第55話 のんびり観光したいのに

宣言通りの時間にミズーリが起きたので旅を再開する。

間もなく踏み固められた街道と、そう多くは無いが人の姿が見えてくる。川と街道は丘陵地に入っていく。川沿いを散歩しに少し森に入った親子連れ。手を繋いでそんな体で街道に乗り込む。観光地の入り口という事もあり、皆特に不審に思う事はない様だ。

木々に囲まれ、川は大した広がりも深みも見せないまま少しずつ緑が濃くなっていく。

ミズーリだけで無く子供の姿も散見できる、ちょっと驚く。

「山の反対側出口に宿場町があるからね。」

なるほど、敢えて全てを先送りにしたせいでそこまで確認しなかったな。

水底はやがて浅くなり心地よいせせらぎに変わる。渓谷というから川が作った渓谷かと思いきや、片側の山に緑が消えて岩場が見えている。

「これからしばらく岩壁が続くの。だから金鉱脈の露出が見つかったんだけどね。」

なるほど。川では子供達が遊ぶ姿が見える。

これは確かに気持ち良さそうだ。

ミズーリもするか?

「私が水着になると身体のラインが中途半端なの。変態男には食いつかれるし、トールはちっとも食いつかないし。」

そりゃあね。

「少しは食いつけ。いくらでも据え膳になるのに。お待ちしてるのに。なんなら今すぐにでもお家出せばいつでもOKよん。」

食べませんよ。

「食えよ。」


しばらくすると、せせらぎの音が大きくなった。滝が近づいた様だ。

見えました。

ちっちぇ。人ひとり分の高さもないなこれ。

郊外にある自然公園みたいだ。まぁ川も浅い小川のままだしなぁ。水量だって小川のままだし。金山の川って事は、佐渡みたいに砂金が取れるんだろうか。

「この滝の下に昔の坑道が走ってて、落盤したのね。砂金も取れる。川下の宿場町では客寄せの産業になってる。行く?」

私達の財産♾だし。砂金を見つけても大したリアクションを取らない気がする。

「ほらあそこ。」

ミズーリが指差すところを見ると、丘の中腹に穴が開いている。坑道入口跡という訳か。

あ、見えませんよ。

「誰かいる。」

だから私には見えません。

「でも、他の観光客は見えていないみたい。他の人は何も言ってない。」

はい、私にも見えません。女の鬼の人とか見えません。星明子ポーズで私達を見下ろしている姿とか見えません。

「なるほど、あれがトールの不倫相手か。」

「ミズーリさん、あのね。」

「トールは放置するんでしょ。」

「敵対してないからね。どちらかと言うと助けを求められたから。」

「あれも保留した案件な訳だ。」

そういうこと。

「ふむ。…トールさん。」

なんだい?

「浮気は人外までなら許します。」

いきなり何言ってんのこの子。

「子供を作らないなら、それは甲斐性という事で。人外なら妊娠出来ないし、出来ても認知しなくても大丈夫そうだし。」

随分と理解のあるお嫁さんですね。(棒)

あと、私には万能の力があるんだけど。

なんとでもなっちゃうんだけど。


折角だから足だけでも浸かろう。この辺りは水流があるせいか水も綺麗だ。

なんやかんや言いつつ、ミズーリも嬉しそうにはしゃいでいる。

わざわざ白い帽子を被り、スカートの裾を右手で絞っている。ミズーリ的に題して「お嬢様と水の戯れ」だそうだ。


直ぐ近くで同じく水遊びをしている親子がいるのだが、少し気になる事を言っていた。

曰く、「水が澄んでいる。こんなに水が澄んでいたことは生まれて初めての事だ。」

偶然だよな。私達とは関係ないよな。

関係したくないなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る