3.心が躍るのです
今日の私はウキウキしています。心が躍る、とはこういう気持ちのことを言うのでしょう。
待ち合わせの時間は夕方なのにも関わらず、朝から気合を入れて早起き、念入りな洗顔、パックまでしてしまいました。朝ごはんにはトーストに目玉焼き、フルーツヨーグルトに、ストロベリーティーまで入れたのに緊張で少ししか手をつけられていません。
着ていく服は昨日の晩から決めていました。もう何十年も前に買った小花柄のワンピースです。特別なときにしか着ない、大切な服なのです。アイロンがけもぴっちりしました。シワひとつないワンピースに袖を通すと、背筋もぴん、と伸びた気がします。
メイクをしようとドレッサーの前に座ると、鏡には少しシワの目立ってきた白い肌がうつります。あの子と出会った時はこんなシワも無かったのです。私も、あの子も、もう随分と大人になりました。頬にぽふぽふとファンデーションを塗りながら、そんな風に想いを馳せていますと
「あら!」
あっという間に時間が過ぎていました。すぐに出掛けなければあの子との待ち合わせ時間に遅れてしまいます。なんということでしょう、せっかく早起きしていたのに!
残っている朝食をすべて冷蔵庫に入れて、慌てて支度を終えようとします。持ち物確認は欠かせません。携帯、お財布、はんかちにティッシュ、少しのお化粧道具、それからこれは私とあの子の特別な原稿たち。
玄関の前に置いてある大きな姿見で全身の身だしなみをチェックし、すぐに外に飛び出しました。
「急がなきゃだわ」
ジリジリと照りつけるような夏の暑さに、ワンピースもあたためられています。そろそろ夏も終わりなはずなのに、たくさんの蝉たちが鳴いているのも不思議です。しばらく歩いているだけで、だいぶ汗ばんでしまいました。
それから電車に乗り、通いなれた街の風景を眺めました。太陽にむんむんと照らされた学校の屋上プールがみえます。電車のなかから見える風景はいつもと違って面白い、とあの子が言っていたのを思い出します。
あの子はもう着いているでしょうか。あの子はいつも、誰よりも早く、待ち合わせの場所にいるタイプなのです。
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