第6話 デビューと自覚

 それから、三か月程が経った。純美も可憐もすっかりこの生活に馴染んでいた。

純美は馴染んでいっただけでは無かった。


「ひとーつ!良質なおっぱいは一日足らず!」


 声高らかに日課のスローガンを純美は読み上げる。

その姿は、所属した当初とは見違えるほど自信と責任感に満ちていた。


 日々のレッスン、団体行動、NONAMEや松本たち他スタッフの仕事の姿勢や共に頑張る仲間たちの影響もあってかリーダーとしての振る舞いが短期間で身に染みついていた。


 彼女は元々は真面目で勤勉であった。その性格とここでの生活が絡み合いキャプテンと呼べるに相応しい存在として葵たちからも尊敬の眼差しを向けられていた。


 その姿勢は、NONAMEや事務所の経営陣にも認められた。

 純美は月1で行われるスタッフ会議もグループの代表者としてこの月から参加するようになった。

 誰よりも先に事務所に着き、会議室を設営する。

 少しして、男性スタッフやNONAME達が入室する。

 「お疲れ純美ちゃん!いつも設営ありがとね!」

 一人の男性スタッフがお礼を言うと純美の胸に軽く触る。

 「お疲れ様です。ありがとうございます!」

 胸を触った男性に純美も礼を返す。

 「お疲れー。純美ちゃんまた、おっきくなったんじゃない?」

続けざまに小太りの男が正面から純美の胸を両手で鷲掴みする。

 「ありがとうございます。お陰様でEまで育ちました!」

男に抵抗することなく、背筋を伸ばしながら大きな胸を差し出す。

入室する男たちは次々に純美の乳房を狙う。

あまりに堂々とした振る舞いに躊躇し軽く触れる者もいれば、気にせずに無造作に揉む者もいた。

 「おつかれちゃん!純美ちゃんいつも仕事が早いねー」

NONAMEは車のクラッチがニュートラルに入っていることを確認するかのように二つの山を激しく右手で揺らした。


 純美はNONAMEに呼び出された時から心境の変化があった。

 当時は言語化する事が難しく、自身の考えがまとまらないことに悩んだ。

 言葉で表せられないなら行動で示そう。

 翌日から純美は無我夢中で非日常を駆け抜けた。

 今でもあの時に抱いた感情は言葉にできないが、あの時の話を純美に感覚では理解していた。


 参加者が整ったところで、2月の会議が始まった。

会議の議題は、タレントの心身のコンディション、今後の『OπTAI』の戦略についてであった。

 

 タレントのコンディションは難航を極めていた。

当初の企画書に記載されたEカップ以上という条件を満たしていたのは、10人中純美を含む3名だけだった。

他のメンバーが貧乳というわけではない。皆C~Dまでには育っていたがもう一つ越えることが出来ずにいる。

NONRABELプロモーションがOπTAIをデビュー出来ずにいたのはこの条件を謳っていたからである。


 皆、威力的に事務所が提供する育成プログラムに参加していたが結果が出ていなかった。歌やダンスの技術は向上している。もう一つ売りにしている振る舞いも美しい所作であった。

 会議は煮詰まっていた。プログラムの見直しを提唱する者や彼女たちの努力を評価してもう少し時間を与えてみてはどうか、そもそものこのコンセプトや課題としている目標を撤回するべきでは等様々な意見が出た。


 熱い議論が繰り広げられている。第三者が見ればくだらないと一言で済ませるような内容も彼らは真剣だった。

 白熱する議論の中、一人の男がこんな提案をした。


 「デビュー日を決めて、全員で生測定してみてはどうでしょう」

ニキビ面の男性はボソッと呟いた。

 しかし、その意見をNONAMEが拾う。

 「それいいね!どうせなら、当日10人全員がEカップに到達できなかったら罰ゲームなんてどうよ」

NONAMEが補足したアイデアに皆が賛同した。

意見がまとまるかと思った矢先に純美は手を上げた。

 「罰ゲームってメンバー全員ですか?」準備は意見をする

 「まあ、連帯責任って意味でやれば盛り上がると思うけど」

 松本が回答する。

 「その罰ゲーム、私が責任取るのはどうですか?」

 純美はメンバーの日々の努力を他の誰よりも理解している。

 努力が報われない上で罰を与えるのは心苦しいと思っての意見であった。

 

 「それでもいいけど、かなりきつい罰ゲームじゃないと盛り上がんないと思うけど大丈夫?」心配そうな表情でNONAMEは純美に質問する。

 「大丈夫です。元々はキャプテンである私の責任も大きいと思います。グループを目標に近づけられなかった責任は私がとるべきだと思います」

 懐かしい不安に駆られながらも、純美は彼女なりのキャプテン像を抱いていた。

「じゃあ、こんなのはどう?------------------------」


 あまりに強烈な罰ゲームに会議の参加者は唖然とした。

しかし、純美は「できます」と自信満々に答えた。

メンバーを信じられない者にキャプテンを名乗る資格はない。

彼女の覚悟を皆が感じ取っていた。


 「じゃあ、あと一か月後。4月の1日をデビュー日にしよ」

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