甘やかすも返り討ちされるお姉さん
今でも思い出せる。あなたに出会った時のことを。
私は……別に自慢することでもないし、嬉しくもないことだけどモテていた。男子にはしょっちゅう告白されていたし、何なら先生にだって電話番号を渡されたことがあったのだ。その時は流石に身の危険を感じて両親に相談し、その先生はすぐに居なくなったが……まあそれくらい異性にはモテていた。
お母さん譲りの美貌はもちろん、小学校高学年の時に急激に成長した胸にみんながこれでもかと視線を寄こすのだ。
『ごめんなさい』
何度目か分からない男子の告白を断る。それを続けていると私にはそんなつもりは一切ないのに、男子に色目を使ってはその気にさせて拒絶する女、なんて噂を立てられるまでになった。
おそらく、私を疎んだ女子が言い出したことだろうけど……まあそれなりに悪い意味で私は有名になった。
『……はぁ』
とはいっても直接的なイジメとか、何かを壊されたり隠されたりするようなことはなかったので別に問題はなかった。
そんな風に学生生活にあまり楽しみを見出せなかった私の趣味のようなものが動画配信だった。最初は普通にゲームをプレイする動画を投稿していたのだけど、ふとある時に思い立ったことがあった。それがワイプに胸を映しながら配信することだったのだ。
特に深い意味はなかったけれど、それが成功したのか一気に登録者が増えた。色んな人が見に来てくれることで、コメント欄と会話するのも段々と楽しくなり私はどんどん配信作業にのめり込んでいった。
でも、その時からだったかな。SNSのDMにお誘い……所謂オフパコの誘いであったり、金を払うから会ってくれないかとメッセージが届きだしたのは。
自分の容姿に自信があるとはいえ、そんなものに頷くことはなかった。それでも気持ち悪いことに変わりはなく、こちらがまだ中学生だと分かっているのに捕まるのも覚悟だからと言ってくるのは本当に死ねばいいとさえ思った。
こういう配信の仕方をしているから仕方ないとはいえ……っと、そんな風に少し嫌気が差していた時だった――あなたに、たか君に出会ったのは。
『……おっきぃ』
公園で初めて出会った時、君は私を見てそう口にした。あまりにストレート、あまりに純粋な驚きの瞳に私は面白くて笑ってしまったのだ。そこからまだ小学生だったたか君との時間が始まった。
真っ直ぐで純粋、裏表がないからこそ話していて苦しくない。私って年下が好きなのかなって思ったけれど、なんというかたか君を見ていると凄く可愛がりたくなるのである。
弟を可愛がる姉のような気持ち、私は一人っ子だったのでこれが姉弟みたいなものなんだなと思ったのだ。
そうやって学校では居心地が悪く、家では配信をし、たか君と会える時には一緒に遊んだりして……この中で言えば、たか君と遊ぶ時間が何よりも楽しかった。
『配信? 良く分からないけど、お姉さん綺麗だし可愛いもん。それに優しくておっぱいも大きいし凄い人だと思う』
『ふふ、ありがとう。でもおっぱいが大きいだなんてたか君はエロガキだなぁ?』
そう言っていつものように私よりも背の低いたか君を胸に抱いて彼の反応を楽しむのだ。顔を真っ赤にしながらも、離れようとはしなかったたか君が可愛くて可愛くて仕方なかった。……そして、その時に気づいたのだ。綺麗、可愛い、告白の度に言われていた言葉……それをたか君の口から聞いた時にドクンと心臓が跳ねたのを。
『……ねえたか君』
『なに?』
『たか君は……お姉さんのことが好き?』
『大好きだよ?』
うん、これはもう結婚だわ。
「……?」
ふと、私は目を覚ました。
何か懐かしい夢を見たような気がするけれど何も覚えてはいない。自然と笑みを浮かべてしまうような夢だったのかなと思いながら、私は隣に顔を向けた。
「すぅ……すぅ……」
気持ちよさそうに眠るたか君が傍に居た。
同時にそんなたか君を見て思い出すのは昨日のこと……日付が変わったのは余韻の時だし昨日という表現で良いだろう。
ようやく、私はたか君と深く繋がった。
ずっとずっと求めていた……というと私が変態みたいに聞こえてしまうけど、それでもたか君とそれが出来たのは本当に嬉しかった。
「……ありがとうたか君」
二十一にもなって処女はみっともないかな、そんな問いかけをした時にたか君はそんなことはないと言ってくれた。むしろ自分が初めてになれて光栄だと、同時にたか君の初めてが私であることも幸せだと言ってくれた。
まあ私としては、たか君以外の男の人なんて考えられなかったからこそ今まで経験がなかった。高校の時の友達の中には興味本位で捨てる人も居たけれど、私にはそれが一切理解できないくらいに……初めてを含め、体を許すのはたか君だけとずっと決めていた。
「……ふふ、こうやって関係が出来たのだから本当に遠慮はいらないわよね?」
もっともっと、私にたか君を溺れさせてみせる……その逆も然りで、私がたか君に溺れてしまうかもしれないがそれもありだ……ってどこからか既に溺れてんだろと聞こえたけど気にしないでおこう。
眠っているたか君を見ていると、昔のようにとことん甘やかしたくなる。それは起きている時も同様なのだが、少しやってみたいことがあったので行動に移した。
「よいしょっと」
起き上がった私はたか君を起こさないように近づき、彼の枕元に座ってゆっくりと頭を持ち上げた。何事かとたか君は体を動かすものの目は覚まさず、どうにかたか君を起こすことなく膝に乗せることが出来た。
気持ちよさそうに眠り続けるたか君の頭を撫でながら、私はパジャマのボタンを外すのだった。そうして少し上半身を倒し、ちょうどいい位置を探すようにたか君の口に向かって胸を下ろしていく。
そして、ビリっとした心地よい感覚が背中を駆け抜けていく。
まるで赤ん坊のように眠り続けるたか君を愛おしく思いながら、私はそのままスマホを手に取ってエゴサを開始した。
マシロ、そうやって文字を打つとサジェストに彼氏と出てくるのだった。
「……ふ~ん、まあ大方予想した通りかな」
全部が全部祝福の言葉ではなく、汚い言葉を使って罵っている人も数名いる。けれどやっぱり祝福の声の方が多かった。
マシロの彼氏が羨ましい、マシロの彼氏が妬ましい、マシロの彼氏が……っと続く言葉に私は苦笑する。でも同時に思うのだが、私の彼氏は未来永劫に渡ってたか君だけだ。あなたたちが私の隣に立つ日は永遠に来ない……なんて、勢いに任せて言ったら流石にマズそうだ。
「……えっと」
私はたか君の手に自身の手を重ねた。
男の子らしい大きな手と、私の小さな白い手が重なっているその光景をスマホを使って写真に収め、それをSNSにおはようございますと付けて投稿した。
「写っているのはベッドの上で重なる二人の手……ふふ、これだけなのに色々と想像出来てエッチね♪」
まあここがベッドかどうか分かるかは置いておくとして、中々に想像力を搔き立てるような写真には違いない。
昨日の今日でこの投稿、それでも私は大変満足していた。
そうしてスマホを置き、改めてたか君を感じようと思ったら……。
「ま、真白さん……」
「あら、おはようたか君♪」
目の前に広がる私の胸を見て目をパチクリとさせるたか君が可愛い。流石に口は離したけれど自分がどういうことをしていたのか理解したらしく、段々と頬に赤みが差していった。
けれど、まさか……まさかこの後に齎されるたか君の言葉、それに私が一発で撃ち抜かれるなんて思わないでしょう流石に。
「真白さん……その、横になってもらえませんか?」
「??」
良く分からなかったけど、たか君にそう言われ私は再び体を横にした。そうしてたか君が私の体を思いっきり抱きしめるようにしたのだ。腕を背中に回して強く抱きしめられ、私は幸せな温もりを全身で感じる。
「甘えたいのかしら?」
「はい……でも一番は――」
次よ次! 次の言葉だったのよ!!
「朝の始まりは好きな人を抱きしめたいです。俺、自分が思っている以上に真白さんに夢中になってますね今更ですけど……愛していますよ真白さん」
「……………」
うん、これはもう結婚だわ。
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