第95話 悪意に敏感なだけ
周囲を警戒するが、遠くから迫る気配は感じなかった。
正直なところ、これで終わりだとは思っていない。
必ず拠点としていた場所があるはずだから、見つけ出す必要がある。
森だろうと林だろうと、飲み食いするだけでも大きく痕跡を残す。
それは"人がいる"なんて話ではなく、足跡やキャンプの規模から人数も大まかに分かるし、どっちへ向かったのかも浮き彫りになる。
それを知らずにいるような馬鹿なら、とっくに捕まっていた。
だが、沼地に隠れられる洞窟のような場所はない。
ツリーハウスや野営地も報告には上がっていないそうだ。
だとすれば、可能性はひとつ。
今回の一件で頭目を捕まえられた点は大きい。
これで存分に調査隊を派遣できるからな。
転がる盗賊どもを引きずりながら、俺たちはウルマスさんの下へ戻った。
適当に地面へ放り棄て、憲兵隊が縄で捕縛した。
「……本当に驚かされてばかりだな、ハルトには……」
「俺ひとりじゃ、この一件に関わろうとも思わなかったよ。
信頼できる実力を持つ先輩たちがこれだけ揃ってるからこそ上手くいったんだ」
「謙遜すんなよ!
お前の実力にゃビビったし、さっきまでは大丈夫かよって本気で思ってたが、どうやら俺らの見る目がなかっただけだったんだな!
悪かった!」
清々しいまでの笑顔で答える男性冒険者だが、元はと言えば俺が悪い。
それについてもしっかりと謝罪しなければならない。
「作戦に集中するためとはいえ、先輩方の前であの態度はない。
不快と不安にさせてしまったことを、心から謝らせてもらうよ」
穏やかな口調と頭を下げたことで、場の空気が一気に和らいだ。
言動で示さなきゃ伝わらないことってのは本当にたくさんあるからな。
どんな理由があろうと、それを怠って自分の役目に集中した俺が悪いんだ。
「あとは、東と南か。
ウルマスさんは不安げに話した。
正直なところ、今すぐにでも向かいたいんだろう。
特にアニタさんは大規模作戦の指揮を任せられるほど経験を積んでいない。
精神的負担は相当なものを抱え込んでいるはずだから、そのサポートへ向かいたいと思う気持ちも間違いではないし、そうしたい気持ちも痛いほど分かる。
だが、持ち場を勝手に離れるわけにもいかないからな。
まずは地面に転がる馬鹿どもをパルムへ連行しなければならない。
冷静な行動を取り続けることの難しさを感じていた、その時だった。
「……ク……カカカ……。
馬鹿どもが……俺が何も策を弄してないと、本気で思うのか?
お前らがここにいるのは百も承知なんだよ。
死んで後悔しやがれ、クソ
「なんだと!?
どういう意味だ!?
答えろ!!」
ヴィレンさんが吼えるように詰問する。
同時に俺は、男の頬を強く掴んで行動を封じた。
「素直に自決させると思うのか?
お前には聞きたいことが山ほどあるんだ。
自分勝手に終わらせるんじゃねぇよ、
「――ッ」
血の気を引かせるように、男の顔色が一気に変化した。
激しく暴れて振りほどこうとするも、それを俺が許すわけもなく、ヴィレンさんが自決防止用の猿ぐつわを付けるまで強引に押さえ続けた。
「よし、これでいい。
でかしたハルト!
良く気付いたな!」
「気色悪い気配を感じたからな。
こいつの素性を考えれば、その道を選ぶだろうと思っていた」
「……すごいな。
君は、そういった心の機微も気配として感じられるのか……」
「悪意に敏感なだけだよ」
本心からそう思う。
昔から俺は、そういったことに鋭かったと記憶している。
思えば陰口を叩いてる奴も知覚できたし、子供の頃から培ってきたものなのかもしれないな。
「……しっかし。
コイツ、最後に何を言いやがったんだ?
まだ盗賊団規模の仲間がいるってのかよ。
それともコイツがボスじゃないって意味か?」
「どちらも調査する必要はあるが、まずは周囲警戒を続けつつ町へ連れ帰る。
この男は重要参考人として情報を吐かせる必要があるからな」
「取り巻きのふたりも帝国兵の可能性が高いが、どうやらそれどころじゃないみたいだぞ」
「どういうことだ、ハルト」
この場にいる者たちすべての意識がこちらに集中する。
だが、そう悠長に話をしている時間はなさそうだな。
「10時方向から1匹の魔物が迫ってる。
負ける可能性も想定して魔物寄せを使ったのか、それとも初めから混乱に乗じて逃げおおせるつもりだったのかは転がる男に聞かなければ分からないが」
「じゅ、10時方向だと!?」
森の入り口方面となる
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