第12話 次に装備を整えて

 互いのスマホを手に互いのステータスを煽りあう土ノ日と新野だったが、傍で見ていた秋篠は二人の異常なステータスに混乱していた。


(レベル4でステータス平均が200越え!? 新野さんはレベル2で魔力305!?)


 秋篠がこれまで見たことも聞いたこともない数値だった。


 レベルアップで上昇するステータスには、もちろん個人差が存在する。ただ、二人のステータス値はその個人差の範囲を軽く逸脱しているとしか思えなかった。


(というかレベルが上がってるってことは、ダンジョンでモンスターと戦ったってことだよね……?)


 てっきりダンジョンには物見遊山で入ったとばかり思っていた。それがまさかモンスターをしっかり倒していたとは。


 土ノ日と新野の二人は煽りあいが空しくなったようで「地道にステータス上げてくか……」「そうね……」などと言い合っている。


「秋篠さん、次はどうするんだ?」

「へっ? あ、えっと……」


 土ノ日に尋ねられ、秋篠はこの後の予定を考えた。時間はまだ夕暮れ時でそう遅くない。近場の新宿ダンジョンならこのまま向かうこともできそうだ。


「それじゃあ新宿ダンジョンに行くのはどうかな? 二人とも、装備はどこのロッカーに預けてる?」


「あたしたち装備なんか預けてないわよ?」

「え?」


「昨日も武器すら持たずにこのままの格好でダンジョン入ったしなぁ――って秋篠さん!?」


 目の前が真っ暗になってふら付いた秋篠は、慌てて駆け寄ってきた土ノ日に抱き留められる。


 まさか着の身着のまま丸腰で武器すら持たずにダンジョンへ入るなんて自殺行為にもほどがある。しかもそれでどうやってモンスターを倒せたのかまるでわからない。


 あまりのショックにめまいを起こし、土ノ日に抱き留められたことすらいまいちわからず、秋篠は近くの壁にあった手すりを支えに何とか立ち続ける。


 予定変更。このままダンジョンに向かうのはあまりにも危険だ。協会本部内にある武器・防具屋に寄って行かなければ。


「つ、ついてきて、二人とも!」

「お、おう。ふらついたみたいだけど大丈夫か?」


「武器も防具もなしでダンジョンに入った二人の頭よりは大丈夫だよっ!」


「「え、ごめんなさい」」


 まったくもぅ! と心配が一周回って怒りに達した秋篠は頬を膨らませながら武器・防具屋へと向かう。そのあとを怒られた二人がシュン……と肩を落としながら続いた。


「やっぱ武器も防具もなしにダンジョンに入ったのはまずかったんだな……。秋篠さんが怒ってるとこ初めて見たぞ」


「怒り慣れてる感じじゃないからちょっと可愛いわね」


「二人とも何か言ったかな!?」

「「い、いえ、何でもないです」」


 なんて会話をしながらエレベーターを下って武器・防具屋に足を運ぶ。協会本部の武器・防具屋は日本ではトップレベルの品揃えで、協会本部ビルのワンフロアが丸々広々とした店舗となっている。


 剣や刀、最新の銃火器が壁一面に並び、防具も様々な種類がマネキンを使って展示されている。他にもダンジョンで寝泊まりをする際のキャンプ道具なども販売されていた。


「かなりの品揃えだな、ここ。剣や刀だけでこんなにも種類があるのか!」


「鎌倉時代から続く名工が鍛えた業物の刀もあれば、ダンジョンで取れた鉱石を最新の機械を使って加工して作った剣もあるよ」

「これなんてとんでもない業物だな」


 壁に飾られていた刀に手を伸ばそうとした土ノ日だったが、その手が止まってピクリとも動かなくなった。


「どうしたのよ、手に取らないの? …………って、いち、じゅう、ひゃく、せん……八千万円!?」


「あ、危うく素手で触れちまうところだった……」


 二人が冷や汗をかいている中、秋篠はその件の刀を何の躊躇いもなく手に取って鞘から十センチほど刀身を覗かせた。


「「ちょっ、秋篠さん!?」」


「……さすが国友さんの刀。良い仕事してる……」


 普段から秋篠家がお世話になっている刀鍛冶の国友さん。秋篠とも面識があり、愛刀である大太刀のメンテナンスもお願いしている人物の仕事ぶりに、秋篠は満足そうに頷く。


 刀を壁に戻して振り返ると、土ノ日と新野は顔を真っ青にしていた。


「どうしたの、二人とも?」

「「いや、あの……何でもないです」」


 その後、二人の武器と防具を見て回ったもののこれといった物を見つけることはできなかった。国友さんの刀ほどとは行かずとも、並んでいる武器や防具はどれも値が張るものばかり。二人の予算内で購入できる武器や防具はほとんどなかった。


「秋篠さん、初心者向けの安い武器や防具って売ってないのかしら?」

「あるにはあるけど……。あ、あんまりオススメはできないよ……?」


「そうは言っても、俺たちの予算じゃ買えてナイフ一本とかだしな……。武器も防具も揃えようと思ったらそれしかないだろ」


「わ、わかったよ。でも『無いよりマシ』程度だからあんまり期待しないでね?」


 そう前置きして、初心者向けとされる武器や防具のコーナーに二人を案内する秋篠。


 そこで武器と防具を揃えた結果、二人の装備は次の通りになった。



土ノ日勇

頭:鍋(顎ひもを通して頭にかぶり防御力+3)

胴:まな板(二枚にひもを通して前後に身に着け防御力+3)

右腕:ヒノキの棒(攻撃力+5)

左腕:フライパン(盾の代わりで防御力+2、攻撃力+1)



新野舞桜

頭:サンタ帽(魔力+1)

胴:古着のローブ(防御力+1、魔力+3)

右腕:ヒノキの杖(魔力+5、攻撃力+2)

左腕:フライパン(盾の代わりで防御力+2、攻撃力+1)

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