第213話 そして

未来〜?どこ行ったの〜。

洗濯物を取り込み終わって屋上から降りてきましたが、さっきそこで遊んでいた娘がいません。扉が閉まっているから外には出てないと思うけど。

よちよち歩ける様になってから、目を離せないのよねえ。パパが居た筈なのに。

あら、チビちゃん。未来がどこに行ったか知りませんか?


娘ちゃんならメサイヤ部屋にいるよ


そう、ありがと。

私はいつしか我が家の動物達と話が出来るようになっています。

パパに聞くと

「妊娠によるDNAの再結合がどーたらこーたら。」

よくわかりません。ただ一つわかったのは、私のお腹に新しい生命、すなわち未来が宿った時からみんなとお話しが出来るようになったって事。

あれだけ話したかった馬さんとも、今では自在にお話しできます。


メサイヤ部屋ですか。

メサイヤも精霊も、寄り付くことがめっきり減りましたね。私が作ったクッションだけが沢山残って、未来の遊び場になってます。

どれどれ?あらあら。クスッ。デカに寄り添って寝てました。


デカというのは、未来の友達で守護者。

私達(私、パパ、アリス、ツリー、サリー)にはチビがいます。

私の身を何度も守ってくれた、頼れるボディガードです。

昔からパパが飼っていたそうだけど。

それで未来の為に友達を作りたいなとパパにお願いして、私達と家族になりました、ちょっと大っきいワンちゃんです。

ほら、未来。寝るならお布団で寝なさい。

デカが大変でしょ。


構わないよママ


ありがとデカちゃん。でもね、風邪とかひいちゃったら困るでしょ

ところでパパはどこ行ったのかしらね。

そろそろお昼ごはんなのだけど。


パパはお庭。お客さんみたい


あらあら、どなたが来たのでしょうか。

うふふ。この家も色々なお客さんが絶えませんね。


どれど、れ?

えぇ

えぇえぇ!

あ、あ、あれは。

テラスに備えつけてあるテーブルセットで腕を腰に当てて仁王立ちしているあの人は、

まさか、まさか。


「うるさいミズーリ。」

「なによう。やっと暇を見つけて降りてこれたのに。」


うるさいミズーリ

うるさいミズーリ

うるさいミズーリ


あの頃は、毎日の様に聞いていたあの言葉

何よりも懐かしい

そして、ずっと聞きたかった言葉

そして、それをパパが、トールさんが言う相手は


「ミズーリ様!!」

「え………。キャー!ミクね。久しぶりぃ。美紅って変わったんだっけ?うわぁ大人っぽくなったねぇ。」

「ハイ…ハイ…、あの。会いたかった。…ずっと、ずっと会いたかったの…パパが、死ぬ時が来たら会えるよって教えてくれたので、いつかは会えるってわかってましたけど…。」

「あゝもう。相変わらず泣き虫なお姫様ねぇ。お母さんになったんでしょ。泣かないの。それよりも、トールさんとミクの子供を見せて。ずっと楽しみにしてたんだ。」

「はい。」


私の、私達の大切な宝物。

ベッドに寝かせていた未来だけど、私が戻って行った時には起きてた。

ミズーリ様とは初対面の筈だけど、未来にはわかってたみたいね。

私が庭につれていくと、早く早くと未来の方からミズーリ様に手を伸ばしたの。

「うふふ。可愛いね。」

ミズーリ様が器用に未来を受け止めてくれる。

元々人懐っこい娘だけど、これだけ積極的に誰かに懐くって珍しいかも。

「お名前は?」

「ミク。」

「うふふ。知ってるのね。」

未来はミズーリ様の腕の中で、ずっとニコニコしてる。

でもね。

「違いますよ。未来、みらいが名前です。沢山の幸せな未来を掴み取って欲しいって、パパが付けてくれたの。」

「あら、トールさんは旦那様じゃなくてパパなんだ。」

う、どうしましょうなんか恥ずかしい。

顔が真っ赤になってるのが、自分でもわかる。


「でもね、トールさんも言葉を掛けてるのよ。未来って言うのはトールさんの国の言葉なの。みらいとも、みくとも読めるの。」

え、そうなの?

「姫さんを嫁に貰う時に漢字名にしたんだけどね。その時ね。思いついたんだ。私の好きな言葉だし、男の子にも女の子にもつけられる。それに、お母さんとの共通点もなんだか嬉しい。」

「ちゃんと説明しときなさいよ。それだけ思い入れがあるんだったらさ。ほら、お母さんが涙ぐんでる。」

どうしよう、嬉しくて涙が止まらない。

ミズーリ様との再会も、パパの優しさも。

ミズーリ様の腕の中にいる未来が心配そうに、いつも持ってるタオルを差し出してくれる。優しい子なのよね。この子。


でも、ママよりミズーリ様の方がいいの?

「未来にはまだ生まれる前の感覚が残って居るのかもね。天界では、女神の加護の中で癒された魂が暮らしているから。」

「色々な魂を可愛がってきたから、誰がトールさんとこに行ったかはわかんないけどね。」

そうなんだ。未来はミズーリ様の祝福を受けて、私達の元に生まれてくれたんだ。


「ツリーやサリーは来ないの?赤ちゃん生まれたんでしょ。」

「生まれたばかりだからな。母子共に無理はさせらんないよ。それぞれ郷で育児にてんてこまいだとさ。」

相変わらずパパの胸ポケットが定位置のミニミニさんと、同じくパパのどこかしらに触っているのが大好きなメサイヤリーダーがウニャウニャクゥクゥ説明をしてる。

わかるよ。2人共ミズーリ様に会いたいのね。


ツリーさんとサリーさんはね、最後の最後まで、未来みたいな名前をパパにつけて欲しがってたの。

「迂闊に私が名前をつけちゃったせいで、彼女達は“特別“になっちゃったからね。」

「別にいいじゃん。トールさんだったら世話できるし。」

「そうはいかないでしょ。ツリーやサリーだけならともかく、“ネームド“を作り過ぎると、彼女達の種族にどんな影響を及ぼすかわからないし。」

うふふ。でもね。

パパにそう断られた2人は、この家の書棚から命名辞典を引っ張り出して、あーでもないこーでもないってずっとわちゃわちゃ話してたね。

いつもみんなが座ってた、あのソファでね。


「あとはアリスだけね。あの子、なんだか最初に会った時より、どんどん甘えん坊になってない?」

「私も子供が欲しいって、時々泊まりに来るんだけどね。隠居してる私達と違って、アリスはキクスイ近衛騎士団総団長の役職に就いてるから。さっさと後任作って引退しろって言ってんだけど。」

「未来流剣術皆伝の剣法者で、創始者の美紅が引退状態だから、世界最強でしょ。あの子。」

「勝手に世界最強に昇り詰めたんだよ。私はなんもしてない。…まぁ私なら一発必中だし、子供の名前も考えてあるから、そのうちキクスイ王を脅して連れてくるよ。」

土下座王は、有能な部下も引き抜かれるのね。ミカエル君が早く一人前にならないと。


ミカエル君と言えば、彼ら王族達も我が家にはよく来るお客さんなのよね。

彼らはまだ学校で学んでる。

まだまだ知りたい事がなくならないみたい。

私やアリスが森から離れた後、教官になったのは、イリスさん、サクライさん、そしてゼル。いつもパパにちょっかいをかけていた精霊さんと、メサイヤ族の1人がカバーに入ってるの。


私達がテキストにしていた書籍は全部置いてきたのだけど、わからない事があれば、彼女達を通じて質問できるからね。

それでもわからない時は、わざわざこの村に来るの。気球で1日で来れるしね。

その時に、便乗してやって来る。


私は妊娠していたし、今も未来の世話があるから表立っては何も出来ないけれど。

はしゃぎ過ぎたミカエル君達をハリセンで引っ叩くくらいの事はしてるの。

ミランカはミランカで、女王様なのに私にべったり張り付くか、未来にべったり張り付くか。ただの背伸びしたがる甘えん坊さんのまんまだし。

王族を張り倒してる姿にご近所さんは未だにドン引きしてるけど、まぁ、私も元皇女だし、キクスイ王を土下座させてる一家だし。


「ねぇ、やっと逢えたんだし、しよ。私もトールさんの赤ちゃん欲しい。」

「昼間っから何言ってんの?この淫乱女神。」

「また逢えたら、私のはじめてをあげるって約束したじゃん。」

「4つもはじめてを貰って、色々忙しい日々なんだから、私が天界に行くまで待ちなさい。」

「だったら暇な時に来てよー。最近やっと落ち着いて、神殿も新築したから。」

え?

ちょっと待って。

パパ、ミズーリ様ンとこ、行けるの?

「「行けるよ」」

へ?

だって、ミズーリ様がお帰りになられてから、パパは結構落ち込んでいたのに?

「そりゃずっとワイワイやってた相棒が突然居なくなったら寂しいさ。ミズーリの忙しさもわかってたしな。」

「ワタシも新しい天界の整理で忙しかったからね。今までこの世界で死んだ魂を全部救わないとならなかったし。」

あゝ、なんだかズルいなぁ。

ずっと、ずっと会っていなかったのに、あっという間に2人の意気が合い出した。


私がこんなにトールを愛しているのに。

初めて結ばれた時、痛みと嬉しさで涙が止まらなくなって時。

優しく涙を小指で拭ってくれて。

無理はしないでね

その言葉だけで。

私は達しちゃったの。

その時に誓った。

私はこの人をずっと、ずっと支えて行こうって。

でも、さすがは本妻。神様相手じゃ勝てないかぁ。


「何また変なことを考え始めたわね。」

ミズーリ様が、未来の手を取って私の頭を撫でてくれた。

「ワタシとトールさんの意気が合うのは当然じゃない。そんな事でヤキモチ妬いてんじゃない!あなたにトールさんを任せたのは、ミク。あなただからよ。」

え?

「ワタシにはワタシのやるべきことがずっとあって、トールさんに負担をいっぱいかけちゃってた時、いつもトールさんのそばに居て、トールさんを明るく支えてくれていたからよ。ツリーもサリーもアリスも、それを見ていたからね。だからあなたたち2人きりにしてるの。」

えーと。改めて言われると恥ずかしいのだけど。 


「それにね。ワタシ達がこれで終わりだと思う?」

⁇⁇⁇

「あなた達がこの現世を生き終わって、天界に来た時、また“あの日“の続きをするつもりよ。」

え?え?え?

「“姫さん“がご飯を炊いて、ミズーリがパンを焼いて、“ツリーさん“が細々としたおかずを作って、“アリスさん“が手伝える事はないかとウロウロして、“サリーさん“が腹減ったとお茶碗を箸でちんちん叩いて、精霊とメサイヤが何か新しい献立なのかなって覗きにくる、あの日だよ。」

そんな事ができるの?

「当たり前でしょ。ワタシは神様。この世界で一番偉いのよ。そしてトールさんは、ワタシより偉いのよ。なんでも出来るの。みんなあの日の歳に若返るのよ。そして、ワタシ達の周りに居た人も、沢山天界に来てくれるんだから。」

それじゃ…それじゃ…

「勿論、美紅達が嫌だと言うなら無理強いはしないけど。」

そんな訳、そんな筈ないじゃないですか!

「いい美紅?あの森での生活はワタシ達の黄金時代。だからあなたたちは、これから2回目の黄金時代を作る義務があるの。」

え?

「ワタシとトールさんの旅路だけでなく、あの日あの森で暮らした事。泣いて笑って怒って。みんなで森を開拓して、みんなでご飯を食べて、みんなで戦争に勝った事。これはこの先、人類が生きている限りずっと神話として語りつがれていくの。その中心となるのがあなたたち。あなたたちは絶対に幸せになって人生を終える義務がある。だから、この家で第二期黄金時代を作りなさい。ツリーもサリーもアリスも、みんなあなたの大切な家族なんだから。ワタシだってたまには顔を出すから。そして第三期黄金時代の準備は、神の名に於いて進めておくわ。」

はい、はい。

どうしよう。また涙が止まらない。


「と言う訳で、しましょう。」

「しません。」

「えーなんでぇ。みんなすごぉく気持ち良さそうな、幸せそうな顔してたじゃん。アリスなんかトールさんの背中を爪でガリガリしてて、終わった後全裸土下座してたよね。」

……ちょっと待て。 


「人と神の間の子って言うのは、何処の国の神話でも大抵不幸になるんだよ。ミズーリ。君が君の治める天界を制御仕切ったら天界で産んでもらう。せいぜい後50年だ。天界整備には充分だろう。それまで待ってなさい。」

「だったらするだけでもしようよ。みんなばっかずーるーいー!」

待ちなさい!ミズーリ様。覗いてたの?


「当たり前じゃない。もう少し縁の無い場所に隠れられたら、もっと苦労したけど。ワタシに縁のある場所しか行かないし、挙句ワタシの匂いと思い出がたっぷりこびり付いてるこの家が、ワタシとトールさんの出逢いの場所に、ババーンってあるんだもん。天界で1人淋しく仕事してんだから、ちょっと覗いてみたら、みんなお盛んなんだもん。」

絶句。


スパーン!

絶句してたら、パパがハリセンで女神を張ったおしました。

ミズーリ様は嬉しそうにハリセンで叩かれた箇所を撫でています。

「お前なぁ。」

「まぁまぁ。ずっとおんなじベッドで寝てた家族じゃない。それよりも折角だし、久しぶりにパンを焼くわね。コーヒーも淹れて。お昼ごはんにしましょう♪。あれからワタシも腕を上げたのよ。お洗濯は終わってるの?」


やっぱり強いなぁ。

ミズーリ様もパパも。





私達が暮らすこの村は最近名前が変わりました。

はじまりの村と言います。

ここから、パパとミズーリ様の旅が始まったから。

そして、ここからまた新しい事が始まって行くから、

キクスイ国第一王子ミカエル・キクスイ君がつけてくれました。


パパ、こと瑞樹亨

瑞樹美紅

ミライズ・ミズキ・アリス

瑞樹ツリー

瑞樹サリー

瑞樹(強調)ミズーリ

そして未来を始め私達の子供達

チビちゃん、デカちゃん、馬さん

ミニミニちゃん、メサイヤリーダー


私達の旅はここに終わり

私達の日常がここから始まる

パパは相変わらずやらかして村の人になんだか勝手に崇められてるけど

それもこれも、全部私達だから

ね、あなた。

私は、私達はあなたと出会えて幸せです。

愛してますよ。あなた。

ね、みんな。


     完

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無責任な神々の後始末 @compo878744

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