3.

「ええいっ、プレッシャーがなんだ! 

 いいか、みなの者! 何が何でも絶対に百万円をゲットするぞ!!」


「おおっ、すごいやる気ですね。えー、それでは天正家のチャレンジスタートです!

 さて、最初のゲームはこちら! 野球式的当てゲームになります」


 司会者の話によると、機械から発射される球をバッドで打ち返して的に当てるという単純なゲームで。十球以内に的である九枚のパネルの内、三枚打ち落とせばチャレンジ成功だそうだ。


 ゲームへの参加権は一人一回なので、誰がどのゲームを選択するかも勝敗の分かれ目になりそう。


「どうする、的当てか。やはり始めはバラエティ番組らしく王道で来たか。こういうのは最初が肝心だからなあ」


 ぐるりと互いが顔を見合わせる中、藤助兄さんが司会者に向かって手を上げ、

「あの、ボールを打つ時、バットを使わないといけないんですか?」

と訊ねた。


「そうですが、何か問題でもありましたか?」


「いえ、バットの代わりにフライパンを使うのはダメですか?」


 まさかの藤助兄さんの発言に司会者は目を点にさせて、

「えっ、フライパンですか? ええと、どうしましょう……。えっ、おもしろそうだからオッケー? 前番組のお料理番組で使ったものがあると。

 フライパンでも大丈夫だそうです」 


「それなら、まずは俺からいくよ」


 番組側からオッケーが出て、藤助兄さんは一歩前に進み出る。フライパンを手にすると、兄さんはコンコンと軽くボールを使って打ち慣らしをする。


「おい、藤助。大丈夫か?」


「ああ。丁度、いつも家で使ってるメーカーと同じだから。手にしっくり馴染むよ」


「それでは準備の方はよろしいですか? 今回の的当てゲーム、バットではなくフライパンを使っての挑戦となります。前代未聞、果たして、この選択は吉と出るか凶と出るか。それでは、天正家の最初の挑戦スタートです」


「それじゃあ……、まずは真ん中の五番!」


 機械から発射された球にタイミングを合わせ、藤助兄さんは腕を大きく振り回した。


 瞬間、カコーンと球はフライパンの中心に当たり、甲高い音がスタジオ中に響き渡る。球はそのまま真っ直ぐに、五番のパネルに直撃! パネルは、ぱたんと後ろに倒れ落ちた。


「あ……、当たりました……。一球目、宣言通り五番のパネルに命中です!」


 続けて二球目、三球目も、兄さんの宣言通りの所に命中し――。


「天正家の一回目のチャレンジ、ストレートでクリアです!」


「わーい! やった、やった、サイクロン掃除機だ!!」


「さすが藤助。見事なフライパンさばきだったな」


「いや、フライパンさばきって……」


「思い切り用途を間違ってますよね」と、つっこむ私の声など誰の耳にも届かない。ただ目の前の勝利に、みんな貪欲にも喜びに耽る。


 そんな中、次のお題は瓦割りだと発表させる。五分以内に瓦を一枚ずつ、計二十枚全て割ることができればクリアだそうだ。


「力仕事と言えば、ここはもちろん桜文だな」


「頼んだぞ」梅吉兄さんは、桜文兄さんの背中をどんと叩いた。


「ああ、分かった。でも……。

 あのう、一枚ずつ割るのは面倒なので、一気に割っても良いですか?」


「へっ、一気にって、二十枚全部ですか? 構いませんが、しかし万が一怪我をされても当番組で責任を負うことは……」


「それなら大丈夫ですよ。ウチの三男は丈夫なのが取り柄なんで」


「はあ、そうですか。

 それでは瓦を設置し直した所で、天正家の二回目のチャレンジ……」


「スタートです」そのアナウンスと同時、ガッシャーンッ……!!! と甲高い音がスタジオ中に響き渡った。問題の瓦の束は一番下の一枚まで、真っ二つにきれいに割れていた。


 わっと沸き起こる歓声に桜文兄さんは照れ隠しとばかり、薄らと赤く染まった頬を軽くかいた。

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