第32話 やっと着く

石畳の街道に出る。片側二車線の広い立派な石畳だ。ローマ街道よりも立派だろう。

人通りも常に散見出来る。この世界に来て初めて見る往来だ。

ミズーリと手を繋ぎながら端をゆっくり歩いていく。

さすがに人通りのある街道に不埒な悪行三昧はいないか。

ただ今までとはちょっと違うのは空模様が怪しい事。ミズーリ曰く、この国は常春の国で天候は安定しているけど、雨も結構降るわよ。

内陸なんだから雨は大事なの。とか。

ようやく街が見えた時に降られ始めた。

「傘の品質はどこまで許されるのかな。」

「無いわよ。」

はい?

「雨は大事だから濡れるのがこの国の人達。」

確かイギリスだったか、傘を持つ習慣が無い国があると聞くが。

「だからどうせどんなレベルでも理解出来ないわ。ビニール傘とかでも。」

何だ。番傘でもさしてみようと思ったのに。

ならば、超性能ワンタッチ撥水傘を二つ、二つ…

「ありがとう万能さん。愛してるわ。」

一つだけ出して相合い傘にしろと。うちのお嬢さん、濡れるのは嫌だわと腰にまとわりつくので歩きづらいんですけど。ニコニコしながらグイグイ来るんですけど。

あと万能さん気を回し過ぎ。


本降りになる頃にはスタフグロの街に入れた。街中でバンガローを出す訳にもいかずこの街の宿屋を調べる。

「6軒あるわね。商人用の木賃宿から超高級なホテルと言っていいレベルまで。」

ふむ、どうするかな。

「木賃宿はやめましょう。セキュリティとプライバシーが保たれそうにないもん。」

その通りだが、私達が女神と異世界人だからミズーリの言葉に違和感が凄まじい。

「最高級ホテルにしましょ。どうせお金なんか使い切れないんだから。」

だよね。

「最高級のスイートルームを素泊まりで。」

なんで?

「女神たるこの私に、トールが作ってくれたもの以外を食べろと?」

君のスタンスがよく分からない。

お金の力は凄いもので、得体の知れない親子連れでも前払い、チップも弾んでみたら

ウルトラスイートルーム。お風呂も寝室も二つずつある広い部屋を借りる事が出来た。

「見て見てトール。お風呂よお風呂。」

お風呂も広いので、一緒に入りたいなぁとミズーリがねだって来たが、何しろ私の気持ちに準備が出来てない。女神の全裸は秘所も含めて散々見せつけられたが、私は特に筋肉質でも無い普通の若い男でしかないのだ。アラサーからはかなり若返ったらしいけど。

「ごめんなさい。」

「何かしらこの振られたような気分は。やはり早く既成事実を作るべきなのかしら。でもまだ子供は作れない。どうしよう。」  

君、今朝の告白もう忘れたの?


さて、高級ホテルで素通りとはあいも変わらず滅茶苦茶だね。

ふむ、前世でそんな高級ホテルに泊まった経験は殆ど無い。会社が夏冬の長期休みの時期に保養施設として提携契約するホテルくらいだが、何しろ私は独身だからなぁ。

何食べたっけ。朝はバイキングだったのだけは覚えてる。うん、カリカリベーコン美味しいよね。とにかく高いものか。なら、あれだ。だが、日本人ではないミズーリが食べられるかどうか。

「ミズーリさん。」

「はい。」

「お寿司はいかがでし

「お待ちしておりました。」

食い気味だ。

「SUSHI!トールが握ってくれる。待ってたの。食べたいの。嬉しいの。」

しまった。のののが始まった。軌道修正軌道修正。

「な、生魚ですが大丈夫?」

「納豆を美味しく頂ける私に不可能はないわ。」

ですか。では万能さん。寿司ネタを。

マグロは赤身、中トロ、サーモン(美味しいからね)エビ、イカ、えんがわ、いくら、コハダ(渋い)、卵焼きが用意されたので

赤身は握りと鉄火に、いくらは軍艦に、他のネタは普通に握りで。サビは大丈夫ですか。

少し渋めの緑茶を大振りの美濃焼で置いておきます。

ンーンー。ンーンー。

久しぶりに出ましたね、その声。

コラ、人を叩かない。抱きつかない。泣かない。落ち着いて食べなさい。


それでも同じベッドに入る事は変わらない。

いつものベッドと違い鎮静作用がないので、自然に眠れるのを待つしかない。

でも私達は疲れる事が出来ないのです。

「いつもね。私は恥ずかしくてわざと直ぐ寝ちゃうの。分かってるの。貴方の隣なら起きてても寝てても私は幸せだから。でもね。」

ピロートークと言うのは初めてですね。

「いつもどこかで期待してるんだよ。私はいつでも大丈夫だからね。」

真面目に告白されてもなぁ。一応、私の性癖はノーマルだから。

「だから私頑張る。あの小さな女の子から直ぐここまで大きくなれた。貴方は私と一緒に歩いてくれるって言ってくれた。貴方が私を欲してくれるまで。」

ここで口調が変わった。

「私達を邪魔する存在は全て滅ぼす。」

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