第33話 全滅

それはエドワード領主からの依頼だった。

シュヴァルツ領の組織が潰された。

これはまだシュヴァルツ家も知らない秘密事項である。私達が知る事が出来たのはまさに僥倖。たまたま密偵が近くに居たから分かった事だと言う。

数日前、いつもの仕事をする為に組織は小日向の町と図り、その日宿に泊まった親子連れを標的とすると決めた。実行部隊は深夜に宿に突入した。それを見届けた連絡係が馬を走らせる。ところがその日、誰もアジトに帰らなかった。状況を調べる為再び連絡係は小日向の町に戻った。そして知った。逃げた。後に密偵が連絡係を見つけたのだが、震える連絡係から分かった事は大してなかった。

エドワード家の密偵はその直後、小日向の町を訪れた。そして見た。住人は全員狂っていた。ある店の前で頭を潰した男が死んでいた。密偵は顔を知っていた。シュヴァルツ領の組織の男だと。

だから組織のアジトに顔を出して見た。そこにあったのは、アジトを形成していた古城の岩と肉塊が混じり合って潰れていただけだったそうだ。

土地と人を治める者には一つこだわりを捨てないとならない。我々、組織との付き合いだ。どんなに正義感に溢れた名君であっても悪を撲滅する事は出来ない。

そのかわり、悪を管理する。我々の様な組織を見逃すかわりに、我々は犯罪者を管理する。だから密偵は我々とも近しい関係となる。

王家に最も近しいエドワード家は国内統治の為、密偵を全国に放ち情報を管理する権利と義務がある。

だからこそ、エドワード領内で活動する我々に声がかかったのだ。

その親子連れを見つけ出して連れてこい。生死は問わないと。


居場所は直ぐ分かった。銅鉱山との通信を請け負う商人から連絡が来たからだ。

西の元街道で親子連れとすれ違ったと。

国内を仕事で移動する者には別の任務がある。旅人の管理だ。キクスイ王国は技術を売る国だ。戦争は決して強くはない。

それだけの戦力を持っていない。そのかわり王家が握っているのが情報なのである。

任務はエドワード領内で行う事にする。シュヴァルツ家を無駄に刺激する必要はないからだ。当代シュヴァルツ伯は名君の呼声高い。

エドワード家としても揉めたくないのだ。

親子連れが通るであろうコースに刺客を配置した。念には念を入れ3箇所に分け、逃げられない様に見つけられない事がない様にだ。

しかし、その日誰も帰って来なかった。

馬を走らせた。直ぐ分かった。

3隊全員殺されていた。何故か全員左足首を切断されていたと言う。なんだ、何か合図なのか?更に分かった。親子連れはスタフグロの一番高い宿に泊まっているという。

躊躇は無かった。我々の組織も既に壊滅的打撃を受けているからだ。

ここで依頼を完遂しない限り我々も終わる。

別にエドワード家が管理する組織は我々だけではない。

我々は残った者全員で夜襲をかける事にする。そして分かった。全て分かった。

何故なら今我々の頭上に何かとんでもない圧力がかかっている。何かは見えない。

かと言って逃げる事も出来ない。

我々は全員左足首を切断されているからだ。まもなく我々は全員潰された。骨は砕け内臓は破裂した。だが、我々の敵は見えない。

我々は何も分からないまま死を迎える。

我々の組織も全滅したのだ。

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