第10話
やっぱり止めればよかったかなあ。
休日で天気も良かったのでオルヴェスの卵があった山へハイキングに行く事にしたのだが、これがもう大変であった。
先だって来た時は調査団の一行だったので荷物は全て剛力が持ってくれていたのだが、今日は個人の山登りなので当然自分の荷物は担がなくてはいけない。体力など皆無に等しい魔術写本屋のうら若き乙女にはとても厳しい話だったのだ。
「はー、ちかれたあー」
もう何度目かの休憩を取ることにした。それでも多少は登ったので景色はいい。
オルヴェスは自力でぱたぱたと飛んで、当たりを見回したり鳥を追ったりしていた。やはりドラゴンというのは山が好きらしい。
「やっぱ山とか好きだよね」
水を飲みながらその様子を見てそう言葉をかける。
「海はキライなのにね」
この前一緒に海岸を通りかかった時の事を思い出して少しにんまりした。この傍若無人な赤ちゃんドラゴンが凍りついたようになってしがみついてきたのだ。
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「ここ覚えてる?」
目的地の洞穴についてオルヴェスに話しかけた。ここがオルヴェスの卵があった洞穴である。恐らく親ドラゴンはもうここには居ないが、なにかあったら危険なので奥へは行かないようにした。
「あんたの卵はここにあったんだよ」
オルヴェスにそう話しかけたが、オルヴェスは楽しそうに飛び回っているだけで特に何の反応も示さなかった。
「まさかこんなに早く羽化するとは思わなかったなあ」
最初は羽化するまで年単位はかかるだろうと言われていたが、もって帰ってきて数日もしないうちにヒビが入った時は驚いたものだ。
「覚えてるわけないか」
よく考えれば当たり前である。卵の中にいたんだもの。
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「はあ、はあ」
えらいことになってしまった。
「ちょっとー、オルヴェース」
わたしは背中のリュックサックの上でしがみついたまま寝ている赤ちゃんドラゴンに声をかけた。よく考えれば当然の事が起きたのである。
「寝ーなーいーでー、重ーもーいー」
子供というのは体力配分など全く考えずに力の限りに遊んで、力が尽きたら唐突に寝てしまうものなのである。
「起ーきーてー、飛ーんーでー」
とはいえそれを担ぐほうはたまったものではない。8kg以上の荷物を追加なんかされたら運動不足のこの身体では背中が折れてしまいそうだった。
しかしオルヴェスは聞こえていないのか、全く起きる気配はなかった。
ドラゴンとわたし @samayouyoroi @samayouyoroi
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