第91話 捕まってみた
「帝室の紋章は、帝室の人間の個々一人一人に専門の紋章が与えられ、それぞれに居場所を確認出来る精霊の祝福がかかっています。」
姫さんが言うところでは、そう言う事らしい。
魔法の一種なのだろうか。
魔法という概念が存在しない世界です
あくまでも自然現象を利用した仕組みと言う事ですね
万能さんが解説してくれる
気のせいか、万能さんに怒りを感じるな
その内、意味が分かります
そうですか。深く突っ込むのは止めておいた方が良さそうですね。
では、姫さんを先頭に前進を開始します。
姫さん。私達に人質になっている訳でなく、なんとなく打ち解けて道案内をしている体で行きますからね。
「旦那様、演技と言う物が私苦手です。」
「帝国皇女ならば、政敵相手に虚々実々の化かし合いの一つもしてるでしょ。」
「傀儡帝室の第四皇女なんかただの道具ですわ。そんな事した事ないです。」
「そんなんで軍の指揮官務まらないでしょ。」
「東部方面軍創設以来最初かつ最大の敵は旦那様です。」
「やあ、それは困った。」
こんな雑談が、自分達の指揮官と、敵とされる私達との距離感を錯覚させる訳です。
「さてミズーリ。どうしますかね。」
「何か打ち上げ花火を準備した方が良いわね。」
「私達に手を出すとタダじゃおかないぞと。」
「そう、それ。」
「加減が難しいんだよな。何やろっかな。」
「?。旦那様ミズーリ様、何を為されるんですか?」
「力の差を見せつける方法を考えているんだ。前にキクスイで派手に脅かしたら、正規軍がショックで全滅した事があってね。」
「…ま、まあ。今更旦那様が何しようと驚きませんわ。呆れるかも知れませんが。」
「やったのは私じゃない。ミズーリだよ。」
「ミズーリ様は旦那様より容赦無いですわね。」
「何言ってるのよ。昨日の雨と火と矢だって私が彼らの精神崩壊を制御したから、物理的に戦死した人以外は今日ここにまた攻めて来れてるのよ。ミクだって、私達と旅する様になってたった2日で随分逞しくなったでしょ。」
そうなの?
トール。私だって女神の端くれ、色々考えているんだからね。
「そう言えば、そうですね。ミズーリ様には知るには早すぎる事まで沢山経験させられたので、なんかもう怖い物無くなりました。」
「君達は何をしているんですか。主にお風呂で。」
「ほら、ミクの顔が真っ赤になったわよ。知りたいなら今夜一緒に入る?大歓迎よ。」
「ちょ、ちょっとそれは、まだ恥ずかしいです。」
「まだ、って言うあたりが本音ダダ漏れよね。さすがむっつりミクちゃん。」
「〜〜〜」
「あれ?反論出来ないみたい。」
などと、いつも通りにグダグタと歩いているうちに、森から道に出ました。
踏み固められてはいますが、整備が行き届いている訳ではない杣道です。
「馬や攻城兵器が通れる幅はありますが、基本的には杣人しか通らない道です。年に数度、軍も人を出して草刈りなどをしていますが、国として予算を出して整備している訳ではありません。」
姫さんが解説してくれます。
森の人は姿を消していますが、肩に重みを感じます。
敵さんも私達に追走していますが、今は手を出す気配は有りません。
「このまま、硬直状態維持かしらね。」
「かもな。姫さんの見解はどうなのかな?」
「この先に追分があり、若干ですが広場が出来ています。仕掛けるとしたら、まずそこだと思います。」
「ふむふむ。姫さんに一つ問う。」
「はい。」
「君達は火薬という物を知っているかな。」
「なんですか?それ。」
「何種類かの薬品を調合する事で爆発を引き起こす道具の事だ。」
「爆発?爆発ってなんですか?」
マジか、前世では7世紀には利用されていたはずだけど。この世界の文明レベルがわからない。
爆発という現象すら知らないのか。
「トール?派手になり過ぎない?」
キクスイのエドワードでは、ミズーリの威力0光学魔法で全滅してしまった虚弱人間達ですからね。気をつけないと。
「音だけ、煙だけ。私の国には便利なおもちゃがある。それを一つ作ってみよう。」
子供の頃の思い出と、知識を万能さんで補いながらコヨリを丸く結んだネズミ花火を取り寄せた。
鎌倉時代は元寇の時、ただの焙烙で鎌倉武士がパニックになったという伝承がある。
ミズーリには精神制御をして貰うけれど、これをちょっと試してみよう。
そうこうする内、剣を抜いた万を超える兵が私達に近づいてくる様になった。
手出しこそして来ないが、少しずつ少しずつ間合いを縮めている。
左右、後方。前は一応空いているが、この先待ち伏せしているのは間違いない。
やがて追分の空間に入る頃には、私達から歩いて10歩のところに兵が密集する様になった。
息苦しい。
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