7.

 なんで、どうして地下や山の中でもないのに圏外なの? ウソでしょう。それとも私のスマホ、壊れちゃったのかな。


 どうしよう。これじゃあ助けを呼べないよ。本当に大ピンチだ。


 こうなったら……、自力で逃げ出すしかないっ!!


 私は床の間に飾ってあった日本刀を用心棒代わりに拝借し、襖の前で一つ大きく深呼吸。心を落ち着かせると襖の引き手に手をかけ、そして。すぱんっ! と一気に開け放つと、そのまま部屋を飛び出した。


 背後から部屋の前で見張っていた男達の慌てた声が聞こえて来たけど、私はそれを無視して走り続ける。


 玄関はどこだろう。早くここから出ないと捕まっちゃう。私は時折身を隠しながらも、がむしゃらに広い屋敷の中を走り続ける。


 だけど出口はなかなか見つからない。その上、私が逃げ出したことが屋敷中に知れたみたい。追っ手の数も増えているように感じる。早く脱出しないと。


 そう思うのに、……ああ、もう! また行き止まりだ。玄関はどこなのよ!?


 家が広過ぎるのも困りものだと思っていると、近くからバタバタと足音が聞こえて来た。


 いけない、捕まっちゃう。だけど目の前は壁だ。


 私は迷った末、とっさに近くの部屋の中に入り込んだ。


 耳を澄まして外の様子をうかがうと、どうやら足音の主達は、私がこっちには来てないと思ったみたい。すぐに足音が遠ざかっていった。


 ひとまず助かった、と安堵の息をもらしたの同時。ふと人の気配を感じたけど、気が付くのが遅かった。背後から、がばりと肢体を捕らえられる。


 しまった、捕まった――!??


 口をふさがれた私は、悪あがきとばかり暴れまくる。


 だけど。


「落ち着け、牡丹。俺だ、俺」


 この声は……。


「道松兄さん!?」


 私の口をふさいでいたのは、道松兄さんだった。


 私が落ち着くと兄さんの手が口から離れ、私は小さく深呼吸をした。


 道松兄さん、助けに来てくれたんだ――……!


 兄さんの顔を見たら緊張の糸が切れちゃったみたい。体中から力が抜けていく。


 兄さんは私の顔をのぞき込んで、

「どうした。アイツ等に何かされたのか?」


「いえ、大丈夫です」


「そっか」


 道松兄さんは短い息を吐き出すと私の頭に右手を添え、それから抱き寄せて、

「巻き込んで悪かった」

 そのまま私の首元に顔を埋めた。


 道松兄さん……? どうしたんだろう。なんだかしおらしくて、いつもの兄さんらしくない。兄さんのあせった顔、初めて見たな。兄さんの髪の毛が首に当たって、少しくすぐったい。


 兄さんは、

「怖かっただろう」

 私の頭を優しくさすった。


 兄さんのその優しい圧力に、私は素直にうなずいた。


 兄さんの言う通り、本当はすごく怖かった。どうなっちゃうんだろうって、家に帰れるのかなって不安だった。


 思わずぎゅっと兄さんの服の裾を掴むと、兄さんは、ぽんぽんと私の頭をなでてくれる。


 その心地良い感触にすごく安心して、

「私なら大丈夫です」

 もう一度そう言うと、兄さんはゆっくりと顔を上げていった。兄さんの顔は、いつもの仏頂面に戻っていた。

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