第116話 で、次は?

竹の子のお刺身は、やはり酒呑みのツリーさんには大好評。

竹の子、柚子、味噌(大豆)の植物三本固めに負けたらしくお酒(純米酒)をせがんで来ましたが、昼だし、帰り馬だし。駄目です。

一方の姫さんはやはり凄い顔をして、

「ペペペですわ旦那様。あゝでもツリーちゃんも旦那様も美味しそうに食べてるし。残念ですわ寂しいですわ。」

その内本当に寂しくなったらしく、ビービー泣き出したので、穂先でメンマを作ってあげました。

と言っても、竹の子の穂先をオイスターソースと豆板醤と味醂で炒めただけですけど。

孟宗竹に近い種で真竹とは相当離れたものなんですけど、あの瓶詰めに近い味が再現出来ました。

「ごはん~旦那様ご飯ご飯。旦那様ご飯。」

泣いた皇女がもうご飯を要求してる。

駄目ですよ。ミズーリが1人で留守番してるんだから。直ぐ傷んでしまう竹の子のお刺身は万能保存なら保ちますね。穂先メンマと竹の子の水煮はお土産にしましょう。


ご主人、アッシも食べたい


馬って竹の子食べるの?

とりあえず水煮をあげたら、馬くんは美味しそうに食べて、ご機嫌のまま帰宅出来ました。

今日は家を出しっ放し。姫さんはチビを抱えて駐屯地を訪問に行きました。

お昼は折角作った穂先メンマでパスタを作りましょうか。

「賛成!」

ミズーリさん、君は随分幸せそうですね。

「ミクが泣いたり笑ったり騒いだりするのはいつもの事だもん。それよりもトールの新作なの!」

姫さんって、そんなに情緒不安定なの?

「トールの前だから、一生懸命背伸びして猫を被って居るだけ。あれは多分育ちね。」

なるほど。帝国皇女であり辺境の軍人。この世界の精神力では弱く育っても仕方がないか。

「でもトールに我儘を言える様になったのは成長ね。」

姫さん、落ち込んで無いといいけど。

「私が後で色々カウンセリングしとくわ。一応それが女神の役目だから。」

本当に仲のいい姉妹だこと。

チビもきちんと感情を読めるしね。だから姫さんのそばにいるんだし。


んじゃ、姫さんが帰ってくるまでにお昼を作っておきますか。

と言っても簡単。茹でたパスタに穂先メンマと炒めた挽肉、茄子をよく絡めてオリーブオイルでかき混ぜるだけ。

それとガーリック・チップを振りかけて完成。コールスローサラダとコンソメスープを添えて、穂先メンマパスタランチの出来上がり。


「ただいま、旦那様。」

ワン。

しばらくすると姫さん達が帰って来た。

大好きなチビをお供に昔からの仲間との語らいは、彼女に良い影響を与えてくれただろうか。

まずは。

「お昼ご飯が出来てますよ。姫さんはご飯と言いましたけど、パスタで頂きます。」

「ミズーリ様!」

「な、何?」

珍しい姫さんの気合いにちょっと引き気味。

押しに割りと弱いぞへっぽこ女神。

「旦那様アレを。是非ミズーリ様にも食べて頂きたいのです。」

あゝなるほど。

「ほれ、食べなさいミズーリ。」

私が出したのは竹の子のお刺身。今まで黙ってたツリーさんが飛びつきました。

帰宅したし少しくらいならいいでしょう。

喉を湿らす程度の少量大吟醸と一緒に卓に並べます。

「うええ。私、柚子と紫蘇は駄目なのよ。」

「やった。ミズーリ様は私側ですわ。」

「まさかミク。これが食べられないから泣いてたの?」

「だって、旦那様とツリーちゃんが美味しく食べているのに、私だけ食べられなかったんですよ。旦那様の料理が食べられない。旦那様の愛人候補として失格じゃないですか。」

私は何も批評しませんからね。

「だから、正妻たるミズーリ様にも食べられないものがあるのなら、私にも愛人たる資格は消えていない、と分かったんです。勇気100倍ですわ。」

…何でも良いですけどね。パスタは冷めたら不味いですから、早く食べましょう。


食休みを今日は外でのんびりと取ります。

チビだけではなく、馬くんも出して好きにさせておきます。馬くんは姫さんと遊んでいます。この1人と1頭仲良いな。

私が今日、こうやってわざと姿を現しているのは、ある人が私達の側にいるよという駐屯地へのメッセージです。

その人とは言うまでもなく、ツリーさんです。

決して人に懐かない幻の精霊が私の側にいる。姫さんと言葉は交わさ(せ)ないものの、きちんとコミュニケーションを取っている。

私達は誰なのか。姫さんは誰と一緒にいるのか。

それを考えてもらう為、人ゴミの苦手なツリーさんにお願いして姿を見せているんです。

…もっとも、ひょいと思いついたミルクセーキ一杯で了承してくれましたけど。

「(甘いは正義)」

誰にそんな言葉を教わったんですか。

よそ見して口笛吹いてるへっぽこ女神の頭を掴んでギギギギとこっちを向かせた。

「私のせいじゃ無いわよぉ。寝る前に見てるアニメとかバラエティで覚えたんじゃない?」

森の精霊に対して倫理的に大丈夫なんだろうか。

「(大丈夫。どうせ流行り廃り)」

よく弁えてる精霊さんで良かった。

「で、トールさん。次なる計画はなぁに?」

・米、麦の栽培

・金鉱脈の開発

・魚類の養殖

・果樹園の開発

ここまでは考えてる。魚類の手配以外はわりかし目処もついてる。

「結構堅実なのね。」

・鉄筋コンクリート製マンションで官舎作成

・キクスイと協力して、キクスイ側に巨大な田園地帯作成

・駐屯地-キクスイ王都間の鉄道施設

・学校、病院

なんてのも考えてる。

「全然堅実じゃなかった。トールさんは独立戦争でもおっぱじめる気?」

それは帝都の思惑次第かな。なんなら、コレットの街以外全てを数世紀分文明進化させても構わない。

「構うって。トールさんがよく言う倫理観はどうなるのよ。」

「創造神の全権委任を受けているから大丈夫。」

「そうだった、あのクソ神野郎。」

口が悪いですよ。死と転生を司る女神ミズーリさん。

しかし、神様の悪口を言うのも久しぶりだな。

「私とトールさん以外に家族がいるの、当たり前になっちゃったからね。昔はアリスちゃんを一晩で追っ払ったのに。」

失礼な事を言わないの。キクスイとの交流が進めば、彼女との再会もあるかもしれませんよ。

「そう言って嫁4号にする気ね。あ、森の精霊大がいたから5号か。」

君は人をなんだと思っているんですか?

「お嫁さんが沢山いるのに、誰にも手を出さないヘタレ。」

あのねえ。

「女神、お姫様、妖精。みんながトールさんを求めているのに。大体、天界から女神を夜伽に呼ぶ許可を貰っといて、毎晩同衾していて手を出してくんない私の欲求不満をなんとかしろ。」

それこそ知らんがな。せめて見た目20代になるまで範囲外じゃ。

「ムキー!」

君はムキーとかウヒヒとか、普通は発声しない様な言葉をよく発声しますね。

漫画か⁉︎

「(女神様はある程度本音だと思うけど、トールさんて垂らし?)」

いいえ、ただのヘタレです。

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