第三章 祈祷師ソーイ -2-
ソーイは祈祷師であって、慈善事業者ではないから。自分の為すべき事項に追われ、とても他を顧みている余裕はない。
妖精と人間が仲良く?
(そんなの無理に決まってる)
……でも。だからこそ。
ソーイはミーナの自由で真っ直ぐな瞳が、羨ましいのだった。
もちろん口にも態度にも出さないが。
治療を終え、後はシエラが目を覚ますのを待つだけの状況で、ソーイは頬杖を突いて彼女を眺める。
投げ出された四肢、ふっくらとした頬は赤みを取り戻しつつある中で、唇の色は未だ紫色のまま。
規則正しい呼吸と微かな吐息の音が微かに掬い取れ、辛うじて回復の兆しが歩み寄っているのが分かった。
もうこれ以上状態が悪化することはないだろう。
ソーイは肩を回して部屋の扉を開けた。階段に座り込んでいたリュユヒエンがソーイを見上げて立ち上がる。
「具合は?」
切迫した声色に幾ばくかの安堵を混じらせている。
「大丈夫だ。……それより、あの子らは?」
姿が見えない。一階へ降りて行ったのかとも思ったが、二人はなかなか姿を現さなかった。
リュユヒエンが扉を視線で示す。
「エルフのところへ。――ミーナの友達の、ライトエルフの棲む森に」
「……危ないとは思わなかったのか?」
リュユヒエンはソーイの質問に焦れたのか、足早で答えながら脇をすり抜け、部屋の中へと入った。
ミーナはあまり口に出さないけれど、人間と同じくらい妖精と仲がいい。
その中でも親友と呼ぶのとそう変わりない間柄にあるのはライトエルフ。緑が陽を吸い取っている、濃い森の中に棲む美しい妖精。
仲がいいのを疎んでいるわけではないが、今エルフの太矢騒動の真っただ中にあるというのに、森は危険だろう。
(否、それよりも……)
「クルトは平気なのか?」
「――平気って?」
様々な薬草の芳香が四散する寝室の正面、シエラの寝るベッドへ一目散に駆け寄ったリュユヒエンが何拍か遅れて返事をする。振り返った彼の表情は大分和らいでいた。
「……一応、シエラはそのまま安静にしていれば直に目が覚める。早くて今晩、遅くても三日後くらいには」
「ありがとう。本当に君がいて良かった」
リュユヒエンの花も怯む綻びに、思わずむず痒くなる。ただでさえ整った顔立ちの彼に、息を呑むとはまさにこのこと。
ソーイは逆光でもないのに目を瞬かせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます