第017話 ダークエルフのくふふ

 ――下がれ、ダクタッ!


 …………。


 ――下がれ、ダクタッ!


 …………。


 ――下がれ、ダクタッ!


 ……くふ。


 ――下がれ、ダクタッ! 


 ……くふふ、ふふ。


 ――下がれ、ダクタッ! ……じゃって。


 ……くふふふふ。


 ――下がれ、ダクタッ! ……じゃって!


 くふふ。え、えへへ。

 うふ、あは、ふへへへ。

 くふふふふふふふふふふふふふ。


 初めて見る魔物。

 策もない。

 魔法も使えん。

 武器も持っておらん。


 なのに、なのに……くふふ。

 

 ――下がれ、ダクタッ! ……じゃってさ!


 りゅうのすけではナシュララに勝てん。

 戦えば大怪我は必至じゃ。

 死ぬことだってあるかもしれん。

 

 なのに、なのに……くふふふふ。


 余はむしろ怒りたい。

 無謀な行為じゃ。

 戦いなんぞ余に任せておけばええ。

 命はもっと、大事に扱うべきじゃ。

 

 それを、あんな咄嗟に、余の前に出て……。

 まるで、身体が勝手に動いたみたいに……。


 ――下がれ、ダクタッ! ……じゃって……じゃって!


 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。

 りゅうのすけ。


 りゅうのすけの背中は、いつだって大きい。

 りゅうのすけの背中は、いつだって温かい。

 りゅうのすけの背中は、いつだって優しい。


 りゅうのすけは、いつだって隣にいてくれる。

 りゅうのすけは、いつだって声を掛けてくれる。

 りゅうのすけは、いつだって余に触れてくれる。


 嬉しい時も。不安な時も。

 悲しい時も。楽しい時も。

 りゅうのすけは、いつだって余を抱きしめてくれる。


 りゅうのすけ、ありがとう。


 …………。


 …………。


 …………。


 …………。 


 ……じゃけど。


 じゃ、け、ど!


 やっぱりあれはダメじゃ。

 りゅうのすけが魔物と相対するなんて、絶対ダメじゃ!

 かっこええけど、めちゃくちゃかっこええけど、ダメじゃ!

 嬉しいけど、めちゃくちゃ嬉しかったけど、ダメなものはダメじゃ!


 じゃから、余はりゅうのすけを叱らねばならん。

 魔物は滅多におらんほど数が減ったが、ゼロではない。

 気性の荒いやつもおる。 

 

 じゃから、身を守る術を持たんおぬしは、余の後ろにいればええのじゃ。

 余を頼るのじゃ。

 余に任せるのじゃ。

 余はいつだって、りゅうのすけの剣にも盾にもなる。


 じゃから、余はりゅうのすけを叱らねばならん。


 じゃと言うのに。

 

 く、くく……。


 じゃと言うのに。


 く、くふふふふふふふふふふふふふふ。


 か、顔のにやけが戻らぬ……!

 か、顔のにやけが止まらぬ……!


 あ、あぁ、りゅうのすけが、ものすごく心配そうな表情をしておる……。


 すまぬ、すまぬ……。

 じゃが、じゃが……。



 今はダメなんじゃぁぁああああああ~~~~~~~~~~~~~!





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