第126話 Queen MIKU

翌朝は、残りのルーでカレーうどんを作ります。

キクスイでも作った翌朝のカレー利用法です。

鰹節で出汁をとり、かえしは前の晩から仕込んでおいた物を使います。

だって本味醂なんか生前使った事なかったし(高いから)、市販のかえしや味醂風調味料とどう違うのか楽しみだったんだもん。

カレーうどんの汁に出汁とかえしを追加、一晩寝かせて熟成させたルーをかけるだけ。

うどんは、カレーうどんには腰の無い太い麺が好きなので、伊勢うどんの麺をたっぷりと投入。

ギリギリ青い所まで斜め切りにした長ネギと蒲鉾・煮込んだビーフ(本当は煮込みチキンの方が好き)を追加して、いつもの胡瓜と茄子の浅漬けを添えて出来上がり。

あと欠食姉妹の為に、軽く盛った冷や飯をお茶碗で置いておこう。

案の定、三姉妹の2番目と3番目がおかしくなりました。うどんご飯が気に入ったみたいです。(長女は昨日からツリーさんです)

カレーって凄いなぁ。


などと朝から馬鹿騒ぎをしていると、これまたカピタンさんが朝から息急き切ってやってきました。

「キクスイ王から至急便で連絡が来ました。本日の昼に指定された場所で待つ、との事だけです。指定された場所とは?こちらで先に動いているのですか?」

あゝ、昨日の書状に大雑把な場所を書いておいたんです。自国の地理ならわかりやすいでしょ。人気の少ない、王都からそれほど離れていない場所を選びました。それにしても早いな。

「キクスイ王家も我が軍も早馬を走り回らせましたから。」

そういえばキクスイには駅伝制の施設があるとか、騎士アリスさんが言ってましたね。

日本でも戦国時代まで似たような施設はあったし、飛脚の早便はリレーをしていたとか。

分かりました。早速準備を始めます。

「カピタンさんは引き続き駐屯地内の業務をお願いします。あ、あと恐らくキクスイとの交流は一気に進展することになると思います。組織と人員の選抜を急いで下さい。」

「畏まりました。…あの〜それで、姫閣下は何をされているんですか?」

朝食べたカレーうどんが美味しくて、カレーうどんを讃える歌をさっきから歌っています。

何故か軍歌調で手を上下に振っています。

「姫閣下をくれぐれも宜しく頼みますよ、閣下。なんならさっさと子作りして下さると、私共も安心なのですが。ぶつぶつ」

知らんがな。


用意した物は万能さんに積み込み、馬くんでとある地点に走ります。

そこは枇杷の林の下、見上げれば風車が見えます。別に直接家なり携帯扉なりで風車まで行っても良かったのだけど、風車の機能を確認したかったから。

風車の回転運動で荷物の巻取りに使えるかどうか?

という訳で、軽量コンテナに車輪を付けて風車で巻き上げます。布製品がメインという事もあり、少しブレたものの数分で巻き上がりました。

まあ、成功かな。今後はレールの敷設などで安定性を向上させる必要があるけど。

風車まで来た理由は他にもあります。

ここは背の低い枇杷林なので、頭上の空間にも余裕があるのです。

その開けた空間に万能さんから取り出したるは、「空の魔王ツェッペリン」、「タンネンベルクの英雄ヒンデンブルグ」。なんか酷い例が浮かんだけど、まぁ前世紀の遺物飛行船の登場です。そういえば環境に優しいからリニューアルが始まって居たんだっけ。ドーム型球場や街中の空に宣伝用のリモコン飛行船が飛んでいる事を知っていました。

貨物室に引き揚げた荷物を乗せるとコックピットに全員騎乗。そうそう姫さんの精神をナントカしなきゃ。


一応鎮静剤を用意してありますが、大丈夫そうですよ


空にゆっくりと浮かんだ飛行船の窓から姫さんはのんびり空を眺めています。

ツリーさんも念のため姫さんの肩に座っていますが、ショック死とかしなさそうです。

「ほら、木の天辺に引っかかったり、気球や家で空飛んでるから慣れたみたい。」

とミズーリ。考えてみれば、森の精霊が居て、年がら年中空飛んで、地底に潜っている、この世界の人からする迷信の塊が私達でした。行ってない所は水中くらいでしたね。湖の底を馬くんで疾走した事なら有りましたし。

因みにこの飛行船、船体には大きく姫さんの紋章が描いてあります。

名づけて、空の女王(皇女?)ミク・フォーリナー号です。

空の女王はゆっくりと山を飛び越え、キクスイの平原を眺めながら、約束の地に到着しました。

あらかじめ空を飛ぶ新しい乗り物で向かうと書状に書いて置いたので、取り敢えず出迎えの人達の中で死んでる人はいなさそう。姫閣下はとんでもない方の元に嫁いだ、とデマも流しておきましたし。

目印となる焚火から少し離れた平原に飛行船ミク・フォーリナー号は無事音もなく着陸です。

帝国からキクスイに向かっていた兵隊さんが勢揃いして出迎えてくれました。

七面倒な挨拶は全部姫さんに任せて、兵を集めて命じ、飛行船の貨物室から救援物資を下ろして馬車に詰め替えます。量こそ多いものの軽いものばかりなので、キクスイ王都から集結させた馬車に、大した労力を使わず余裕で積み終わりました。

キクスイ軍に警護にされながら、救援物資を積んだ馬車は少しずつ王都に戻って行きます。

私は積荷隊の隊長と言う人に救援物資の目録を渡し、経口ワクチンの投与方法や看病の仕方などを纏めた小冊子と共に一日も早い治療が肝要と指示しました。

隊長さんは何度も頷き、何度も礼を言うと積荷隊のしんがりの馬車で走って行きました。

おや、あちらでも何か始まった様です。


「素早いご支援に感謝します。私はキクスイ王の長男、ミカエルという者です。」

「これはご丁寧に。私は帝国第四皇女ミク・フォーリナーと申します。ミカエル殿下との出会いに感謝を。」

「とんでもないことです。本来なら援助を受ける私達の王がご挨拶に伺うべきなのですが、地震以来王妃の体調が優れず、また王が自ら先頭に立って復旧の指揮を取っているので、役立たずの若輩者が代わりを務めさせていただきました。」

「それを言うのなら私も世間の事など何も知らない若輩者です。私は旦那様の指示に従ってこの地に来ただけなのです。」

「ミク殿下がご結婚なされたとは聞いております。その方が、我が国との交流を希望され我が国への支援も決定されたと聞きました。何より我が王都を危機に陥れた鬼達を買い取り、また我が国を襲っている奇病をも救って下さると聞きました。もし、いらっしゃるのでしたら一言お礼とご挨拶をしたいのですが。」

こう言うの面倒くさいから姫さんに任せたいんだけどな。ミズーリに尻を押されて前に出る羽目になった。

私の顔を見た殿下の第一声は礼では無く、

「これ、何ですか!空飛ぶ乗り物なんか初めてです。ミク殿下の旦那さんが作ったんですよね。凄いなあ。」

飛行船に食い付き過ぎだった。

キクスイ王国ミカエル殿下は、ただのお子様だった。いや、見た目通り恐らく10代前半のまだまだ普通の子供だろうけど。

そういえば、さっきまで御大層な挨拶をしていたミク殿下とやらも、最近カピタンさんに「うちの姫はどうなっちゃったんですか?」と言われる言動が増えた変な皇女だったな。

それはともかく、こんな事もあろうかと焚火を用意して貰ってたんだ。

偉い人は来るなと書いといたのにな、長男って言ってたから跡取りの王子様なんだろう。

もう少し気安い相手に説明したかった。

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