最終話 エドガーの思惑

ハンスと二人きりの生活に慣れたころ、エドガー様が遊びに来てくださいました。


「君たちは、研究にしか興味がないのか?新婚なのに、それらしい雰囲気がまるでないじゃないか!」


どうやらエドガー様は、私たちの雰囲気がご不満なようです。


「そう言われましても……私たちは問題なくやっていますよ?」


「はい、研究以外もしています。今日も実験室の整理を二人でしました」


「はぁー……似た者同士だよ、君たちは。だけど、いつまでも二人で過ごしてばかりいられないよ。もうすぐハンスは伯爵になるだろう?そうしたら今以上に外交が増えるからね」


そうでした。もうすぐハンスは伯爵になるのでしたね。私も社交界に復帰しなければなりません。


「なんだか憂鬱です。社交界の雰囲気は苦手なので」


「僕もそういうの苦手なのですが……」


私も人のことは言えませんが、ハンスは本当に人付き合いが苦手ですからね。少し心配です。せめて「冷酷非道な伯爵」と呼ばれないようにしてほしいですね。


「そんな二人のために、今日は君たちにアドバイスをしに来たんだよ!どの貴族がどんな性格か、誰と関わるべきか、細かーく教えていくからね」


「ありがとうございます!頑張って覚えますわ」


なんて親切なのでしょう!エドガー様が光り輝いて見えます!


「人を覚えるのも苦手なのですが……」


「ハンス、気が進まないのは分かるが、これを怠ると大変な目に合うよ?借金まみれの人間が、君を利用しようと近づいてくるかもしれない。僕がされたようにね」


「それは恐ろしいですね……完璧に覚えます」


お二人とも、その冗談は笑えないです……。




こうしてエドガー様の指導の下、主な貴族の特徴を頭に叩き込んでいきました。


その甲斐あって、ハンスが男爵から伯爵に陞爵したことを知らせるお披露目の場では、私もハンスもそつなく振る舞うことが出来ました。


「おめでとう、これで君たちも伯爵と伯爵夫人だ。これから期待しているよ。ところでハンス、少し話があるんだ」


その日の夜のパーティーで、エドガー様はハンスを連れてどこかへ行ってしまいました。




後から話を聞いたところ、エドガー様が私達の研究に出資してくださることになった、とのことでした。


ハンスは出資を受けることを渋っていましたが、断ることが出来なかったようです。


「エドガー様がやたら僕たちに親切だったのは、これが目的だったのかも……」


なんて、ハンスは疑い始めています。そうだとしたら、エドガー様は投資家としては有能なのかもしれませんね。


確かに、あれだけ親切にしていただいたご恩があるのに、断ることなんて出来ませんよね。




ともあれ私は、この平穏な暮らしに満足しています。最高な夫と頼もしい友人とも出会えましたし。あの時、あの家から逃げ出して本当に良かったわ。


これからは伯爵夫人として、精一杯ハンスを支えていきますわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妹しか興味がない両親と欲しがりな妹は、我が家が没落することを知らないようです 香木あかり @moso_ko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ