第三章:奥多摩ダンジョン崩落編
第42話 ぎくっ……
「なんじゃこれはぁあああああああああああああああああああ!!!???」
国友家の安珠専用工房。そこで刀のメンテナンスをしてもらおうと安珠に刀を手渡したところ、彼女は刀の状態を見て愕然とした様子で叫び声をあげた。
「お、お主! どうやったら一週間足らずで儂の鍛えた刀をこうもボロボロにできるのじゃ!?」
「どうって言われてもな……。色々あったんだよ」
話せばとても長くなる。
新宿ダンジョンでの一件で酷使した刀は所々刃こぼれを起こし、安珠から譲ってもらった当初の切れ味を大きく損なっていた。
スケルトンやアドラスとの戦闘に加え、〈魔力付与〉で魔力を流し込んだことが消耗を加速させたのだと思う。新野の魔力の負荷に耐えられなかったのだ。
それに、俺の使い方が悪いのもあった。
「お主、刀を剣か何かと勘違いしておるじゃろう!?」
「返す言葉もない……」
安珠の指摘は尤もで、俺は前世を含め今まで一度も刀を振るった経験がなかった。心得がなかったと言うべきか。前世で使っていた剣と同じ感覚で使っていたから、こうも容易く刀がボロボロになってしまったのだ。
「うぅむ……。鍛えなおせばまた使えるようにはなるじゃろうが、一週間おきに持って来られても嫌じゃぞ。もちろん金も材料もかかるしのぅ」
大体これくらいじゃ、と提示された額は一回なら何とか払えなくもない額だった。新宿ダンジョン探索クエストの報酬はあるものの、これが二回三回と続けば破産まっしぐらだ。
「お主の戦闘スタイルじゃと刀よりも剣のほうが向いておるのではないか?」
「そうだな……。確かに剣の方が使い慣れているっていうのはあると思う」
「ならばいっそ、お主に合わせた剣を作った方が良いかも知れんのぅ」
「剣も作れるのか?」
「経験はないがの。じゃが、知識と設備なら整っておるのじゃ。前々から剣を作ってみたいと思っておったし、何事も経験じゃからの。刀作りに応用できるところもあるかもしれん」
「それじゃあ頼めるか?」
「うむ。どのような剣が必要なのじゃ?」
「そうだな……」
前世で使っていた聖剣は決して傷つかない強度と鉄をバターのように切り裂く切れ味、そして魔力を通しやすい性質を持っていた。
……が、そんなの再現できるわけもないので、とりあえず強度と魔力の通しやすさをリクエストする。剣身の長さや重量なども希望し、安珠はそれを紙に箇条書きが書き込んでいった。
「ふむ……、なるほどのぅ」
俺の希望を書き出した紙を見ながら安珠は「うぅむ」と唸る。
「長さや重さはともかくとして、強度と魔力の通しやすさは難題じゃな。刀と同じ材料ではこの希望は叶えられぬ。素材になる別の鉱石を探す必要がありそうじゃな」
「どんな鉱石なら素材になるんだ?」
「わからぬのじゃ。儂は石の専門家ではないからのぅ。この手の知識は冒険者の方が詳しいかも知れぬな」
とにかく材料さえ用意してくれれば実験がてら安く作ってやると安珠が言うので、その言葉に甘えることにした。肝心の鉱石は、誰か詳しそうな人に聞いてみることにしよう。
「とりあえず、この刀は使える程度には直しておくのじゃ。応急処置程度じゃがのぅ」
「助かる。ところで、妹に冒険者やってるのばれたんだが話したのか?」
不意を突いて俺が尋ねると、安珠「ぎくっ……」と肩を震わせた。
「さ、さぁ? 何のことやらさっぱりわからないのじゃー?」
「妹とクラスメイトだってことは小春からもう聞いてるんだよ」
新宿ダンジョンから帰宅して早々、俺に冒険者をやっているのかと尋ねてきた小春。その時は眠気が酷くて「明日ちゃんと話す」と言って帰ってもらい、翌日話をしてみれば刀鍛冶をしているクラスメイトから聞いたと言うではないか。
そのクラスメイトの名前を尋ねると国友安珠だと言い、そういえば安珠が俺の名前を聞いてどこか引っ掛かりを覚えているのを思い出した。
あの時はクラスに似た苗字の奴が居るなんて言っていたが、同じ苗字だし妹じゃねぇか。とんだ偶然もあったものだ。まさか安珠が妹と同い年で同じ学校に通っているなんて考えもしなかった。
「お、お主が家族に黙って冒険者をしておるなんて知らなかったんじゃあ! 儂は悪くないもんっ!」
「別に責めてるわけじゃないけどな」
……まあ、口止めはしていなかったし、どちらが悪いかで言えば俺に非がある。
「小春は何と言っておるのじゃ……?」
「親には言わないから冒険者のなり方を教えろだってさ」
「なんじゃ、親にばらされなくてよかったのぅ」
「親が冒険者になるのを反対しているのは小春のほうなんだよ」
「それは……厄介な話じゃのぅ」
こうなることが何となくわかっていたから、小春には秘密にしておきたかった。
俺としては小春が冒険者をすることに強く反対するつもりはない。新宿ダンジョンや池袋ダンジョンの上層のような安全な場所で、低難易度のクエストを達成しているぶんには安全だからだ。
無茶をしなければ、そうそう怪我をすることも死ぬこともない。ただ、逆に言えば多少の無茶で簡単に怪我をするし最悪死ぬことになる。それは先日の新宿ダンジョンの件で身をもって味わった経験だ。ダンジョンでは何が起こるかわからない。
だから、両親が反対する気持ちもよくわかる。叔父さんの件もあったしな……。
「それで、どうすることになったんじゃ?」
「どうするもこうするも、付き合うしかねぇだろ」
今のまま冒険者を続けるには、やはり親には秘密にしておく必要がある。小春は俺が冒険者になることに反対すれば親に言うだろうし、そうなったら困るのは俺の方だ。親と喧嘩して家を出るなんてことは避けたい。
だからとりあえず、しばらく小春に付き合うことにした。
「冒険者の大変さを嫌ってほど味わわせて、自分から冒険者を諦めさせる方向で考え中だ」
「そう上手く行くかのう……?」
「どうだろうな……」
結局は、小春がどれだけ本気で冒険者になりたいか次第だ。
まずはそこを知るところからだな。
〈作者コメント〉
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