第8話 貴重な時間

 お披露目会当日。NONRABELプロモーションが所有しているドーム型のライブハウスに少数ながら彼女たちのデビューを心待ちにしていた人々が群を成していた。

1年前程からSNSによる告知を行っていた。


『巨乳セクシーアイドルグループ *メンバー全員Eカップ以上です!』

『新感覚アイドルグループ×シカゴの世界を日本に』

『セクシーな衣装に身を包み、ダンスや歌などのパフォーマンスを繰り広げる』

『男子の欲情を満たすための従順なしもべとなる事を彼女たちは悦ぶ』


この告知を知りえた物は、非日常の刺激を求める男ばかりだった。

男たちは1年ほど一つのアイドルグループの動向を追っていた。

男たちは飢えていた。欲していた。


 広告を目にしたコアな地下アイドルファンは、投稿されていた内容に期待を寄せていた。


場内は入り口にロビーがあり、デビュー前の彼女たちを見ようと待機している。

数えるに20名程度ほどしか居なかった。投稿を見た中には胡散臭いと思った者やそこまで、宣伝に心惹かれなかった者も多かった。

それでも、集まった約20名は貴重な存在だ。


「これは、思ったより赤字確定だな」事務室から監視カメラの映像するNONAMEは苦笑しながらも心の奥底ではワクワクしている。モニター越しに場内に来た客たちを見て、ここまでの苦労を思い返すように天井を眺めた。


入園時刻となり、シアター形式の立見席会場に未来のファンたちはスタッフの案内のまま入場する。

会場は立見席だけでも100名は収容できるほどであった。

さらに、二階席も若干ではあったが用意されており単純な計算で150名程が公演を見ることが出来る。

実際に集まった人数に見合わない程の広さに空席が目立つ。


舞台袖で集まったお客さんを気付かれないように葵、サレン、紗枝は確認していた。

「うわー、やっぱこんだけかぁ」20人のお客を見て予想はしていたがサレンは少し落胆した。

「しゃーないっすよ。無名の事務所だし、あたしたちが第一号なんだもん」落胆するサレンを慰めようとする紗枝は愛らしい妹分のように立ちまわっていた。

「ここから、知っていってもらえばいいんだよ!だから今日はがんばろ!」

葵は、二人の間に入り肩を抱き寄せながら言い聞かせた。


「集合してください」

松本がデビュー前の彼女たちを集める。

「今日は、皆さんのお披露目会です。同時に私たちNONRABELプロモーションの第一号タレントのデビュー日となりました。皆さん、ここまでたくさん頑張ってきました。時には自身の弱さに負けてしまったこともあるでしょう。それでも、今日が本番です。今日、集まった頂いたお客様は確かに予想していた人数よりも少ないです。しかし、我々の活動を今後も見守っていただけるかもしれない貴重なお客様です。今日はこれまで頑張ってきた自分自身や支えてくださった周りの方々は勿論ですが、貴重な時間を私たちに宛ててくれたこの20名程のお客様のために盛り上げていきましょう!」

『はい!』一同は松本の熱い激励に答えようと気持ちのいい返事を返す。

 普段は見せない爽やかな表情をする松本。眼鏡の奥底には熱い物が込み上げているのが分かった。


 更衣室に戻り、純美たちはスタッフが用意してくれた衣装に着替え、上から黒いローブを羽織る。顔以外は全身が見事に隠れた。NONAMEの演出の一つだという。


そして、舞台袖で自分たちの順番を待つ。


 「お集まりいただきありがとうございます。これより、NONRABELプロモーション所属アイドルユニット第一弾、『OπTAI』のデビューお披露目会を開演いたします!」

 事務室で会場案内をするNONAME。

 場内では閑古鳥が鳴くような静かな拍手が巻き起こる。

「皆さま、大変長らくお待たせいたしました。それでは、メンバーの入場です!」


声高らかに挨拶を終えた後、純美たちOπTAIが舞台袖からステージに顔を見せる。

先程の冷ややかな拍手の中、メンバーたちが次々と観客たちの目の前に現れた。

ステージ上に立つメンバーを見て、観客たちの小さな囁きが飛び交う。

 「あれ、思ってたよりかわいい子が多いぞ」

 「でも、ああいう可愛い子程、裏表激しそう」

 「地下アイドルにしてはレベルが高いな」

 「あれ、絶対彼氏とか作ってるだろ(笑)」

三者三様の意見が混じっていた。

 

 「初めまして!皆さまこんばんわ!」中央に並ぶ純美が深々とお辞儀をした。

他のメンバーも純美の後に従い首を垂れる。

 「私たち、乳見せアイドル!」

 『OπTAIです!!!』意思を合わせ、力強く自身のグループ名を発する。

 「私たちが所属するNONRABELプロモーションのSNS告知から1年半もの間、デビューまで長らくお待たせいたしました。顔も声も分からない私たちのデビューを信じてお待ちくださり、誠に感謝しています」純美はグループを代表して首を深々と下げた。

 凛々しく、力強い彼女の姿勢は会場に来た観客に信頼感と、清潔感を与えていた。

「それでは、早速私たちのオリジナル曲を皆様に披露させていただこうと思います。本日は最後まで楽しんでいってください!!」


 曲振りを終えると、顔以外の全身を覆い隠していた黒いローブが床に落ちる。

速やかに、落とされたローブを拾うスタッフたち。

 純美は観客たちに誠実な態度から優等生気質を感じさせていた。

グループの顔ともいえる人物であるのだろう。他の子達はどんなキャラクターを持っているのだろう。

 明らかに狙ったようなグルー王命とは相反して清純無垢な印象を抱いていた観客たち。しかし、思いを裏返すかのような姿がステージ上には広がっていた。

 

 「それでは、聞いてください!OπTAIで「Oπ祭り」!!!」


先程まで誠実な対応をしていたグループとは思えぬような刺激的な光景が観客たちの脳裏と下半身に目に見えぬ刺激を与える。

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