第93話 壮絶なお昼ご飯

結局、ゼル君をミズーリが剣先に吊るしたまま前進を再開しました。

ゼル君はぶら〜んぶら〜んと揺られながら、気絶したままです。

残しといてもよかったのですが、彼も貴族の息子だと姫さんに教えられたミズーリが、

「何か使い道あるでしょ。なかったら捨ててきゃいいし。」

と判断しました。

ミズーリ本人がゼル君を吊るした剣を肩に担いでいるので、本人が良けりゃ良いやと、周りも判断したからです。


その内に気が付きました。

後ろから沢山人がついて来ます。さっき花火で追い散らした東部方面軍の兵士です。

私、ミズーリ、姫さん、森の人、ゼル君。

人外と気絶しているお兄ちゃんを含めて5人の後を数百、数千の兵隊が一定の距離を置いてついて来ます。その人数は時間と共に増えて行きます。 

けど。

狭い杣道を埋め尽くす兵隊を無視して私達はお昼にします。

何故かって?お昼の時間になったからです。


さてさて、花火とお肉大好き森の人を見て献立は朝から決めてました。森の中だし、自然ご飯の王様、BBQを久しぶりに豪勢にいきましょう。 

「意義な〜し。」

ミズーリはゼル君ごと剣の柄をそこらに突き刺して、私が出したテーブルセットに腰掛けると、クロスを丁寧に縦横を合わせる作業に没頭しています。

ゼル君は相変わらず白目剥いてぶらぶら。

BBQを知らない姫さんと森の人は席に着いたまま顔じゅうにワクワクと書いてます。

「よいさあ。」

出した鉄板は人も増えたし大きくします。

(森の人用には彼女用鉄板を準備)

バター、焼肉のタレ、塩胡椒をそれぞれの席に置くと、さあ肉だ

牛・豚・鶏・羊の各部位は、既に万能さんがタレ漬けにしておいてくれてる。

追加で出したフランクフルトに切れ目を入れるのはミズーリの役目。

野菜は、玉ねぎ・コーン・かぼちゃ・にんじんを火の通り易いように、スライス、ざく切りにして、さあ鉄板に乗せよう。

最初は手本で、バターや塩胡椒を使った焼き方を見せます。姫さんと森の人がおずおずと焼き始め、頃合いを見計らい食べなさいと言うと、はい2人とも速攻で落ちました。

「美味しいです、旦那様。涙が出て困ります。でも美味しいです。涙を拭いたいのに、お箸が止まりません。美味しいの美味しいの。」

顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、2人とも焼いて食べて焼いて食べてが止まりません。

その内、ミズーリが私の隣に移動して来て、手ずから私にお肉を食べさせ始めます。

ミズーリ良妻バージョンです。

「あゝ、ズルいですミズーリ様。私も旦那様に食べて貰いたいです。」

「駄目よミク。これは正妻の特権なの。大体、ミクも森の精霊も箸が止まんないじゃない。」

「むむっ、私だって私だって。…駄目ですぅ、お肉をお箸で取っても口に直行しちゃいますモグモグ。助けて旦那様モグモグ。」

因みに森の人は食べるのに夢中で何をしようとか思わなかったようです。


で、で、で。

「姫さん?どうしますコレ?」

コレとは私達の食卓を取り囲む東部方面軍の兵達だ。

ミズーリが数えた所、人数やっぱり万。ほぼ全員が戦線に復帰した様だ。ただし、戦線と言っても焼肉戦線。

万を数える兵隊達が、私達が食べている肉を前にして、盛大に涎を垂らしていた。

「帝国では、兵にご飯も満足に食べさせていないんですか。」

「それは誤解ですわ、旦那様。私達がいつ何時食べる高級なご飯より、旦那様が作るご飯が美味し過ぎるんです。つまりは旦那様の責任です!見て下さい。森の精霊さんが旦那様に寄り添っているというあり得ない自体が起こっていると言うのに、兵達は旦那様のご飯にしか興味を示していません。」

知らんがな。本当に知らんがな。

「どれどれ?」

ミズーリが肉を一切れ箸で掴み、右に左に肉を振り始めると、兵隊が右に左に顔を振り始めた。あ、ゼル君もだ。気がついてたんですね。ちょっと面白い。

「そおれい。」

ミズーリが女神パワーで肉を空中に放ると、兵達が肉を追って走って行ってしまった。

因みにゼル君も剣先に引っかかったまま必死に空中を走っている。

割と馬鹿なのかな。

だったらこうしちゃおうかな。

時間を区切って、BBQの食材を無限提供を万能さんに提案する

「姫さんは顔見知りのに士官に招集をかけなさい。」

「畏まりました。」

姫さんが声をかけると即座に、下士官を含めておよそ100人が帝国第四皇女及び東部方面軍司令官の名で召集されました。

姫さんの口から、「これは私達からの施しである事、日が暮れたら自動的に食事は消滅する事、地位や腕力に任せた横暴を確認した瞬間この食事は消滅する事、各隊は規律と礼節を持って方面軍全員に正しく食事を行き渡らせる事」が伝えられると

東部方面軍全兵が私達に敬礼をしてくれました。では、食材と鉄板の手配は万能さんにお任せして、私達は先に進みます。

「ゼルとか言う人が泣いてるわよ。」

ミズーリさんから一言。

「殺生です。ご飯を食べさせてくれないなら、いっそのこと殺して下さい。」

吊るされたゼル君が私に、吊るされたまま泣きながら土下座という曲芸を見せてくれたので、吊るされたままご飯を食べる事を許可しました。

置いてった方が手っ取り早かったんですけどね。


高位の貴族なので、連れてきましょう

コレットの街で使い道があります


と、万能さんからも提案がありました

この子、何か扱いが厄介そうなんですけど


いざとなったら私が預かります


そうですか。

大人しくしてくれ無いから、お任せします。

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