第34話

「ふあ……っ。良く寝た」


 早めにベッドにもぐりこんだおかげかいつも以上にスッキリ目覚める事が出来た。やっぱ人間たっぷり睡眠をとらないといけないね。

 しかし、これからは地獄のような凸凹街道を行かなくちゃなんないのかと思うと帰りたくなってくるな。一応悪路を想定してサス代わりの風魔法を用意したんだけど、想定以上に路面が酷すぎた。


「あー……帰りたい」

「お客さーん。飯の時間だよー」

「はーい」


 さて……と横を見てみると、明らかに飲みすぎて体調最悪であろうヴォルフが顔を真っ青にしながらすがるような目でこっちを見てくるが、勿論自業自得なので一切の手助けはしない。


「朝ごはん食べないの?」

「……ぃ」

「だから飲みすぎるなって言ったじゃん。助ける気はないから出発までには起きて来てねー」


 背後で何かつぶやいてたようだけど良く聞こえなかったし、そもそも聞き入れるつもりもなかったんでさっさと部屋を出て1階の食堂へ行くと、ルッツが驚いた顔を見せる。


「こんな時間に起きてるなんて、リック様のそっくりさんネ?」

「失礼だな。昨日はたっぷり寝たからその分スッキリしてるだけ。いただきまーっす」


 朝メニューは焼き立てっぽいパンに薄めのベーコンが挟まってる。

 飲み物は……リンゴっぽい風味がする酸っぱいジュース。

 それにサラダか。悪くないね。

 理想であれば朝は和食が食いたいが、長い間食わなくなると郷愁とか欲求がグッと薄まるからこれでも十分すぎるくらい満足できる。


「ヴォルフは起きてこないネ」

「潰れるまで飲んだんだから当然でしょ。ルッツは平気そうだね」


 昨日寝る前にちらっと見た時は冒険者チームと一緒になって酒を飲んでいたが、二日酔いした様子がないところを見ると途中抜けでもしたのかな。


「ワタシ、昔から酒をいくら飲んでも酔わないヨ」

「便利な体質だね」

「そうネ。お陰で有利な商談を何度も交わしたヨ」


 ニヤリと悪そうな笑顔を浮かべる。どうやら相手を酔わせて不利な条件にサインさせようと仕掛ける事は結構あるらしく、酔わずに酒をどれだけ飲めるのかというのは商人にとって重要な体質のらしい。


「今日はどのあたりまで行くの?」

「一応2つ先の野営地が目標ネ」

「今日は野宿なんだ」

「仕方ないネ。村・街ごとに移動してたんじゃ到着が遅くなるヨ」

「ああ。別に悪いって言ってる訳じゃないって。だったら昨日もあんな早起きしないでどっかの野営地で寝泊まりすればよかったんじゃないかなって」


 正直昨日は朝早すぎた。お陰で道中はずーっと寝てた。そして気付いた。もしかしたら何か有用な植物とか植わってたんじゃね? って事に。

 あの日あんな早く起きてなければその調査が出来たかもしれないのに……なんでわざわざ無茶してまでこの村に寄ったんだろうか。


「決まってるネ。ヴォルフが気兼ねなく酒飲みたいだけネ」

「あぁ……なるほど」


 つまり、自由に酒が飲みたいがためにあれだけ急いだって訳か。良かったぁ……っ。二日酔い治さんで。


「ごちそうさん。さて、それじゃあ出発の準備しないといけないね」

「その辺は奴隷がやってくれるからこっちは楽ネ。けどそっちは大変——って訳でもなさそうネ」

「そうだね」


 馬車の移動は魔法で出来るし、馬に関しては村人がルッツ側の御者と一緒に世話してくれてるんで、俺がやる事といえばぼーっとしてるか暇つぶしに村の中を観光するくらいか。


「とりあえず出発の時間まで村の中見て回るけどいいよね?」

「冒険者を一人連れて行くのが条件ネ」

「必要なの?」


 どうやら村の一人歩きは危険らしいけど、俺は一応魔法が使えるんで、光魔法の結界を張っていれば、命を狙われたとしても死ぬような事にはならないような気がする。

 まぁ、フェルト並の攻撃を仕掛けられたら危ないけど、そういったレベルの魔力を持つ存在はこの村にはいないんだけどね。


「念のためヨ」

「別にいいけど、来れるの居るの?」

「ちゃんと全員無事ネ」

「おはようございますルッツ殿」


 そんな話をしてるとタイミング良く三人が降りてきたんでルッツから俺の護衛の話をすると、ギンが真っ先に手を挙げたんで一緒に宿を出るとすぐさま土魔法で板を作って移動開始。


「おいおい。自分の足で歩かねぇのかよ」

「面倒じゃん。疲れるし」

「かぁーっ。そんなんじゃ運動不足になるぞ?」

「平気だよ。適度の運動は欠かさないし」


 雑談をしながら近場の店を覗いてみると、雑貨屋らしく棚には雑多にものが置かれている。やる気はあまりないのかな?


「すんませーん。商品見てもいいですかー」

「……歩きでなら構わんよ」


 ジロリと睨まれたような気がしたが、特に気にする事なく店に入って鑑定魔法で簡単な用途を調べる。


「お? これは……」

「なんだそりゃ。人形にしちゃあ随分薄汚れてんじゃねぇか」


 ボケっと鑑定してるとふいに一つの商品に目が行く。

 見た目はただの薄汚れた人形だけど、魔力を流すと簡単な動きをするらしいが、どうやら壊れているらしい。

 とはいえ、これを分解・調査すれば農作業を肩代わりしてくれるAIゴーレムが作れるかもしれない。そう考えると案外掘り出し物かもな。


「おっちゃん。この人形いくら?」

「……銀貨一枚だ」

「おいおいおっさん。こんな人形に銀貨一枚は取りすぎだろ」

「いいよいいよ。もしかしたら俺の役立つものかもしれないからそれで買うよ」


 ぐーたらのための投資は惜しまない。これを惜しんでるようでは俺のぐーたらにかける想いなどその程度かと鼻で笑われるからな。

 ポケットから銀貨を取り出して店を出ると、すぐさま分解。ギンがびっくりしたような顔をしたが気にも留めずに慎重に中を開けてみると、思った通りに魔法陣があった。


「随分とシンプルだな」


 とはいえ人形は決して大きい訳じゃない。このくらいが精いっぱいなんだろう。

 よく見れば経年劣化か何かで魔法陣の一部が欠けている。木製なので仕方ない部分はあるが、読み切れないほどじゃない。


「……よし」


 これは後にとっておこう。今は村の探索の方が重要。何もないかもしれないけど、何かあったら村としては儲けもんだし、何より無駄に時間を過ごすよりはマシだからね。


「次行ってみよー」

「おう」


 それから八百屋で大根っぽい野菜を数本、肉屋で解体し終わった骨を大量に譲ってもらった。


「そんな大量の骨なんてどうすんだよ」

「出汁を取る」

「だし? なんだそれ」

「飯がより美味しくなるものだよ」

「へー。そんな骨で本当に美味くなるのか?」

「一応はね」


 これで昼——はちょいキツそうかな? できてなかったら夜のスープに使おう。今までの味気ないスープと違い、これだけ大量の骨を使って煮出せばそりゃあもう濃厚なスープとなってくれるだろう。

 牛・豚・鳥の三種からなる骨をそれぞれ一食づつ使えば三食は固い。

 そして大根。これは腐るほどある塩を使って漬物を作ろうと思う。生まれてからだから五年ぶりか。米が強烈に欲しくなる可能性大だけど、大根を見た瞬間に漬物食いたいと思って買っちゃったんだよねぇ。


「しっかし変なモンばっか買うな」

「そう? 俺としてはいい物を買ってるつもりだけどね」

「ラーシュと骨。それに薄汚れた人形もだろ? どう考えても変だぜ?」

「まぁ、趣味みたいなもんだからね」


 大根と骨はともかく、人形ばかりはどんな動きをするのか次第だね。もし指定ができるんであれば耕す用と収穫用を作る。出来なければ……そうだ。プレゼントに組み込んで動く人形としてみるのも悪くはないかもな。


「おっと。そろそろ時間みたいだぜ?」

「じゃあ戻ろうか」


 ちらっと見ると、迎えに来たっぽいルッツの奴隷の姿がある。

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