第三章 祈祷師ソーイ -1-



 ソーイは小さい頃から、優等生である事を求められてきた。

 ただの祈祷師の息子としてではなく、七の揃う類い稀な才能を生まれ持った身として。何が何でも優等生でなければいけなかった。


 ソーイ自身、物心ついた時から自分は特別なのだと認識していたし、それを苦に思った記憶もない。

 父から教えられる内容を全て暗記して、実際の治療では新しい発見を胸に咲かせ、次に生かす。真摯に向き合っていれば自ずと結果はついて来て、ソーイはいつしか自分の村だけでなくスカイ島全土に出向く、一級の祈祷師になっていた。


 他の祈祷師にはない期待の重圧もあったが、それが焦りへと転じる前に、結果は自分の目の前にあると分かっていた。

 だからソーイは見えている結果に手を伸ばすだけで十分過ぎるほどだったのだ。


 今。目の前にいるリュユヒエンの妻、シエラは、エルフの太矢特有の、血が出ないしこりを有している。

ミーナが発見した、妖精の無邪気な悪戯。悪意と好奇心が織り混ざり合い、純真な邪気を宿して爛々と眼を輝かせる。

 ソーイは寝不足を噛み殺して眉間に皺を寄せた。


 ミーナは妖精と人間の間を奔走し、悩み事を拾い上げてくる。

 他人の疝気を頭痛に病むばかりか、背負わなくてもいい厄介ごとを、さも当然だと背負い込み、ソーイの生温い視線を訝しむ。

 分かっていないのだ、ミーナは。

(妖精と人間とじゃ、違い過ぎる)


 年齢も、寿命も、食べ物も、好みも、住む場所も、善悪でさえ。死ぬ目に遭いたくなければ、妖精に対抗できる手段を会得する必要がある。

 松明を振りかざす相手に素手で手を伸ばせば、火傷するのは必然。


 妖精と仲良くなろうなんて、幼子の無垢な夢だ。

 どうにもできない違いにやきもきしている暇はない。少なくともソーイは、ミーナのように根本的な問題の解決をしようとは全く思わない。

 患者がいれば治療する。

 それ以上は手に余る。

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