第27話 選ばれた者

「そ、そうか……これが……魔法無効化……」

「な、……えっ? な、にが……」

「半端な魔法は僕には届かなくて……仮に届こうとしても全部無効化する……これが僕の……!」

「むこっ、えっ? な、なんだ? なにが……そ、そうか! みんな、さてはこいつを気遣って魔力を僕にちゃんと渡さなかったな!? 中途半端なことはするな! は、はやく渡せ! こんなやつ、僕らの最強メガ魔法で―――」

「すごい……今なら、思い描いたこと……なんでも出来そうな気がする!」

「ッ!!??」


 自身の能力、そして溢れる力を徐々に理解していくチューニは、


「今度は両手で! 縦横同時に地面を切り裂くようにッ!」

「な、なにをっ!?」

「混沌が描く十字の光が、え~っと、えっと……あの、ええい! 混沌魔術師乃聖十字ホーリークロスオブカオスウィザード


 両拳を突き出して、同時に縦横十字に放たれた魔力のエネルギー。

 それは、閃光と共に生徒たちを避けるように大地を容易く削り取っていき、生徒たちが目を開けた次の瞬間には巨大な十字架が大地に刻み込まれていたのだった。


「あっ、あが……そ、な、なにが……」


 それは、あまりにも桁違いな威力。

 もし仮に、今のが僅かでも体に触れていたならば、容易く手足が吹き飛び、正面から受けていれば肉体は跡形もなく消滅していただろう。

 たとえ、戦闘経験のない学生たちですら、容易く理解してしまうほど分かりやすい力。


「僕に……こんな力が……ッ!!」


 それほどの力を自らの手で放ったことに、チューニは思わず強く拳を握って、興奮を抑えきれなかった。


「う、うそよ……な、なんなのこれ?」

「こんなの、みみ、みたことねーよ……」

「アレがチューニ? うそだ、うそだ……こんなのありえるはずがねえ!」

「そうだよ、だ、だって、この魔法、な、なんの魔法か知らないけど……明らかに私たちのメガ級よりも……」

「そんなはずは! ちゅ、チューニのやつが、め、メガ級の魔法を使うだなんて……」


 自分たちの知る最強魔法でもある、メガ級をも上回る威力の魔法。

 しかし、そんな力を、ましてやチューニが放ったことをどうしても認めることのできない生徒たちは、腰を抜かしながらも必死に現実を否定しようとする。

 だが……

 

「魔法における最強基準である『メガ級』ってのは、あくまで『学生』と『一般人』までの話だ」

「えっ!?」


 その時、地べたに座ってノンビリ観戦していたジオから、戸惑いを隠せない学生たちに向けて告げる。

 ジオの言葉に思わず顔を上げた生徒たちに、ジオは彼らも、そしてチューニ自身も知らなかった衝撃の真実を語る。



「まぁ、俺も軍人なるまで知らなかったが、この世にはメガ級よりもさらに上の『ギガ級』、『テラ級』なんてクラスの魔法が存在するんだ。まぁ、『テラ級以上』なんて使える奴は、世界でも数えるほどしかいねーだろうがな」


「「「「「……………えっ……」」」」」


「だから、今のチューニの技……えっと、カオスなんたら……えっと……あ~、とりあえず、今のチューニスペシャルは、ギガ級ってところだな。まともに食らえば、俺も結構ヤバい威力だな」



 知らなかった衝撃的な事実を目の当たりにし、もはや生徒たちは驚きの声すら上げられず、口を開けたまま絶句してしまっていた。

 それは、チューニ自身も同じだった。

 だが、一人だけ……


「うそだ……うそだうそだ! そんなことが……チューニなんかがそんな……だ、だいたい、僕たちは選ばれし者たちで……」


 先ほどの勇ましさは消え、半裸で腰を抜かしながら歯をガチガチ鳴らして震えるものの、必死に現実を否定しようと呟いているリアジュ。

 

「ぼ、僕は選ばれたものの中でも更に選ばれた者! 時代が違えば英雄になり、僕が中心となって誰もが称え、そ、そうだ、こんなのありえるはずがない! ぼぼぼ、僕は選ばれた存在なんだ! あんな落ちこぼれが、ぼ、僕より上なはずがない!」


 こんなことはありえない。ありえるはずがないと、必死に何度も否定する。

 だが、そんなリアジュに対して、ジオは嘲笑しながら……


「選ばれたって、そもそも誰に何の役割をさせられるために、選ばれたつもりだったんだ?」

「そ、それは……」

「ん……いや……やっぱ選ばれた存在なのかな? そうそう。お前らは……新たに生まれ変わって旅立つチューニの踏み台の役割として選ばれたんだな」

「ッッ!!??」


 それは、トドメのようなものであった。

 爽やかに、端正な顔立ちで微笑んでいたはずのリアジュの表情が、涙と鼻水が入り交じって崩壊し、更に……


「チューニ、餞別だ。もう一度、チューニスペシャルを見せてやれ!」

「ちょ、リーダー! 名前名前! 何その技名は何!? 僕の技はもっと……でも、まあ! リーダーのリクエスト通り、もう一度見せるぐらいなら……」


 腰を抜かすリアジュの前に立ったチューニは、ジオに言われて再び魔力を両手に込めていく。

 その、リアジュにとっては身も凍るような膨大な魔力。そして先ほど目の当たりにした強大な威力。

 

「あ、あわわ、あば、あ、あうあ、あ…………」


 それを、今度は間近でされたため、リアジュは恐怖のあまりにその整えられていた金髪もみるみると白く染まり、髪も数本パラパラと抜けて地面に落ちていく。



「っそ、そうだ、チューニくん! も、もう遊びはこれぐらいにして、皆でパーティーでもしようよ! ぼ、僕が好きなだけ奢ってあげるよ! ほら、僕たちは友達だったじゃないか!」


「両拳というより……両腕に力を溜めるようなイメージで……」


「あ、あああ、そ、そうだ! 僕のコレクションの一人で、簡単にヤラせてくれる娘がいて、しょ、紹介してあげるよ! 僕にベタ惚れで、僕に嫌われないためなら何でも言うことを聞く女の子だから! なんだったら、君にあげるよ!」


「すごい魔力を込めているはずなのに、僕の中にある魔力が減っている気がしない……これ、連発でも打てるかも」


「わ、分かった! も、もう、アザトーのことも君にあげるよ! アザトーなんて、僕のコレクションに加えられたらと思ってただけで、まだ摘まみ食いもしてないから、君も嬉しいだろ!」


「それに……アレがギガ級? すごい威力だったけど……多分……もう少し威力も上げられそうだ」


「お。おい、みんなも何やってんだ! 早くみんなで友達のチューニ君に何か言ってあげようよ! 女子も! そ、そうだ、女子は皆でチューニくんに再会のお祝いでヤラせてあげなよ! そ、それがいい! は、お、おい、早くしろよおおぉお! 早くクサレマ〇〇をさっさと出せヨォォぉお!」



 気付けば頭髪を失い、失禁してしまうほど壊れてしまったリアジュは、それでもどうにかチューニの機嫌を取ろうと、必死に崩壊した笑顔を見せていた。

 しかし、チューニの心にはリアジュの言葉など届かない。

 チューニはただ溜め込まれた魔力をもう一度発散するため、今度は十字ではなく、両手を合わせて一直線上に……



「暁の女神が下す神罰に飲み込まれろ……極光空間消滅砲オーロラディストーション!!」



 空間すら歪ませるほどの濃密に収縮された魔砲撃を、空に向けて放った。


「……えっ……あ……へっ?」


 ぐしゃぐしゃになった顔のまま呆然とするリアジュ。

 その上空では、チューニの放った魔砲撃によって辺り一帯の雲が吹き飛んでいた。

 雲に遮られぬ太陽の光を全身に浴びるチューニの瞳には、もうリアジュも、クラスメートも、そしてアザトーも映っていなかった。 

 今まで陰鬱な表情と空気ばかり発していたチューニとは打って変わって、どこか生まれ変わったかのように清々しい表情をしていた。

 そう、それは世界に新たなる大魔導師が生まれた瞬間でもあった。


「ハッピーバースデイ、チューニ。そして……ようこそ、ジオパーク冒険団に」


 そんなチューニの心境を察してか、ジオがケラケラと笑いながらそう告げると、チューニは少し照れくさそうにしながらも……


「まぁ……自分が一番弱いことには変わりないんで、あんまイジメないと約束してくれるなら……入ってもいいんで……まぁ……よろしくお願いしますなんで」


 その瞳はもう、過去ではなく、ずっと前を見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る