第12話※
1月3日。
朝食を摂ると先日、匠馬のお婆さんに貸して頂いた青地の拗梅柄の着物を着させてもらって毎年行くらしい神社へ初詣に行く事に。初詣、といっても近所の小さな神社に行く程度で、これといった思い出はない。正月といっても両親共、貧乏暇なしで家にいない事の方が多かった。そんな少しだけ悲しい思い出を振り返りながら、着物に袖を通した。着慣れない着物と化粧は少し、疲れるけど匠馬が行くのを楽しみにしてくれているので、頑張ろうと顔を上げた。着替えをすまし、車を見て智風は固まる。お父さんの車、BMWX5 M 。勿論、新車に、誘導されたからだ。こんな高級車に乗せてもらえる日がくるなんて思ってもいなかったので、汚してしまったらどうしよう、という緊張で微動だにできなかった。緊張しまくりの初詣を終え、漸く家に帰りつくと、真っ黒のハマーが家の前に停まった。走っているのを見た事はあっても、こんな間近に見る事が出来ないので、嬉しくて目を輝かせる。
「タクマ、見て見て!ハマーだよ!凄いね!は~、カッコいい!ハマーだ!」
匠馬の服の袖を引っ張って目を輝かせていたのだが、ハマーから降りて来たのはクラス長の大河原陵。何故、彼がここにいるのか分からず、智風は慌てて匠馬の背中に隠れた。
「おめでとうございます。おじさん今年はゆっくりですね」
玄関先で新年の酒を手渡しながら2人して頭を下げ
「あぁ。年末匠馬が手伝ってくれたお蔭でな」
家に上がるように促し、お父さんは着替える為に自室に戻って行った。
「よう!屋嘉比!流石にそんな格好してたら誰だかわかんねーな」
気づかれないように隠れていたつもりだった智風は、急に声を掛けられ『ひぃぃぃーーー!!!』と声にもならない悲鳴を上げる。只ならぬ脅えに陵と匠馬は顔を見合わせ、笑っている。
「な!何故!大河原くんが!ここにぃ!」
「ちー怖がらなくって良いよ。陵は幼馴染でボク等の事は知ってる。けど、他人に言って回る奴じゃないから心配しないで」
「は、はい…」
智風はガタガタと震えながらほんの少し顔を出し、陵を見ると、彼は『やっぱり屋嘉比だな』と安心した様に頷く。丁度そこへ、タイミング良く母に呼ばれた智風は慌てて家の中に入って行った。
それから3日間、陵は智風が他人に慣れる為にと、通って来た。(はっきり言って智風をからかいに来ているだけ)
ーーーそして、1月6日。
台所で料理を作っている間、陵と智風は客間でバイトの採点をしていた。大分慣れたか、智風も陵に髪で顔を隠さなくなったし、自ら話を振る努力もし始めた。
この日のおやつは2種類のカステラ。カステラにザラメが入っている物は少し苦手だ、と伝えると智風の好みの物を作ってくれた。本当に美味しいカステラだったので、ついつい2人前食べてしまう程。陵も綺麗に食べあげ、許嫁の姉を見舞う為に帰って行った。
「じゃあ、また学校でな」
返事は頭を下げる事で表現し、ハマーを見送る。
「さて。部屋に入ろうか」
陵を見送り、匠馬は智風の手を握る。
「あのね、採点も終わったし、あたしもアパートに帰るよ。大家さんが何日も帰って来ないから心配してるし」
「え?帰るの?」
「うん。明後日から学校もあるし。…それと、隣のお婆ちゃんも娘さんの処に行ってるらしくって。…でね、タクマ」
ツン、と服の裾を引っ張り顔を下げる。
「一緒にアパートに来ない?話しがあるの」
***「ごめん、一寸余裕無いから、先にちーを喰べさせて」
「ま!まって、ねぇ、タクマ!話し聞いてっ」
ゆるいタートルネックのニットワンピがベッドに下ろされた際、不本意にも下着がもう少しで見えそうなところまで裾が捲り上がり、『誘ってる?』と聞かれても仕方がない格好になっている。露わになっている太股に匠馬の長い指が這い、彼だけが知っているイイトコロを撫でた。
「ひゃぁっ、ダメぇ!」
膝の下に手を入れ、足を折らせると膝頭を舌で舐めて歯を立て喰す。上半身を持ち上げようとしても、愛撫で力が抜けてしまい甘い声を出さないように必死で手の甲を使い、口を押える。必死に抵抗をみせる智風に、匠馬は細い目を更に細くして微笑むと、内股に舌を這わせて何時もの場所にきつく吸い付いた。
「っふ、んん!」
背中に甘い快感がピリピリと突き抜ける。すると、智風は何かを思い出し様にブツブツと呟き出した。
「あっ!あ、…な、な・がっ・流されちゃ、ダメだ、流されちゃダメだ、流されちゃダメだ!」
何処かで聞いた事がある様な言い方に、匠馬は思わず太股から顔を上げた。
「ち、ちー?あの、し〇じ君ゴッコ?」
「え?し〇じ君?誰それ?」
「…いい。今のは忘れてね。で、誰に教わったの?」
「大河原君。流されそうになったら使いなさいって」
「陵め…」
恨めしそうに匠馬は胡坐を掻いて唸り、サラサラの髪をぐしゃぐしゃにして口を尖らせている。智風も慌ててニットワンピの裾を戻し、匠馬の前に正座をして、『あのね』と口を開いた。
「あたしとタクマって住む世界が違うと思う」
「智風!」
切れ長の瞳が驚き、というよりも恐れを含んだような色に変わり、匠馬は身を乗り出した。智風は匠馬の薄い唇をそっと指で触れ
「最後まで聞いてくれる?」
首を傾げ微笑んだ。
「あたしの母は父より9つも年上で駆け落ちして、それで父は実家から勘当。屋嘉比は母の姓なの。それまで貯めていたお金とかも全部取り上げられて、無一文で母の許に転がり込んで。ようやく落ち着いた処にあたしが出来ちゃったから、母は教師を辞める事になって。仕事も祖父から圧力掛けられて、転勤させられてね。県境の町で小学校3年生まで暮らして…。虐めで、口が利けなくなったあたしをカウンセリングに連れて来るのに毎週何時間も掛けて通ってくれてたんだけど、結局、会社辞めてここで再就職先見つけて又、ここに戻って来たの。でも、あたしが中学2年生の時に父が仕事で因縁付けられて、口論の末に父がその相手に怪我をさせちゃったらしいの。…それで慰謝料として1000万円払えって事になって、なけなしの貯金叩いたり生命保険解約してもまだ足りなくって、住んでいたマンション売ってこのアパートに引っ越して来たの。それでね、高校の入学式の前の日に母が怪我をしちゃって、病院に連れて行く途中で玉突き事故に遭っちゃって。…今あたしが学校行けているのも父の兄弟が祖父に内緒でお金かき集めてくれたお蔭。学校、私立でしょ?でも、それだけじゃ生活出来ないから、許可貰ってバイトしてたの」
智風はゆっくりと瞼を閉じ、一呼吸置く。
「…ジュエリーショップと塾の年商3億円とか4億円いくんだってね。あ!大河原君ってあの代議士の息子さんなんでしょ?吃驚したよ!それに1.800坪もある敷地に住んでるんだってね。その上、許嫁も居て。何か、タクマの周りの人達もお金持ちだし、何て言うか……あたしにっとっては未知の世界の人達、で…価値観も違うなってずっと思ってたの。だって、普通の家には契約農家なんて来ないからね?電話一本で外商が家に来たりなんかしないよ?」
今度は困ったように笑うが、笑いきれない。
「お父さんとお母さんの好意はすごく嬉しかった。でも、身分の違いを思い知らされたし、あたし場違い、んっ」
喋り終わらぬうちに口を封じられ、きつく抱きしめられる。抵抗をする気も無く、すんなりと舌を絡み取られて吸い上げられ、唇が離れると、ぐいっと引き寄せられて匠馬の胸に倒れ込んだ。そして、匠馬は智風を抱きしめた儘、後ろに倒れると天井を見詰め大きくため息を吐く。
「あのさ、ボク言ったよね。ボクには智風が必要だって。…あ〜、もう、何でそんな考えに向かっちゃうのかな〜。それにさ、母さんの家だって普通の家庭だし、ばあさんなんて孤児の上に中卒だよ。だけど、誰も偏見の目で見たりしてないし、年末智風を連れて行って何か言った?陵が莫迦にした?してないでしょ?何でそう勝手に思い込むの?身分の違いって何だよ。今時。全く、卑屈になってひとりで突っ走らないで。それから、ボクから離れたいとか考えない事」
その言葉に返事を返す代わりに智風はギュッと匠馬にしがみ付く。“あたしはずるい”と心の中で思いながら。本当は『そんな事思わなくていい。離れる必要は無い』と匠馬の口から言わせたかったのだ。やっと見つけた居場所を失いたくない。共に生きて欲しい、なんてそんな贅沢な事は思ってない。ほんの少しの隙間でも良いから目立たない様にするから、置いていて欲しい。“結局、あたしも業突く張りの人間で、タクマの優しさを利用している最低な人間なんだ”と自分を罵りながらも、姑息な手を使っても安住の地であるこの場所に居座り、孤独と言う闇から目を逸らしたいのだ。
「卑屈になっても何も変わらないよ。過去は変えられない。だから未来ってあるんじゃない?」
「変わる為に?」
「そ。変わる為に」
智風の頭を撫でながら匠馬は優しく笑う。
「ま、足掻いてもすぐにどうこうなる訳じゃないしね。うだうだ考えても埒が明かない。それよりお互いを理解する事を優先しない?」
匠馬は言葉を言い終わる前に位置を入れ替え、智風を組み敷いた。陰気な雰囲気をサラリと流してしまおうと気を使ってくれる匠馬に感謝する。そして、智風は降ってくるキスを全身で受け止めた。ブラの隙間から手を差し入れ、やわやわと胸を揉み乳首を軽く摘まむ。
「ぁ…ん、」
智風の口から甘い声が溢れだすと、匠馬は項から尾てい骨にかけて舌を這わせていく。腰骨にあるホクロの処に赤い痕を残し、すでにシミが出来てしまったショーツを取り払われた。そして、味見をするかの様に形の良い尻たぶを匠馬は甘噛みし、痛みなのか、快感なのか分からない刺激が全身を駆け巡る。
「はぁ、ん…ぁっ」
匠馬の指が、舌が、吐息が、躰に触れる度に躰の奥底がキュッとなり、潤い始めるのが分かる。指先で秘部をゆっくりとなぞられただけで、トロリ…と溢れ出し、感じている事が分かる。
「…あっ、ん」
智風は受ける愛撫に躰を小刻みに震わせて枕にしがみ付いた。これは両親が使っていたダブルのベッド。“お父さんとお母さんが寝ていた場所なのに”と思うと一層、智風の躰は熱くなった。にゅるっと
「ふ…、ん、っくぅ…」
隣人が居ないと分かっていても、智風は恥ずかしさの余り、声を最小限に抑えた。簡単に指でイかされ、小刻みに呼吸を繰り返していると仰向けに。すると茂みに息が掛かりクリトリスを吸われ、智風の躰が弓なりにしなった。
「やぁ!やだっ、汚いっ…ヤ…メッ」
匠馬を押し退けようと必死で腕を突っ撥ねるが、無駄な抵抗。音を立てて吸われ、舌を挿し込まれる。
「はっ、あ!だ、ダメっ…、きた、な、いっ」
“汚い・嫌だ”と思っているのに、躰は素直に感じ取り無意識に腰が動く。しかし、何度も絶頂を迎えそうになると愛撫を止められ、焦らされて躰がもどかしくてどうしたらいいか分からない。
「あっあ、っはぁ…んん!」
そして、必死に『イかせて欲しい』と泣きながらお願いしていた。その言葉に匠馬の口角が上がっているくのが分かる。吸いながら舌でクリトリスを転がされ、膨らんでいる部分を指の腹で揉まれ、智風の頭の中は真っ白になっていた。
「潮、吹かせてあげたいけど、ベッドだしね。今度、お風呂場でイッパイしてあげる」
恥ずかしくて反応したい処だが、躰がいう事を聞かない。くったりと脱力しきっている智風の下に自分が着ていたシャツを敷き、匠馬はゴムを装着し足を大きく開き、その間に入り込む。正直、10日振りで余裕が無いが、秘部に塊を何度か擦り合わせてゆっくりと差し込んでいくと、智風の躰が強張り、『ひっ』と息を飲んだ。
「え?ちー?」
完全に痛みに耐える智風の顔に驚き動きを止めた。
「い、痛いっ。お願い、ゆっくり、してっ、」
匠馬は目を丸くするしかなく、初めての時同様、入り口からゆっくりと何度も差し入れを繰り返し、奥を目指して進んで行く。いや、初めての時より慎重だったかもしれない。乳首の愛撫も丹念に繰り返し、口を放すとまだして欲しそうにヒクヒクと誘う。
「痛くない?」
不安そうに聞かれ、こくり、と智風は頷く。その顔に匠馬は安堵した顔でキスし、動き出した。久し振りだからだろうか、匠馬の塊が大きく感じられ、圧迫感が半端でない。
『ゴメン、余裕無い』と言いながら匠馬はピンポイントで攻め、智風はしっかりとイかされ、啼かされ続けた。
ーーー気付けば後片付けを済ませた匠馬が布団に入って来る処だった。躰を起こそうとすれば、手伝ってくれキャップを外したペットボトルを渡される。良く冷えた水を喉を鳴らし飲むと
「男前に飲むねぇ」
感心されて智風は顔を赤くした。箪笥から探し出してくれたパジャマ(上のみ)を着せて貰っており、脱いだ服も綺麗に畳まれている。細やかな心使いが出来る人だ。しかし、匠馬の家と違い、寒いこの部屋でよくボクサーパンツだけで居られるものだ、と感心してしまう。
「あのさ、気になってた事があるんだけど…、その、生理って来てる?」
布団に潜り込んで横になった匠馬に急に質問され、智風はどう答えていいか分からず、言葉を濁らせた。
「あ…、えっと…」
「いや、この1ヶ月“生理だから出来ない”とか言われてないからちょっと気になって。ボクそういう事も把握しときたいんだよ。智風の事はきちんと理解してたいから。…無理して答えなくてもいいんだけど、そのね、出来たら教えて欲しい…」
「……あのね、あたし、その、生理不順、なの…。半年とか平気でなかったりするの。それで…来たら来たらで、1ケ月ぐらいダラダラと続いて…。前半は出血が酷いから2〜3日目は貧血になる事が多くって…」
「い、1ケ月!?それって大丈夫なの?」
流石に驚いて上半身を起こし、匠馬は眉を顰める。
「大丈夫、じゃないと思う…。ご、ごめんね、先に話しておくべきだったよね…」
「そ、そっか。…あ、後さ、独りでご飯食べる時って何食べてるの?それと、独り暮らししてるのにマヨネーズが1キロって…」
「えっと、ひとりの時は納豆ご飯か、卵掛けご飯食べてて…。その、あたし、超マヨネーズ好きで、何にでもかけちゃうの…」
「何でも?」
「うん。お刺身でも、ハンバーグでも、コロッケでも、おにぎりでも、パンでも」
想像したようで黄水が上がりそうになったのか、匠馬は口を押える。
「も、もういいです(汗)…智風、生理不順なのはそのせいでは?っていうかさぁ、一緒に住もう!君の食生活が心配でたまんないよ!マヨネーズ好きなのは仕方ないけど、良くない!後、産婦人科とかにもちゃんといこう?ね?」
匠馬は眉間を指で押さえ、大きなため息を吐くと同時、智風のお腹が“ぐぐぅ〜〜〜”と豪快に鳴り響いた。
「え〜っと、…お腹すいたから卵掛けご飯食べて来る」
布団を捲ろうとした智風の手を匠馬は止める。
「駄目!チャーハンでも作ってあげるから待ってなさい!それに、ボクが作るご飯にマヨネーズは禁止!」
「タクマのご飯は掛けなくても大丈夫なんだよね。不思議」
その言葉に少し目元を赤くして匠馬は持って来ていたスエットを穿き、ベッドから立ち上がった。
「…タクマが女の子だったら良かったのに」
ピクリ、と上がった眉毛。
「ご飯食べたら覚悟しといてね。ちー」
そして、左右に細い月の様に吊り上げられた口。笑ってない目。
今夜は寝れない事を智風は悟った…。
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