試験1:5人目の思考と回答

――あぶなかった……。もう少しで自分も押すところだった。


3番目に出てった人がパソコンを使っていいか聞いたあと、一瞬だけカチって遠くから音が聞こえたのに違和感があった。


ケーブルは見えないが、なんかの仕掛けがあるのかもしれないと思った俺は、電源ボタンを押す手を寸前で止めた。


「最後の1人になってしまいましたが、いかがですか?」


試験官が俺に向かって話しかけてきた。

向こう側から話しかけてくるのは初めてだ。


「パソコンの作り方を教える、ですよね?」

「はい」


2番目に出てった人と同じで俺にはこの質問の意図がわからなかった。

ただ、2番目、3番目に出てった人の聞き方、話の内容から推測すると、「教える」ということが目的ではなさそうだ。


そして、2番目の人の質問に対する回答もヒントになるはず。

とくに「ただ、」というのは、前提が買う側にあるということだ。


――ん?待てよ?

ってことは、んじゃなくて、何かの使い道があるからと思ってるのでは?


逆に言えば、わざわざ作り方を知らなくても、使い道さえわかれば最適解が導けるのでは?


「あの……」

「はい」

「ちなみにですけど、どんな使い方をするんでしょうか?」

「というと?」

「ああ、いえ。用途がわかれば作り方を知らなくても、チェックするべきポイントを抑えればいいんじゃないかと思いまして。たしかに自分で作るにしても、工場で作るにしても知識が無いよりはあった方がいいと思います。けど――」


俺は一呼吸置いて続ける。


「壊れたときの修理の手間などを考慮すると、選択肢は変わってきます。なので、どんな用途なのかな……と」

「なるほど……作り方ではなく、どう使うかということですか。ふむ」


試験官は紙に何かを書いていく。


「わかりました。左の扉へどうぞ。用途については次の部屋でお話が出ると思います」


次の部屋……?どういうことだ?


「では。」と言って試験官は右のドアから出て行ってしまった。


誰もいなくなった部屋に取り残された俺は試験官に言われた通り、左のドアを抜けた。

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