#03 高校進学と和解






高校への進学は、最初高梨と同じ高校に行くつもりで、自分の学力からは低いランクの高校を志望していたが、その必要が無くなり、学力に合った高校へ志望を変更した。


同じ中学からはその高校を志望したのは僕以外に一人だけだった。

その一人が誰だかは知らなかったが、受験日に受験会場の高校の教室でその人を見て愕然とした。

もう一人は森田ミワだった。



僕も森田ミワも、その志望高に合格した。

1年は別のクラスになりホッとしたが、登下校時の電車はよく一緒になり、とても気まずい思いをした。


高校は地元から電車で駅3つ離れており、駅で電車が来るのを待っていると、後から森田ミワが表れることが何度もあった。


同じ車両になると、僕はわざと車両を移動したりして、視界に入らない様にしていた。



高校では、森田ミワ以外のことは順調だった。

部活には入らず帰宅部だったが、放課後教室に残って友達とお喋りをして時間を過ごすことが多かった。

クラスメイト達からは男子も女子も「アカリちゃん」と女の子のように呼ばれるようになった。

以前は女みたいな名前にコンプレックスがあったが、高梨が「アカリ」と呼び捨てで呼んでくれるのが嬉しくて、いつの間にかコンプレックスは無くなっていた。


同じ中学出身が居ない高校で、親しみを込めてアカリちゃんと呼ばれるのは、正直嬉しかった。

次第に他のクラスでも、女みたいな名前で呼ばれている男子として、ちょっと有名にもなり、クラス以外でもよく話しかけられる様になった。


森田ミワも美少女ということで相変わらず人気で、同じ中学出身ということでたまに森田ミワのことを聞かれたが、正直に『俺は森田に嫌われてるから、何も言えん』と答えた。





そんな風に高校1年の1学期を過ごし高校生活に慣れていったが、1学期最後の終業式の日に初めて森田ミワから話しかけられた。

正確には、帰ろうとしたら昇降口で待ち伏せされ捕まった。


何言われるのか怖くて戦々恐々としたが、森田ミワは機嫌悪そうにしながらも「話あるから、一緒に帰ろう」と信じられないことを言い出した。

冗談が言える関係でも無いし、拒否出来る空気でも無かったので『わかった』と一言だけ答えた。



学校から駅までの道は、お互い無言でトボトボ歩いた。

駅のホームに上がると、電車が出たばかりで人が少なく、沈黙が辛くなってきていた。

話があると言われたが何も話してくれないし、どうせ罵倒か嫌味だろうと思い、先手を打って謝ることにした。


『森田、中1の時、みんなの前で恥かかせてごめん。今更謝られても許してもらえないだろうけど、反省してる・・・』


いきなり話しかけられ、森田はビクッとしたが、喋ってくれた。

「ずっとムカついてた。みんなの前で恥かかされたことだけじゃなくて、イクミが仲良くしてるのも気に入らなかったし、それが原因で彼氏と別れてるのに、イクミと三上付き合いだすし・・・ムカついて仕方なかった」


『・・・・』


「でも、イクミに引っ越す前に話したいって言われて二人で会ったら、物凄い怒られた」

「アカリを恨むのはいい加減にしろ、私はアカリと離れたくないのに別れたくないのに、それでも諦めなくちゃいけないのに、何でミワちゃんは近くに居られるのにアカリを目の敵にするんだ!って泣きながら怒られた」

「それでも中学の間は素直に三上のこと見れなくて、あんなにイクミに怒られたのに許すことが出来なくて。でも高校が同じになって、私も三上も同じ中学の友達が全然居ないのに、三上はどんどんみんなと仲良くなってくの見てたら、今更になってイクミが言ってたことが理解出来るようになった」

「イクミいつも言ってたの。三上は本当はいい奴だ。面白いんだよ。ホントは陸上部のレギュラーだったのに、事故でケガして続けられなくなって、それでもイジけずに明るく振舞ってる強い男の子なんだって」


『高梨・・・』


「三上、私の方こそ今までごめんなさい。三上が私のこと避けてるのは知ってる。学校でも私に嫌われてるって言ってるのも聞いた。私も今更だけど反省してる・・・」


『いや、俺は森田に嫌われるようなことした自覚あるから、謝ってもらうことじゃないよ』


「ううん、酷いことしてた。みんなが三上のこともっと嫌いになればいいのにってイジメみたいなことばかりしてた。本当にごめんなさい」


『う~ん・・・とりあえずさ、もう俺のことは嫌ってないってことでいいのかな?』


「うん・・・出来れば普通に話しできるようにしたい」


『判った。これからは話しよう。多分、高梨もそのほうが喜んでくれるし』


「うん、判った。ありがとう」


そこまで話したら電車が来たので、二人で一緒に乗り込んだ。

電車の中ではぎこちないながらも、高梨の思い出話を二人でした。


地元の駅に着いたら、「ハイさよなら」は冷たいと思ったので、森田の家まで送って行った。


森田の家に着くと、森田が「連絡先交換したい」と言ってくれたので、スマホを取り出してお互いの連絡先を教え合った。



夏休みに入るとすぐに、森田はメールをくれるようになった。

たまに電話もかかってきた。

「今なにしてるの?暇だったから電話してみた」とかそんなのばかりだったけど、僕が休みの宿題をする為に昼間地元の図書館に入り浸っていることを教えると、森田も図書館に来るようになった。


午前中から図書館で落ち合い二人で宿題をしたり、休憩スペースでお喋りしたりして過ごした。

最初の頃は昼ごはんは、近くのマックに二人で食べに行っていたが、その内お金が勿体ないし僕の家が近いからということで、ウチで僕が昼ごはんを作って二人で食べて、午後また図書館に戻って宿題の続きをする生活が続いた。


夏休みほとんど毎日一緒にいたせいか、お互いを「アカリ」『ミワ』と呼び捨てで呼ぶ様になっていた。

ミワは僕のことを異性としてどう見てるかは判らなかったけど、僕はここまで仲良くなっていても、ミワのことを恋愛対象としては見れなかった。


ぶっちゃけ、1年経っても高梨のことが全然吹っ切れていなかったから。




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