第24話
数日して、ジングウジくんと講義が同じだった。ゴンダさんの講義は久しぶりだ。
「このところ忙しくて。なかなかお相手できずすみませんね。お二人とも公務はいかがでしたか。ハルシャさまもシュウトクさまも褒めておられましたが。」
ジングウジくんはシュウトクの公務を見学をしたらしい。
「特に難しいとは思わなかった。」
「そうですね。知らないことばかりでしたけど。」
ジングウジくんと俺は答える。
「今日は皇室の一員としての心構えとか、そういう話をしていきたいと思います。お二人は市井での暮らしを経験していますから、なんとなくわかると思いますが。」
ゴンダさんは、はぁ、とため息をついた。
「皇族はパンジャーブの象徴。政治的権限は今はありませんが、国際的に見ると国民の代表として国賓と会うことも多い。そういう立場の者としての生き方をしなければなりません。わかりますよね。」
俺たちは頷いた。
「国賓の方達と話すためには、その国の歴史や文化、また、パンジャーブの歴史や文化に造詣が深くないといけません。相手の国にとってのタブーなども知る必要があります。知らなかった、という理由で失礼なことを言ってからでは遅いのです。国の代表ですから。」
その通りだと思う。だから、俺たちは日本の歴史と世界の歴史を平行して学んでいる。受験勉強と重なるところも多いが、教科書には載ってない話も多い。
「そして、もう一点。国民の代表として、国民からは相応しい在り方を求められます。」
ゴンダさんはこめかみのあたりを抑える。
「進学先、言動、婚姻など…。」
言いにくそうだ。
「お二人はどのようにすべきだと思いますか?」
「どのようにも何も。」
俺は言った。
「障りのないようにすればいいんだと思いますけど。」
「そうなんです。」
ゴンダさんは激しく同意する。
「サイファ様は姉君を見ておられてその辺りをとてもうまくやられました。相応しい相手と手順通りに。ただ、恋は燃え上がってしまうもの…。」
ゴンダさんは悔しそうだ。
「多少のことはなんとかできるんです。お二人ももし好きな方がいたら早めに教えていただきたい。こうすればうまくいきます、というのを教えますから。」
ゴンダさんは協力的だ。
「リファ様はなぜか。なぜか我々に何も相談することなくお二人でお話をどんどんお進めになって…。アマルカに留学するし…。」
カワムラは婚約者として紹介された後にアマルカへ留学しに行った。何もなければその年の秋に婚約して結婚する予定だったのだが。
「何を考えているのか全くわかりませんでした…。そして結局…。」
ゴンダさんは言葉を濁す。
「リファさんは今パンジャーブにいるんですよね?なんで追い返さないんですか?」
俺は失礼かもと思ったが聞いた。
「リファ様はカワムラが迎えに来るのを待っておられるのです。」
ゴンダさんは苦虫を噛み潰すように言う。
「迎えに来てくれる筈と思っておられます。迎えに来たらすぐ帰るとおっしゃっています。」
俺たちは何も言えない。
「リファさんのお子さんはカワムラさんの子供なんですか?」
「リファ様はそうおっしゃっています。」
ゴンダさんは遠い目だ。
リファの娘は青い目をしている。リファに会ったときにちらっと見たことがあるけどかわいい女の子である。4歳くらいかな。
「いつからいるんですか?パンジャーブに?」
「2年前です。」
「え、それはもう迎えに来るとか来ないとかではないような。」
「そう言ってるんですけどね。シュウトク様もキョウカ様も。テレビ通話だとうまくいく距離感なのでしょうね。外に出ないように言い含めるだけで精一杯です。こんなことがバレたらもう。もうですよ。皇室の威厳は確実に地に落ちます。」
他言無用ですよ、とゴンダさんは言う。
「おそらく誰かにはバレているだろう。」
ジングウジくんが言った。
「2年隠せているのは出すべきタイミングではない、と判断されているだけでは?」
「そうかもしれません。」
ゴンダさんは肩を落とした。
「助けてほしいですよ、本当に。どうして、いつからこうなってしまったのか。」
「リファを迎えにくるように、という連絡はしてるんですか?」
「送っています。というか、お二人は連絡を頻繁に取っておられるようですので、そこで仕事が忙しいとか言ってるんじゃないですかね。」
「通話を録画すればいいじゃないか。」
ジングウジくんが言う。
「パンジャーブの宮殿で生活していてはいけない人物ではないのか?食事や警備の負担は税金なのでは?そんな人物にプライバシーやら人権やらどうこういう権利はないと思うが。」
「…そうですね。たしかに、ジングウジ様の仰る通りです。」
「荒療治でも何でも、アマルカに送り返さなければ。いつまでも隠せているとは思わない方がいい。」
ジングウジくんは正論を振りかざすきらいがある。
「俺もそう思います。カワムラ以外にもアマルカで頼れる人はいませんか?あの子の本当の父親とか。」
「リーゼロッテ様の本当の父親…?」
「まさか、本当にカワムラだと思っているのか?」
ジングウジくんが辛辣だ。
「アマルカの者に連絡をしてみます…。」
ゴンダさんはタジタジである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます