第4話 期待の事務所

 二人は松本に関連施設の案内を受ける。

どれも立派なものであり、寮の中には防音のレッスンスタジオとレコーディングスタジオ、トレーニングルームに25mプール、大浴場が備え付けられていた。

充実した設備に可憐ははしゃぎ、純美は少しづつであるが不安感が抜けていった。

午前中の日程を終えると、昼食の為二人は食堂に戻る。

 中ではレッスンを終えた女性たちが仲良くお喋りをしていた。


「あ、お疲れ!」茶髪のショートヘアーの女性が二人の帰りに気付く。

「朝全然話せなかったよね?あたし葵って言います」丸い顔の女性は綺麗な目元をしており、愛らしさがあった。明るい茶髪のショートヘアーの効果もあるせいか明るく絡みやすい印象を二人に与えた。


「あたし、サレン!よろしく!」葵の後に小柄ながら整った顔立ちの女性が後に続いた。幼げな顔立ちであったが、鼻筋が綺麗であった。


「あ、初めまして夏希と申します」二人に遅れてゆったりとした口調でもう一人の女性が話す。褐色の肌であったが、和風美人という言葉が似合う女性であった。

二人も挨拶を改めて交わすと三人の座る席に座る。


 「三人はどうしてここに入ったの?」純粋な質問を可憐は三人に飛ばす。

三人はこれまでの経緯を説明した。三人は二人とは異なる経緯での加入であった。

 葵、サレンはSNSでNONAMEの目に付き、夏希は母親と街中を歩いている際にスカウトされたという。声を掛けられたときは、三人とも期待に大きな胸を膨らませていたが、詳細を聞かされた際はガッカリしたという。

 「それなのになんで入ったんですか?」純美は確認する。

 「始めにコンセプトとか聞かされた時は少し嫌だったけど、『練習生としてでもいいからレッスン受けてみない』って誘われたんだよね。レッスン通うたびに悪くないかもって思ってこの事務所入ったんだ」葵は懐かしい思い出を思い返すように語った。

 「私も最初はどうなるかって思ったけど、ここのスタッフさんの話とか社長さんの姿勢を見てここなら変われるかもって思って」サレンも続けて語った。

 「えーあの気持ち悪い人たちを見ても?」可憐は純粋に感想を述べた。

 「可憐ちゃん」と純美は罪悪感を感じながら可憐の発言に注意する。

 「うーんと。ここではその考え捨てたほうがいいかも」サレンが答えた。

しみじみとした表情で葵が補足した。

 「ここの事務所が求めるタレントはね『内面から美しい人物』なのよ。入ったばかりでまだわからないと思うけど、だんだんに分かってくると思うよ」葵は優しく二人を諭した。


 昼食を終えると、葵たちはレッスンに戻り純美たちは午後の予定に向かう。

最初に連れて来られたのはランジェリーショップであった。

 「ここはウチの事務所と提携を結んでいるお店なんです。ウチのタレントはスタイル維持に関しても様々な専門家の協力のもとでプロデュースしてます。歌やダンス、ポージングやウォーキングはもちろん生活習慣、事細かな所作まで管理してます」店に着くと、朝食時に可憐を連れてきた女性が説明する。可憐の話によると藤沢という名前であり、主にタレントたちと他男性スタッフの指導を担当しているそうだ。


 「身に着けるものも同じ。ボロボロの靴を履いていれば、歩き方が汚くなる。よれよれの服を着ていれば相手に不潔感を抱かせる。下着も一緒です。自身にあったものを選ばなければ胸は育たない。あくまで、あなた方は『巨乳アイドルグループ』がコンセプトのタレントです。細かな所から意識していく必要があるのです。食事の時に置かれていた鏡もただ自分の美しい顔を見るためのものではないです。汚い食べ方になっていないか。詰まるところテーブルマナーの修正のためのレッスンの一つです」

 長い話に可憐は飽きていた。真面目な純美は真剣に聞いていた。

二人は店内の奥に案内されるとカーテンの仕切りがされた部屋に入る。


 純美は左手を右手で抑えた姿勢で立って待っていた。

暫くして、立ち姿が美しい女性が入ってくる。年齢は遥かに上だと思われるが、生き生きとした表情は若々しく見える。

「純美ちゃんねよろしく。早速だけど今着てる服脱いでもらっていいかな」

女性の指示に素直に純美は従った。事務所から用意された上下薄い水色の下着を身に着けた状態になった純美は、同姓とはいえ初対面の相手に見せるべき姿ではないと思い羞恥心を抱いた。

軽く身構える純美に間髪言わず「真っ直ぐ立っててね」とはっきりとした口調で指示が入る。

 純美は焦り、直立する。すると、女性はタブレットを取り出し

「じゃあー、まずは足を肩幅に開いて、両手を肩に水平にお願い」

指示されたポーズを取る純美。女性はタブレットで撮影を始める。

正面を取った後、横から、後ろから撮影を進めていった。

「お疲れー。もう服着ていいよ」ハツラツとした状態で純美に服を着る許可を出す。

「明日には下着ができると思うから、事務所に送っとくね。運動用、普段用、ナイトブラの3種類作るから。出来たら事務所に送るね」

そう言われ、純美たちは店を後にする。


 その後は、事務所に戻り、打ち合わせ室で練習着の説明を藤沢から受ける。

 藤沢に指示され、二人は更衣室で着替える。

 渡された練習着に二人は困惑する。着替え終えると、打ち合わせ室に二人は戻る。

 部屋に戻ると藤沢の他に松本、男性スタッフとNONAMEが待っていた。

 二人が身に着けていたのは、下はストッレチ素材のぴっしりとしたランニングタイツ、上も同様の素材のスポーツブラのような物であった。

 可憐は薄い赤い下着、純美は水色の下着が薄っすら見えてしまっていた。

「おおー」と低い歓声が男性陣から上がると、二人は縮こまり身構えていた。


 「いいじゃん。似合ってるよ!」無邪気な少年のようにNONAMEは二人の姿を絶賛する。一緒に見ていた男性陣も称賛する。

 「いやー、トレーニング前からこのスタイルの良さは。さすがウチのエース」

小太りのニキビ面の男性が花蓮の姿に興奮している。

 「細いから心配してたけど、純美ちゃんも綺麗だよ」

細身の男性は心拍数が上がっているのが純美が見てもはっきりしていた。


 純美は悟った。やはりこの事務所は危ないと

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