第13話 いざダンジョン再挑戦

「ねえ見てアレ。頭に鍋かぶってるよ?」

「うわー、あれって防具屋で売ってるやつっしょ? マジで買う奴居たんだ……」

「しかもお腹の板、まな板じゃね?」

「ほんとだ、まな板だ! まな板だよあれ!」

「フライパン持ってるし、マジ受けるんだけど!」


 新宿ダンジョンへ向かう電車内。冒険者協会本部の武器・防具屋で揃えた装備を身に着けた俺は、居合わせた乗客たちから奇異の目を向けられていた。


 そりゃ頭に鍋かぶって体にまな板二枚を身に着けた男子高校生が居たら注目集めるわな。


「なあ、新野、秋篠さん。どうして俺から離れたところに座ってるんだ?」

「ちょっと、話しかけないでよ。あんたの連れだと思われちゃうでしょっ!」


 思われちゃうも何も間違いなく連れであるはずなんだが。


 ちゃっかりサンタ帽を脱いでフライパンをローブの下に隠した新野は、俺と対面側の席に秋篠と並んで座っている。それも正面からはやや外れた位置で、傍目には俺と新野たちは赤の他人に写ることだろう。俺だけ晒し者にしやがって!


 お返しとばかりに席から立って、わざわざ二人の前で吊革に掴まって立ってやる。


「あ、あんたねぇ……!」

「ところで、秋篠さんの武器って脇差なんだな」


 新野が文句を言いだす前に秋篠さんへ話を振る。


 彼女は戦国武将の甲冑を思わせる作りの胸当てと腕当てを装備し、どちらかと言えば防御よりも身軽さを優先したような格好をしている。そして抱きかかえるように持っているのは一振りの脇差だ。小柄な秋篠さんの体格に合わせた武器と防具だった。


「あ、えっと……。これはスペアの武器で、いつも使ってるのはメンテナンス中なの」


「そうなのか。それじゃあしばらくダンジョンに入るつもりはなかったんだな。それなのに付き合わせちまって申し訳ない」

「う、ううん! 気にしないで、土ノ日くん!」


 そう秋篠さんは言ってくれるが、完全に彼女の好意に甘えてしまっているわけで。

あんまり付き合わせてしまうのも迷惑だろうな。


 既に冒険者登録やアプリなど、ダンジョン攻略に必須の知識は教えてもらっている。あとはダンジョン内での立ち回りをこれから軽く教われば、俺と新野だけでもダンジョン攻略は進められるだろう。


「今更ながら秋篠さんが協力してくれて助かったわ。今日はこのまま三人で新宿ダンジョンを踏破しちゃいましょうよ!」


「そ、それはさすがにちょっと……。新宿ダンジョンは小さめのダンジョンだけど、最下層までは最低でも往復で五日はかかるし、中層からはランク制限もあるから……」


「ランク制限?」


「う、うん。新宿ダンジョンの上層は冒険者登録をしていない一般人でも入れるけど、中層以降はDランク、下層以降はBランク以上の冒険者じゃないと入っちゃいけないことになってるの」


「あたしたちは上層にしか入れないってこと? それじゃあダンジョン攻略にならないじゃないのっ!」


「落ち着け新野。ランクで制限してるってことは、それだけ中層以降が危険だってことだろ」


「う、うん。その通りだよ。中層以降はコボルドやイービルウルフなんかの凶暴なモンスターが多くて、新宿ダンジョンでは上層と中層の間に関所を作って中層から上層へモンスターが侵入しないように警戒もしてるの」


「ふーん、その関所で実力不足の冒険者が中層に行かないようにも見張ってるってわけね」

「う、うん。さすがに中層と下層の間には見張りはないけど……」


 そこまでたどり着ける実力の冒険者は、おのずとBランク以上に限られるんだろうな。


 コボルドもイービルウルフも、前世の世界ではそこまで凶悪なモンスターだった印象はない。とはいえ、昨日たった三匹のコボルドに殺されそうになった今の俺と新野にとっては脅威以外の何でもないわけで、中層に行くのはもうしばらく後にした方がよさそうだ。


「冒険者ランクで制限されてるって言ってたわよね? それじゃああたしたちはいつになったら中層より先に進めるのよ?」


「えっと、冒険者ランクを上げるには一定の条件を満たしたうえで昇格試験を受ける必要があって。その条件が、協会が斡旋してるクエストを達成することでもらえるクエストポイントを集めることなの。それを昇格に必要なだけ集めて、協会が用意した試験に合格したら昇格って感じかな」


「なるほどな。つまり、俺たちはこれからクエストポイントを350集めないとFランクに昇格できないってことか」


「うん。クエストにも受注できる冒険者ランクに制限があって、Gランクで受けられるクエストの達成でもらえるポイントはだいたい5~10くらいだから……」


「クエストを70も達成しないといけないじゃない! なにそれ面倒くさい!」


 新野が叫びだしたくなる気持ちもわかる。こればっかりはさすがに面倒だ。


 一日に複数のクエストを達成したとしても半月から一か月はかかるだろう。それでようやくFランク。中層以降に進めるDランクになるまでは、そこからランクを二つも上げる必要がある。


 先は長そうだな……。

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