休憩中に色仕掛けするお姉さん
『こいつ煽ってない? 煽ってるよねよし来たぶっ飛ばす』
:やったれ!
:完全に煽ってますわ
:俺もおっぱいに煽られたい
:俺も
:俺も
:どういうことなの
俺はあれからもスマホで真白さんの配信を見ていた。最初はホラーゲームをしていたのだが今はFPSのゲームに変わっている。色々なゲームが得意なオールラウンダーな真白さんだがこう言うゲームも上手だ。流石にプロゲーマーとかと比べると見劣りするのは仕方ないが、それでも十分上手いと思っている。
……まあ果たして今配信に来ている2万人程度のうち何人くらいがちゃんと画面を見ているのかは知らないけど。とか言いながら、俺もチラチラとワイプに映る真白さんの胸を見てしまうわけだが。
『君さっき私を煽ったよね? 覚悟、出来てるよね?』
:ドSボイス助かる
:もっと言ってほしい
:マシロさん今度の配信者大会出るの?
『大会私は出ないよ。色々と打ち合わせとかめんどくさそうだから』
今やっているFPSのゲームなのだが、定期的に有名な配信者やプロゲーマーを交えての大会が開かれることがある。賞金とかも出るので大会が開かれるたびに結構SNSのトレンドになったりするのだ。
真白さんも人気の配信者ということで誘われたりするのだが、その全部を断っていると聞いたことがある。
「……でも出たら出たで応援したい気持ちもあるんだけどな」
他の人は顔出しするだろうし、そうでない人も居ると思うので胸だけ出している真白さんは変ではないかもしれないけど……う~ん、真白さんが乗り気でないなら俺が考えても仕方ないか。
『少し休憩するね。喉乾いちゃった』
そう言って真白さんは離籍するように立ち上がった。視聴者のみんなにいってらっしゃいと見送られる形で、今俺の居るリビングに繋がる扉が開いた。
「あぁ疲れたわ。たか君~♪」
「おっと」
正面から抱き着いて来た真白さんを受け止め、俺は真白さんが出てくることを見越して用意していたジュースを差し出した。
「ちょうど来るかなと思って用意していたんですよ」
「ありがと♪ うん、美味しいわぁ」
ごくごくと素晴らしい飲みっぷりに俺まで笑顔になってくる。喉を潤したからといってすぐに戻るつもりはないのか、真白さんはソファに座り込んで腕を天井に伸ばすようにして気持ちよさそうに声を漏らす。
「う~ん……はぁ……ずっと同じ体勢だとやっぱり凝るのよねぇ」
「寝る前にまたマッサージしましょうか?」
「本当!? 是非お願いするわ!」
凄い乗り気だな……俺は分かりましたと頷いた。
「真白さん、コメントでも言われてましたけど大会出ないんですね?」
「あぁ、うん出ないわ。打ち合わせがどうとか言ったけど、あまり話したくない人が出てるから」
へぇ、それは知らなかった。真白さんはコラボ配信とかは本当に稀にしかやらないのもあって配信者間の繋がりはそこまで深くはない。SNSなら同じようなことをしている人やグラビアの仕事をしている人とは少しやり取りをしたりもするんだけど……少し気になるな。
俺の視線から真白さんは察してくれたのか、苦笑しながら教えてくれた。
「直接話したことはないんだけど、ゲンカクさんっていう配信者が居るんだけど」
「元プロゲーマーの?」
「そうそう」
ゲンカク、元プロゲーマーで今はストリーマー部門に転向した人だ。真白さんがやっているFPSゲームが物凄く上手いものの、相手を煽ったりする行為などで度々問題視されていた。
「良く配信で私のおっぱい揉みたいとか抱きたいとか言ってるのよね。視聴者さんからのコメントと切り抜きを見る機会があったからそれで知ったのよ」
「……へぇ」
それを配信の場で乗せれるのは強いな。魂に毛が生えているレベルではないと思うけど、それが理由で真白さんの視聴者はゲンカクが嫌い、ゲンカクのファンである女性リスナーが真白さんを嫌うという悪循環が見事に出来上がったらしい。
「ゲンカクって名前なのに欲望満載なんですね」
「そうそうそれ! たか君良い事言うじゃない!」
まあゲンカクっていう名前が厳格をイメージしているかは分からないけど、何となくそう思って言ったら真白さんには大層ウケていた。
「そんなことがあって私は出たくないわけ……なんだけど、実はもう一つ理由がありましてですね……」
「?」
突然モジモジしだしながら真白さんはチラチラと俺を見つめてくる。首を傾げる俺に真白さんはおずおずと話してくれた。
「大会が始まると二時間か三時間は画面の前に居ないとダメでしょ? トイレは最低限として飲み物とかは手元に置いておくけど……そんな長い時間、たか君が傍に居るのに会えないなんてお姉さん耐えられないわ」
「……それはオーバーなのでは?」
そう言うと真白さんは目をぐわっと開いて頭を振った。
「オーバーではないわ。たか君が傍に居るとお姉さんは定期的にたか君に抱き着かないと死んじゃうの。匂いを嗅がないと生きていけない、抱きしめてたか君の感触を感じないと頭がおかしくなっちゃう!」
「……そんなにですか?」
「そんなにです! こんな風にしないとお姉さんはダメなの!」
さっきよりも力強く、絶対に離してやるもんかという意思を感じさせるような強いハグだ。そして、真白さんは背中から倒れるようにソファへと横になった。すると抱きしめられている俺はどうなるか、当然引っ張られるように倒れてしまう。
どうにか真白さんに体重を掛けないように体勢を変えたのがマズかったのか、俺の左手が真白さんの胸にジャストミートしていた。しかも何を間違ったのか胸を下から持ち上げるようにしていた布が捲れてしまい露わになっている。
「……あ」
至近距離で見つめ合う距離、左手には大きな胸の感触だ。指を限界まで伸ばしても肉が指と指の間からはみ出るほどの大きさ、そして手の平の中央で少しずつ固くなっていくそれに俺は思わず手を離そうとして出来なかった。
「たか君、このままお姉さんとゴールインしよう?」
耳元で囁かれたその言葉に、正直脳みそが沸騰していたかもしれない。けれど寸でのところで踏み止まった俺は何とか立ち上がり、不満そうに唇を尖らせる真白さんから距離を取った。
「……距離を取られるの少し傷つくわね」
「ご、ごめんなさい」
そう言われて俺は慌てて真白さんの傍に再び近づくと、真白さんは表情を一転させて笑顔を浮かべた。
「ふふ、冗談よ冗談。たか君は本当に優しいわね! そういうところ好きよ大好き結婚したいから早く高校卒業してね?」
正直な話、真白さん配信のこと忘れていると思ったけどそうではなくちゃんと覚えていたらしい。服の布を元に戻し、胸の先端がちゃんと隠れていることを確認した真白さんはボソッと呟いた。
「もう少しだったのに……でも、悪くない感触ね……むふ……むふふ♪」
その動物で言うところの豹みたいな雰囲気を出すのやめてもらえませんかね、肉食動物に狙われているようで怖いんですが……。
「よし、それじゃあ後半も頑張ってくるわ!」
「頑張ってください真白さん」
うんと、元気よく返事をした真白さんは配信部屋に再び姿を消すのだった。それから俺はさっきと同じように真白さんの配信を見るのだけど、そこでスマホに宗二から電話が掛かってきた。
「もしもし?」
『おう隆久、こんな時間に悪いな!』
「いや、全然いいけどどうしたん?」
『マシロさんの配信見てたか?』
お前が電話を掛けてきたせいで見れなくなったよ、そう伝えるとすまんすまんと宗二は笑っていた。
『……あれ、でもお前パソコン持ってたよな?』
「……………」
ちょっと分け合って今は手元にないと伝えると、宗二は簡単に納得してくれた。けれどなんでこんな時にわざわざ電話をして来たんだろうか、宗二は思い出したように言葉を続けた。
『いや……秋月君が教えてくれたんだが――』
秋月というのは同じクラスの友人で、今朝に大井たちに絡まれた俺と宗二に気にするなと言ってくれたうちに一人である。そんな秋月君がどうしたんだと思っているとこんなことを宗二は言うのだった。
『……いやよ、今日の夕方に隆久に似たやつが金髪巨乳美女と親しそうに歩いてたなんて話を聞いてよ』
「……あぁ」
『隆久、俺たち親友だよな? 高校生の間は共に彼女なんて作らず、童貞を貫き通すって誓ったよな?』
「そんな誓いを立てたつもりはないんだが……」
『隆久あああああああ!! それはお前なのか!?』
俺はそれからしばらく、めんどくさくも愉快な友人の相手に時間を潰すのだった。結局見間違いだろと言うと宗二は機嫌を直し、それもそうだよななんて失礼なことを言って電話を切りやがった。
「……これバレたらバレたで……ふむ」
「何がバレたらなの?」
いつの間にか背中に居た真白さん、どうやら配信が終わるまでずっと俺は宗二と話をしていたらしい。今の電話のこと、そして宗二が真白さんの大ファンであることを伝えると真白さんはそうなんだと笑みを浮かべた。
「正直、時々高校生に見せるような内容じゃないこともやってるし大丈夫なのとは思うけど……ま、こういう世界だし自己責任ね♪」
それはまあ確かにそうである。真白さんの人気配信の一つにASMRというものがあるが、あれは本当にエロい。耳が溶かされる感じがして……とにかくヤバい。
「でもその子からしたら災難ね?」
「災難?」
「だってそうでしょう? その子がずっと応援してる私が、実は君の親友と出来ちゃってるんだよって知ったらどうなるかなぁ?」
妖艶な雰囲気を纏わせながら真白さんはそう言った。その姿は本当に大人としての余裕、そしてエッチな雰囲気を思わせた。
「出来てはないですけどね」
「むぅ~!!」
そしてすぐに、子供っぽく不満を爆発させる真白さんも可愛かった。
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