第30話 スタフグロの街へ(ヒント着かない)お
人の首筋に額をつけてムニムニ言ってるミズーリを起こさない様にそっとベッドから離れる。昨日は純和風旅館朝食だったから、今日は洋食にしよう。ならばパンか。
トーストにしようかサンドイッチにしようか。なんとなく決めかねていると目の前に耳を落とした食パンが2斤現れた。
野菜を食べましょう。沢山食べましょう。そんな意思が感じられたのでそうします。
やりやがったな万能さん。
確かにカレー、ラーメンと脂っこいメニューが続いたけど。続いたけど!
肉はハムだけ。マヨネーズたっぷりの茹で卵、レタス、トマト、きゅうり、さてあと何挟もうか。あ、飲み物はどうしよう。牛乳が現れたんですが万能さん。冷たい牛乳は大好きですが、パンチが今ひとつ無いメニューだな。
ぽん!手を叩く。
コーヒーだ。私が前世でも良く飲んでいた安っぽいコーヒーメーカーが欲しい。
イメージする暇もなく、あの懐かしいコーヒーメーカーとキリマンジャロの袋(私の使いかけ)が現れたので早速入れる。
その懐かしい香りに起こされたお子様が目を擦りながら私の名を呼ぶ。
こんな平和な朝は中で調理してお子様が起きるのを待つ。そんなのも良いな。
卵マヨネーズに予想通り定番通り大騒ぎをしたミズーリだが、意外な事にコーヒーに興味を持った。それもブラックに。
大人の私が万能印の牛乳に興奮していたのに。逆では無いだろうか。
「トール。また深いわ。」
まぁ、ラーメン以上に深い世界ですから。
「私が飲みたくて出したものですが、牛乳と糖分を加えてカフェ・オ・レにして下さいね。大人でも胃を痛める人居ますから。」
「はい。」
おや、ミズーリが姿勢を正した。素敵女子モードの始まりですね。わかりますよ。
素直な女の子は好きですよ。あと下ネタに行かなければ尚ヨシ。
「昨日の今日なのでそれは反省しました。それと。」
それと?
「一緒に寝ていてトールから楽しいって感情が伝わってきたの。初めての感情で私も凄く楽しく幸せになりました。幸せな夜だったのに、朝起きて貴方が隣に居なくて、そしたらそばでご飯作ってて。ホッとしたのに胸が痛くて。私は貴方が楽しいと思っていなかった事に気が付きませんでした。女神失格です。」それは違うよミズーリ。
「昨日からこの家に色々な細工を始めたり、色々な娯楽が無い事に気がついたりしたけど、それはやっと私に余裕が出来たからだ。私にやっと覚悟が出来たからだ。ミズーリがどうしたくてどうなるか。私にも分からない。でも私達は二人で行く。その内様々な事が起こっても私達は乗り越えていくよ。分かる。力尽くかもしれないけど。」
「トール様!」
ミズーリがしがみついて来た。ガチのトール様頂きましたけど、大丈夫?
あらあら、泣いちゃった。
私は推理小説を読んでいただけなのに。
一瞬の出来事でした。
ミズーリがウヒヒヒヒって笑い出すけど、ウヒヒヒヒって笑う人初めて見たな。
昨日のキャンプ地を出発して直ぐ、まだ大して歩き出してもいないのに、私達は囲まれた。
黒づくめに黒覆面。天狗のおじちゃんが計12人。
一瞬とは、しおらしく私の手を握って歩いていたミズーリが豹変するのを見てた時間の事。
「さっきのも私。これも私。トールもそろそろ女の奥深さを思い知りなさい。」
確かに女性との付き合いはそんなに豊かではないけど、ウヒヒヒヒって笑う女性って目の前の女神以外いるのかなあ。
もっとも目の前にいる集団もヘッヘッヘッヘッてわかりやすく悪党笑いしてるんだけど。
覆面してんなら笑わない方が格好がつくと思うのに、笑い声が下っ端感満載。
久しぶりの殺戮タイム?朝からやだなあ。
「考えた?」
「何を?」
「血を出さない方法。」
「一応。」
斬りっぱなしにしなければ良いだけだし。
などと軽口を叩いていると私達を囲んでいた男たちが斬りかかってくる。
殺気だけでなく正当防衛成立。相手は何者か分からないけどとりあえず右手を振り回す。
瞬時に全員の左足首を切り落とすと、右手をヒョイと上に上げる。
出血の前に切断面は塞がり、足を切り落とされた覆面達は激痛で泣きながら転げ回る。
あ、ショックで死んじゃった人がいる。
というか死んじゃう人の方が多い。
難しいなぁ。あと弱いなぁ。
「別に全員殺して構わなかったのに。」
「一応、理由を聞きたかったから。」
でも男達からは大して聞き込めなかった。
上に親子連れが通るから始末しろと言われたとだけしか誰も言わない。上って誰?って聞いているうちに痛みのせいか生きている人もみんな目付きと言動がおかしくなってしまう。
「私じゃないわよ。」
聞いてない。けどまぁいいや。ある意味見せしめのもため左足首の無い集団を転がしたまま先に進む事にする。
あーあ、二日間平和だったのに。
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