色々な経験や知識を得て、身も心も成熟したワタクシのような女になってからでも、全然遅くありませんわ」
何かを思いついた様子のフェイリヤ。一方でこのとき周りの者たちは……
(((((お嬢様がまともなことを言ってる……)))))
と、心の中で驚いていたのだが、そんな周囲の反応に気づかずにフェイリヤは続ける。
「セクといいましたわね。あなた……我が屋敷にいらっしゃいな。そこでメイドとして働くのですわ!」
「?」
「メイドとして働くのは花嫁修業でも最も最適なものですわ。ワタクシのそばで働き、一人前の素敵なレディとは何たるかを学ぶのが最も最良ですわ!」
フェイリヤのアイディア。それは、六番目を自身の側仕えにするというものであった。
「ちょ、お嬢様ッ!?」
「なんでそうなるんだ?」
「何を言うかと思えば……危険だ」
「ぬわはははは、相変わらず、面白いお嬢じゃのう」
もちろん、まさかそんな提案をするなど誰も予想できず、誰もが驚き、そして六番目自身も当然首を横に振る。
「論外です。私がマスター以外のメイドになることはありえません」
そうキッパリと言う六番目だが……
「あら、あなたは経験不足を指摘されたにもかかわらず、未熟でありながら本命にお仕えしようということなんですの?」
「ッ、そ、それは……」
「それは、御チューニさんにも失礼ですわよ」
「ッ!? ま、マスターに失礼……」
「だからこそ、ワタクシはあなたが経験を積んで素敵なレディになるための場と機会を与えようとしていますのよ? それが分かりませんの?」
「それは……」
「そう、すべては最愛の主を喜ばせるためですわ」
「ッ!? マスターが悦ぶ!?」
「ええ、喜びますわ」
「マスターが……マスターが……」
意外な展開になった。なんと、フェイリヤの予想外の提案から続く言葉に、六番目が考え込んでしまったのだ。
これまで間髪居れずに「敵」「排除」「マスター」どれもを迷わず即断して発言していた六番目が、フェイリヤの言葉に何かを感じ取った様子。
そして、数秒考えた後、六番目は……
「分かりました。私はマスターにお仕えするために……経験値を積むために修行します」
なんと、六番目はキリッとした表情で了承したのだった。
「「「「「う、うそおおおおっ!!??」」」」」
まさか、説得されて心を動かされるとは思わず、皆は開いた口が塞がらず、当然マシンも最早呆れてしまっていた。
そんな中、完全に上機嫌になったフェイリヤは高らかに笑いながら……
「よろしい! では、いつまでもこーんな中身空っぽの伝説の都市は放っておいて、さっさと帰りますわ! ワタクシたちの故郷……ワイーロ王国に」
ようやくたどり着いた伝説の地に一切の未練も感じず、さっさと帰ろうと皆に告げたのだった。
しかし、結局この場所で収穫は何も無かったなとガッカリしたジオたちだったが、このとき持ち帰った六番目が実はとんでもないものだったとマシン以外の者が気づくのは、もう少し先になるのであった。
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