3.

「久し振りだな、姉さん」


「なんで、どうして……。どうしてアンタがここにいるのよ、はぎっ――……!!」


 ぶるぶると震えの止まらない拳をそのままに、私はどうにかその一言を吐き出させる。だけど萩は全く表情を変えない。冷徹な面を維持させている。


「あの人に訊いたの……?」


「あの人って、もしかして親父のことか? 仮にも一時、自分の父親だったにも関わらず、そんな風に呼ぶんだな」


 私は何も答えない。いや、答えられないと言った方が正しいと思う。


 そんな私を追い詰めるよう、萩はくすりと唇をゆがめさせる。


「……まさか。問い質したけど、親父は最後まで教えてくれなかった。

 姉さん、この間、テレビに出ただろう?」


「テレビ? テレビってまさか、『幸せ家族策略』のこと?」


「そう、それ」


「テレビには出たけど、でも、萩はテレビ全然見ないじゃない」


「確かに俺は見てなかった。けど、番組を見てたクラスの連中から連絡が来たんだ。お前がテレビに出てるって」


 なっ、なっ……。なんで、どうして……。


 お父さんじゃなくて別なのが釣れちゃった――!!? 


 本来狙っていた獲物ではなかった所か、全く予想もしていなかった事態を招いちゃった。


 ひくひくと私の頬は引きつる。


「それにしたって、一体どうやってここを突き止めたの!? いくらテレビで私のことを見たからって、住所まで分かるはず……。

 大体、なんなの。さっきから私のこと、『姉さん』なんて呼んで。今まで一度だって、そんな風に呼んだことない癖に!」


「なんだよ。こっちは気を遣って、せっかくお前の顔を立ててやってたのに。だったら、もういいや。望み通り、普段通りにしてやるよ」


 萩は、私の周りに集まって来ていた兄さん達のことをぐるりと見回す。


「そこにいる人達、お前とは半分だけ血が繋がってるんだっけ? その兄さん達が有名人だったおかげで楽に調べられた。

 今の世の中、本当に怖いよな。ネットで名前を検索するだけで簡単に個人情報が手に入るんだ。射撃に弓道、それから柔道だっけ? それらの大会の入賞記録がさ。そしたらみんな同じ学校だったから校舎の近くをふら付いてたら、運良くその一人と接触できて。それで、ここまで連れて来てもらったんだ」


 その一人――桜文兄さんを眺めながら萩は淡々と答える。


「ああ、うん。萩くんを連れて来たのは俺だけど……。

 だって牡丹ちゃんとは友達で、どうしても会いたいって言うから。かわいそうだなあと思って、それで……」


 じとりと恨めし気な視線を送り付ける私に、桜文兄さんはすっかりしどろもどろだ。ごめんねと謝ってくる。


 そんな桜文兄さんを押し退けて、梅吉兄さんが身を乗り出して、

「おい、牡丹。そろそろ教えてくれよ。結局、そいつはお前のなんなんだ?」

と萩のことを指差した。


「梅吉兄さん……。その、えっと……」


 だけど、いつまでも言い渋る私に、萩が横から割って入って、

「俺は足利あしかが萩。牡丹の義理の弟です」

と勝手に後を続けさせる。


 すると梅吉兄さん達は、そろってぽかんと間抜け面を浮かべさせた。


「へっ……? 義理の弟って……」


「俺の親父と牡丹の母親が再婚したので、俺達は姉弟になりました。とは言っても連れ子同士なので血縁上の関係は一切ありませんが。

 だけど数か月前、母が亡くなった矢先、牡丹の父親のことを知るという人物が俺達の前に現れて。その人から父親の元に来ないかと誘われると、コイツは俺達との関係を捨てて家を飛び出しました」


「な、なによ、その言い方。別に捨てた訳じゃ……」


「それじゃあ、他になんて言えば良いんだよ」


「それは……。だ、大体、私がいなくなって清々してる癖に。私のことなんか、もう良いでしょう!? これ以上、私に構わないでよ!」


「そういう問題じゃない!

 お前は勝手に家を出て、親父はその後のお前に関することは一切教えてくれなかった。……けど、やっと見つけた」


 萩は一度そこで区切り、小さく息を吸って吐き出させてから、

「牡丹、帰るぞ――」

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