〈おまけ〉冒険者学校の落ちこぼれ剣士、パーティを追放されるも妖精のような転校生に才能を見出されて開花する。

〈おまけ〉外伝先行公開①

【第1話 落ちこぼれ剣士と銀色の転校生】


「和樹(かずき)、お前はクビだ」


 呼び出されたパーティハウスの一室で、オレはパーティのリーダーである六角賢治(ろっかく・けんじ)先輩からクビを宣告された。ある程度予想していたこととは言え、ショックは隠しきれない。パーティ加入から半年、自分なりに頑張ってきたつもりだったから。


「理由はわかってるよなぁ、和樹?」


 クラスメイトの後藤豊久(ごとう・とよひさ)が白い歯を見せながら俺に尋ねてくる。


 豊久とオレはほぼ同じタイミングで賢治先輩にスカウトされて六角パーティに入った。豊久が残って、オレがクビになる理由。思い当たることはある。


「攻撃ができねぇ剣士は必要ねぇんだよ。そうっすよね、セーンパイ♪」


「すまないな、和樹。豊久の言うとおりだ。実家が剣術道場だと聞き及んで、剣の腕を見込んでパーティに引き入れたが……正直に言わせてもらえば期待外れだった。俺たちは勇猛果敢な攻撃を信条とするパーティだ。攻撃できない剣士は、俺たちに必要ない」


「そういうこった。残念だったなぁ、和樹」


 豊久はにやけ顔でオレの肩に手を置いてくる。そのまま投げ飛ばしてやろうかとも思ったけど……空しくなるだけか。


「後釜なら心配するな。ちょうど二年に盾役(タンク)を務められる戦斧使いが見つかった。校則でパーティ人数が制限されている以上、誰かをクビにしなければならない。悪く思わないでくれ」


 賢治先輩や豊久以外のパーティメンバーも、賢治先輩の判断に異論はないようで口を挟む様子はない。オレ抜きで話は進んでいたのだろう。きっと、顔合わせまで済まされているはずだ。


 ここで食い下がっても惨めになるだけ。せめて、潔くこの場を去ろう。


「……はいっス。今までお世話になりました」


 オレは半年間仲間だと思っていた人たちに深々と頭を下げ、六角パーティに割り振られたパーティハウスの一室を後にした。


 廊下に出て、とぼとぼと肩を落としながら歩く。放課後は冒険者活動の時間。様々な武器を手に持ち、色鮮やかな装備に身を包んだ生徒たちと行違う。


 ここは日本で数少ない冒険者コースがある、私立琵琶湖学園高等学校。安土城城跡に建てられたこの学校は、冒険者を目指す学生による冒険者活動が盛んに行われている。


 冒険者コースの学生は入学時にGランク冒険者となり、学校を通じて冒険者協会から発布されるクエストを受理、達成してランクを上げていく。卒業するには最低Dランクまでランクを上げなくてはならず、午前中の一般教養の授業が終われば午後からは冒険者活動の時間となる。


 この学校ではとりわけ、冒険者同士がともに活動する『パーティ』の結成が推奨されている。最低2人から最大6人まで。人数の制約はあるものの、パーティを組む利点は大きい。


 クエストは冒険者ランクと同様にG~Sまで難易度分けがされていて、冒険者はそれぞれのランクと同じ難易度のクエストまでしか受けることができない。けれどパーティを組めばその制限が大幅に緩和される。


 例えば六角パーティで例えると、賢治先輩がCランクの冒険者なのでパーティとしてCランクまでのクエストを受けることができる。入学当初に賢治先輩と同じパーティに所属した俺と豊久はGランクながらCランクのクエストに参加することができた。


 おかげで現在の俺の冒険者ランクはE。一年生の秋の時点で卒業に必要なDランクまであと一歩のところまで来ている。卒業の心配だけはせずに済む。それだけが救いだった。


 ……ただ、やっぱ凹むよなぁ。


 やるせない気持ちを抱きながらその日は帰宅して、飯と風呂を済ましてそのまま不貞寝した。死んだ爺ちゃんから教わった日課の鍛錬も今日ばっかりはする元気もない。ごめん爺ちゃん。


 翌朝になって、学校行きたくねぇと思いながら母ちゃんに叩き起こされて学校に向かう。パーティをクビになったなんて親には当然言えず、このモヤモヤを吐き出せる相手もいない。陰鬱とした気持ちだけが溜まっていく。


 田舎特有の一時間に一本ダイヤで朝方だけ満員になる電車とバスを乗り継いで学校に到着。何度も引き返そうかと迷いながら校門を通って重たい足取りで校舎へ向かう。


 オレが教室に入ると、視線が集中した。教室各所でひそひそ話が展開され、豊久がにやにやとこっちを見つめてくる。どうやら、オレがパーティをクビになったのはクラスメイト全員が知るところらしい。


 ……もう帰っちゃっていいっスかね?


 この半年、クラスメイトとはそこそこ上手くやってきたつもりだった。六月の体育祭、先月の文化祭と、結果は振るわなかったもののクラス全体が一つになる一体感を味わうことができたと思っていた。


 ただ、ここは冒険者コース。冒険者とは実力社会だ。一度でも経歴に泥がついた冒険者には、その泥が一生まとわりつく。パーティをクビになった冒険者。俺はたぶん、一生その不名誉な経歴を背負い続けなくちゃいけない。それがたとえ、学生の内にあった出来事だったとしても、だ。


 普段話しかけてくれる前後の席の男子も、隣の席の女子も、オレを気遣ってか誰も話しかけてこない。そのまま担任の先生がやって来てホームルームが始まる。


 先生の話を聞き流しつつ、いつ体調不良を理由に早退しようかと考えていると、やけに教室が騒がしいことに気が付いた。


 ふと視線を前に向けると妖精がいた。


 ……いや、正確には妖精のような見た目の可愛らしい女の子が黒板の前に立っていた。


 天使の羽のように艶やかで綺麗な、ツーサイドアップに結われた銀色の髪。透き通った白磁色の肌に、宝石のように輝く瞳。顔立ちは西洋人っぽくて、小柄でスレンダーな体型が、なおのこと彼女を妖精のようだと感じさせる。


 その妖精のような少女は、うちの学校とは別の制服を着ていた。


「東京から来ました、愛良(あいら)アンナです。宜しくお願いします」



〈作者コメント〉

ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ

♡、応援コメント、☆、フォロー、いつも執筆の励みとなっております( ;∀;)

少しでも面白いと思っていただけていましたら幸いですm(__)m


時系列は本編開始から半年前(10月頃)です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る