第59話 嵐の後で
昼を迎えて雨は小降りになったが、うちの女神は、居眠りしているチビの隣で寝転がり、その居眠り姿をうっとりと眺めている。
一応、多分、もしかしたら、君を天界に帰す旅を私達はしている筈なのだが、当の女神にそんな気は更々無さそうだ。どうしてこうなった?
私にだってしなければならない事は沢山あるのだろうけど、とりあえず今は飯だ。
よく食べ、よく寝て、よく戯れる。
そんな一生懸命な不真面目さも私達だ。
昨日、牡蠣鍋でミズーリが豆腐が美味しいと呻いていたのが参考になったのでアレを作ろう。
中華鍋で挽肉、豆板醤、甜麺醤、ニンニクを炒めて、中華スープを注ぐ。一煮立ちしたらサイコロ状の木綿豆腐を入れて、水溶き片栗粉でトロミをつける。豆板醤と甜麺醤を用意する事が一番面倒くさい、作り出せばあっという間の簡単な麻婆豆腐の出来上がり。
付け合わせは、ほうれん草のお浸しと玉子スープ。少し辛めに作ったので冷たい烏龍茶をたっぷりと。
知らないうちに復活したミズーリが席に着いていた。チビには半生ドッグフードを出してあげる。
「辛い。美味しい。辛い。美味しい。辛い。美味しい。辛い。美味しい。」
賑やかな子だ。この子は私には感情を一切隠す事をしない。全部素直にぶつけてくる。
「うひやあひ。」
騒がし過ぎて心配になったかチビに足を舐められたミズーリが間抜けな声を上げる。
「どうしよう。チビにまで開発されちゃったらどうしよう。」
こういう人が家族だからチビも早く慣れなさい。
ワン
さて、雨が小降りになったら、傘をさして王都に向けて出発だ。
チビは家に収納しておくつもりだったが、ミズーリが抱っこして連れて行くと駄々をこねたので、飽きるまで出しっぱなしにしておく事にした。
思春期だったり、愛妻だったり、お子様だったり、この子の年齢設定が最近さっぱり分からないぞ。
二人並ぶといっぱいになる農道は、普段から踏み固められているから問題はないが、傍の農業用水はかなり暴れている。深さがわからないのでミズーリの肩をしっかり抱いてゆっくり歩く。チビはさっさと甘え寝に入っている。
地図と見比べた結果、王都まであと4日弱と言ったところ。そりゃ2日ものんびりと観光してたし、おまけに訳の分からない人外の人沢山に絡まれてたし。
「来たわ。」
人外だけじゃ無く正真正銘の人間にも絡まれる様だ。
「雨降りなのに元気よね。殺気満タンよ。」
「チビ。ハウス。」
ワン
チビは私の胸に飛び付くと消えていった。
ケージに戻って、楽しみにしていたお芋さんをかじりだすのだろう。
さてと。殺気持ちで私達の敵であるなら好きにさせてもらうかな。
「動きに統一感が無いなぁ、兵隊じゃなくてゴロツキの方かな。」
天狗のおじさんの方か。
「数はざっと400人。」
「こないだの正規兵より多いんだ。」
「メンツ潰されて組織のメンバー全員投入ってとこかしらね。」
殺気だけプンプン漂わせ出るけど、姿は私には肉眼ではまだ何も見えないんだよ。ミズーリが言うには1キロは離れているそうだ。
そりゃそんなに離れていたら組織的行動もまだ取らないだろう。よくこちらがココに居るって分かったな。
「のんびり金山観光してるし、スパイが居れば連絡行くでしょ。」
まぁね。でもま、敵ならちゃっちゃと片付けよう。
見えないうちに処分しちゃえばストレスにならないし。
「どうすんの?」
「こうする。」
右手をチョップではなく単に手のひらを外向きで振った。邪魔なものを掻き分けてどかす仕草。ヒョイ。
「アララ、結構な数の人が消えちゃったよ。トール?何したの?」
突風が吹き飛ばしました、という体で。
「邪魔だからどいて貰った。消えたんじゃなく、どこかに飛んでった。」
「……どこに?」
「……さあ?」
味方の半分が突然蒸発したせいで、天狗のおじさんがパニックに陥っていると万能さんが教えてくれた。ならばもう一振り。
「そして誰もいなくなった。」
アガサは私も赤い文庫は読破しましたよ。
そんな事より、もっと大切な事をしよう。
「チビ出ておいで。散歩しよう。」
ワン
チビはお芋さんを咥えたまま出てくる。
「待って待って。今更ながら何が何だかさっぱり分からない。何やったの?」
私達にしては本当に今更ですが、簡単に言えば万能さんの力で400人を1キロ手前から突き飛ばしました。裏拳で。というか手の甲で。
万能さん曰く、障害物に当たるまで一直線に身体を水平にして飛んでるって。
アメリカのカートゥーンみたいだ。
この先に丘があるから、そこまでそのまま第一宇宙速度で飛んでいくだろうってさ。
「誰かに当たったらどうすんの?」
「一面見渡す限り、雨が降ってる畑だし。まぁ多分。」
大丈夫。全員無事に丘に到着してぷっ刺さってる(何とは言わない)と、万能さんが確認しました。
さすがのミズーリも呆れっぱなしですけど、チビを手渡したら大人しくなった。
チョロい。
ワン(チョロい)。
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